事故でダメージを受けた福島第一原発が劣化
お盆休み明け。2024年8月19日、東京電力は福島第一原発に関する3つの発表を行った。3つを順不同で記録する中で、原発事故でダメージを受けた多号機の原発が同時進行で劣化していくとは、こういうことなのだと感じた。
2号機 燃料デブリ3g取り出し予定8月22日
1つは2号機の燃料デブリの試験的取り出しの着手について。必要な治具の使用前検査が8月16日に終了したとして、8月22日、朝6時から始めるという。
ただし、デブリから20cm離れたところで線量を測定、24mSv以下なら取り出すが、24mSv超なら原子炉に戻す(既報した通り)。
22日の予定は「燃料デブリポータルサイト」を開設したという発表のついでに、東電が「口頭」で行ったものだ。
2号機 使用済燃料プール水がどこからか漏水
1つは、同じ2号機で起きている原因不明の漏水について。原子炉の横にある使用済燃料プールには、事故前に使われた615体の核燃料が残置され、注水冷却が続いている。注水で溢れた水は、プール脇の「スキマサージタンク」2基に流れてく。つまり、使用済燃料プールで冷却ができていることを確認できるのがスキマサージタンクだ。
8月9日発表
そのスキマサージタンクの水位が、8月9日に低下したと発表されたのが10日。しかし、使用済燃料プール自体の水位は低下していないこと、プール水の温度は34.5度で、注水を停止させても65度に達しないことの発表があった(水温は65度以下に保たなければならないのだ)。
8月13日発表
続いて8月13日、原因調査のために注水を止めて、遠隔操作ロボット(SPOT)で、調査したところ、原子炉建屋内のスキマサージタンクの下、3階にあるポンプ室/熱交換器室から水が流出し、3階床面の排水口から地下にある原子炉隔離時冷却系室へ流れていることが確認されたと東電は発表した。
8月19日発表
そして、お盆明けの会見。情報が少し更新された。
・使用済燃料プールにはなかった水位計と水温計を取り付けたこと
・ポンプ室/熱交換器室内の空間線量を16日に9ヶ所で測定すると0.60~3.16mSv/hだったこと、17日に13ヶ所で測定すると2.03~22.0mSv/hだったこと
・2019年には最大120mSv/hの高線量が測定された箇所がそばにあり、今回は、支障(配管)があってロボットが進めず、その手前で測定を行ったこと
などだ。
スキマサージタンクは空であることも口頭で説明があった。いくつか質問を行ったので記録をしておく。(Q:筆者 A:東電広報)
Q: 原因は特定できていない?
A: 3階からだが、具体的にどこかは確認できていない。
Q: スキマサージタンクからではない?
A: スキマサージタンクからではなく、その系統である(つながっているという意味)ポンプ室、熱交換室から漏洩が確認されているので、配管もしくは機器等から漏れていると考えている。
Q: スキマサージタンクではないと否定できている根拠は?
A: ロボットで水が流れているのを確認しているので。
Q: ロボットでいずれは漏れている箇所を確認できるのか?
A: ロボットで線量が確認できたのでこれから調査することになる。スキマーサージタンクに水を張って実際に水が漏れている箇所を特定する作業を計画している。
Q: ロボットはどこから遠隔操作しているのか?
A: 確認する。
Q: このあたりに遠隔集中監視装置「R*Time」という機器もあるが(2022年11月10日東電が原子力規制委員会に出した資料「福島第一原子力発電所1号及び2号機使用済燃料貯蔵槽の水位に関する緊急時活動レベル判断基準の妥当性について」)それは機能しているのか?
A: 確認する。
Q: 使用済燃料プールの南側に水位計、水温計をつけにいったのは人間?線量は?
A: 人がアクセスできるが、決して低いわけではない。
Q: 漏洩箇所がわかったとしてその後はどうなるのか。
A: 補修できるかの検討、もしくは代わりの冷却手段を検討することになる。
Q: スキマサージタンクの材質は金属?
A: 鋼材。配管や機器は金属、接続部にはパッキン。バルブも金属。
Q: そうすると漏れの原因は、金属の腐食か、パッキンの劣化か?
A: 機器・配管が穴が空いているのか、接続部が漏れているのか、今の時点ではなんとも言えないので、調査で明らかにしていければと考えている。
なお、他の記者質問への回答で、以下のことも判明した。
・この水漏れは3階で起きたので、同2号機の燃料デブリ取り出しに支障はない。
・漏れた水の線量はセシウム137が6900万Bq/L、セシウム134が5万Bq/L。スキマサージタンクの高さは6.5m、水位が4m。2つで18m3入っていたものが抜けて空になった。
・水位計、水温計をつけにいったのは3人かける5班。
(どれも重要な基本的な情報だがリリースには書かれていない)
6号機 6月に発生した高圧線火災の原因
もう1つは、2024年6月18日に6号機建屋の地下1階の天井近くに敷設された高圧線(6900ボルト)がショートし、絶縁体もダクトカバーも焦げ、溶け、穴も開いて、消防が火災と判断した事件の調査結果について。
この火災で停電して、6号機の使用済燃料プールの冷却が停止した(10時間後に冷却再開)。事故から13年が経った現場で、使用済みの燃料にさえ、冷却のための水と電気が供給されなければ、どうしようもないのが原発だ。
6月時点では、以下のような驚きの事実が明らかになっていた。
・6号機は1979年から稼働しているが、この箇所は、施工以来、1度も点検したことがなかった。
・ダクト内で高圧線にひっかかった状態の金属片(40X3cm)が見つかったが、金属片が一体どこから来たものなのかがわからない。
この2ヶ月前に、別の高圧線騒ぎが起きたばかりだった。作業員が東電と関電工に指示された通りに作業をして、高圧線の管路をドリルで貫いて感電したが、東電は感電ではないと言い張った事件だ(既報)。「また高圧線か」と二重に驚いた。
原因調査を9月までに行うとしていたが、前倒しで結果を出したことになる。
約45年前の施工不良が原因
東電の研究所が調査を行ったとして、
・正体不明だった金属片は、建屋の建設時に仕様変更されて、本来は不必要になったスペーサー(隙間詰めのための部材)だった。もとは長さ53cmだが先端が溶融して、40cmになって見つかった。
・その不要な部材が高圧線(相非分割母線)のダクトに挟み込まれたため、ダクトに隙間ができ、湿分や塵埃が侵入し、絶縁物の絶縁低下が発生しやすくなり、ショートしたというのだ。
つまり「施工不良だということか」と尋ねると、「要らないものをつけてしまったということでは施工不良だ」とあっさりと認めた。1979年までに行われた施工不良が、45年経った今、火災の原因となったというのだ。
納得感を持てない調査結果
他にもこのような箇所がないのかと聞いたが、「6号機のタービン建屋の地下階には滞留水があり、空調が停止されているので、湿潤な環境になっている。相非分割母線が使われているのは6号機だけだ」という旨の回答が東電広報からあった。
釈然としない。会見後に、当時の施工業者はどこかと聞いたが、事故で「当時の資料が取り出せなくなっているから分からない」という。ではなぜ、上図のような仕様変更がわかったのか。何を見て、上図のような断面図や仕様変更前のスペーサーと仕様変更後の曲げ加工の図が描けたのだろうか。
1Fの会見では時々あるが、多くの発表が1度にドッと行われると、記者質問も関心も散漫になる。煙に巻かれたようで、納得感を持てない調査結果だと思いながら帰途についた。
ダメージを受けた原発13年の劣化
これらの発表には共通点がある。地震や津波や爆発でダメージを受けた、海辺に立つ原発施設が、13年間、劣化する中で起きているということだ。
2号機の使用済燃料プールの冷却水が系統のどこから漏れているのかを特定できるかどうかは不明で、補修できるかどうかも不明。
6号機は「施工不良」であると東電は言って幕引きを図ろうとしている。しかも、このようなことが起きたのは、相非分割母線という形態の高圧線が使われ、湿潤で空調が止まっている6号機だけだとして他の号機や発電所を調べようともしていない。
しかし、こうしたことが、他の号機でも起きないとの確証はないのではないか。
ダメージを受けた多号機原発の13年目。劣化は今後も加速する。それをどうすることもできないのは、高い放射線量に阻まれているからだ。
この事実を大半の人が知らずに過ごせてしまう日本の、貧しい情報社会をどうしたらいいだろうか、と最後は頭を抱えてしまう。
【タイトル画像】
東京電力 2024年8月19日「福島第一原子力発電所 2号機使用済燃料プールスキマサージタンクの水位低下に伴う対応について 」P3