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高浜原発4号機:ケーブル接続部の寿命を議論すべき

1月30日、高浜原発4号機(もうすぐ38歳)の制御棒が落下して、自動停止した件の続き。2月8日の取材ノートで「点検制度がずさんだったのか?それとも点検そのものがずさんだったのか?それらではどうしようもない老朽化なのか。検証が必要ではないか」と書いたことの続きだ。

結論からいえば

「はんだ付け」と「ろう付け」を含む6種の材料の接続部の劣化については、「物理的に」も「議論」の上でも全く検証されていないから、検証が不可欠だ。
○しかし、原子力規制委員会・規制庁および関西電力も、そこに問題が潜在していることを認識しながら、原因究明を避けていると、考えるに至った。
○検証の結果、老朽原発には点検ができない箇所(ケーブルの接続部)があることを認めると、現在審議中の、運転期間を削除する「GX脱炭素電源法案」に影響が出るからではないか。

どうしてそう思うのかをできるだけ簡単に説明したいと思ったが、以下、ご覧のように長文になってしまった。前半の流れは以下の通り。3月22日の原子力規制委員会は、「関西電力株式会社からの高浜発電所4号機原子炉自動停止に係る報告に対する評価」を議題とした。1)関西電力による原因と再発防止策が報告した内容を、2)原子力規制庁が「妥当」と評価し、3)原子力規制委員会が、その評価を「了承」した。後半が上記の結論につながる。

1)関西電力の「推定原因」と「再発防止策」

関西電力からの報告は、「推定原因」と「再発防止策」からなる。原子炉が自動停止したのは、核分裂を制御する装置である制御棒1本が落下し、飛び出してくる中性子の量が急減しことを中性子検出器が検知して、警報を鳴らし、残り47本の制御棒も皆、落下したためだ。

制御棒1本が落下したのは、制御棒に電流を送るケーブルの接続部が引っ張られて、接触不良が起きたからだと推定された。その原因は、別のケーブルの束(約90キログラム)が、建設時から覆い被さっていたからだと推定された。

関西電力が推定の過程で原因から落としたものが「老朽化」だ。「施工時に荷重がかからないように設置すれば発生しない」からだと書いてあるが、それは結果論だ。「ケーブル接合部に設計上想定していない引張力が作用し続けた結果」だとも書いてあるから、一種の経年劣化ではないか(と、筆者は最初はケーブルのことだけに目が囚われていた)。

関西電力株式会社からの高浜発電所4号機原子炉自動停止に係る報告に対する評価」2023年3月22日に筆者青マーカー加筆

関西電力は再発防止策として、
・覆いかぶさっていたケーブルの余分な部分を切断する。
・今後は、今回、接触不良が起きた場所(原子炉格納容器貫通部)のケーブルの点検・保守方法を検討して「保全指針」に反映する。
・ケーブル布設時の注意事項を「高浜発電所請負工事に関する心得集」に追記するとした。

2)原子力規制庁が関電の報告通り「妥当」と評価

原子力規制庁は、この原因推定と再発防止策を「妥当」と評価した。「なお」と最後に加えて、「関西電力は、高浜4号機の定期検査、これは本年12月から予定されていますが、そこで取り替える予定の別の接続部で取り出した部分とか、あるいは他の廃止措置中のプラントの同様の部分を用いた試験も実施して、知見の拡充を図るとしております」と代弁した。

つまり、問題の箇所を取り出さない。12月の定期検査の時ですら見ない。それを「妥当」としたのだ。あまりにも奇妙ではないか。資料には以下のようなイメージ図があり、「推定」するぐらいなら、取り出して「確定」すればいい。取り出さないという確固たる説明はないまま、原子力規制委員の議論が始まった。

「関西電力株式会社からの高浜発電所4号機原子炉自動停止に係る報告に対する評価」P.8

3)原子力規制委は、奇妙奇天烈な質疑後に「妥当」を了承

原子力規制委の中には「はんだ付け」に言及した者はいた。しかし、問題箇所を取り外しての検証は求めず、ケーブルの施工不良が原因であると、「推定」のまま結論づけた。その奇妙奇天烈な質疑の要所を抜粋しておく。

① 杉本安全規制管理官は「関西電力」を鵜呑み

田中委員「はんだ付け部に不具合を生じることが(略)本当にそうなのかというのがよく分からないところもあるのですが」
田中委員「ケーブルが覆いかぶさった状態というのは長い間あったのですよね。これは経年劣化事象であるとは言えない状態ではあるのですけれども」
杉本安全規制管理官「施工した状態からこのようになっていたと、長年ですね、それは推測できるし、そうであろうと関西電力も言っている(略)こんな状態にいつなったのかということは、これは分かっておりません」

3月22日原子力規制委員会議事録より抜粋

②杉山委員は根拠のない決めつけ

杉山委員「この問題は何だったのだといったら、やはり施工不良なのだと思います」「少なくともふだんの点検などでこう乗っている状態は見える場所ですよね」
杉本安全規制管理官「奥まっていてなかなかそこまで通常の目視では余りよく分からないとは聞いております」
杉山委員「少なくとも建設当初は、当然、状態は確認しているはずで(略)、問題がある状況だという認識がまずあったのかどうかということ。(略)これは改めて認識を持っていただかないと困る。(略)今までに見つからなかっただけという意味では、やはりこれは施工の問題と位置付けるべき」

3月22日原子力規制委員会議事録より抜粋

筆者の疑問:質問によって目視点検できないとわかった瞬間に、ケーブルの施工者の認識問題にすり替わって、「やはり施工の問題」と最初の結論に戻った。

③一度だけ垣間見えた「接続方式」問題

伴委員「ほかのケーブル類でも同様の構造というのはないのですか」
杉本安全規制管理官「接続方式には幾つか種類はあると聞いております」
伴委員「水平展開というのはどこまでを含んでいるのか」
目が泳いた杉本安全規制管理官に代わり、小野実用炉監視部門上級原子炉解析専門官「格納容器の貫通孔、同じようなケーブルの敷設については、30数か所、全体でございます」

3月22日原子力規制委員会議事録より抜粋

筆者の疑問:伴委員は一言も「接続方式」とは言わなかったが、杉本安全規制管理官は「接続方式」を回答。「接続方式」が念頭になければこの回答にはならないはず。伴委員は「ケーブルがこういう形ではんだ付けを伴って接続している」点を再質問するが、はんだ付けについては誰も答えず、ケーブルが格納容器を貫通している構造に関する回答で終始した。

④問題箇所はもう使わない

石渡委員「問題が起きたこの端子箱というのは、これはもう使わないということなのですか。それとも、これは修理して使い続けるのですか」
村田統括監視指導官「別の貫通部のところに振り替えをして使います」

3月22日原子力規制委員会議事録より抜粋

⑤取り外して確認することを「宣言」して?!

杉山委員「今回、はんだ付けの部分が外れたのだろうという推測で、この推測自体はかなり妥当だと思っています。ただ、やはりそれをどこかの時点で確認していただきたいと思っています。この貫通部分の部品というのは、当然、いろいろな認可を経て設置されたもので、では、すぐ外せというわけにもいかないとは思っています。ただ、その部品が技術的に外せないようなものかと最初は思ったのですけれども、次の定検では別の箇所、類似箇所を取り外す、交換するという計画があるということで、技術的に今回問題を起こしたところをいずれ取り外して詳細確認することは可能だと思うので、それはやはりやるのだということは宣言させていただきたいと思うのですが」
杉本安全規制管理官「そういうことをしていきたいと公開会合で聞いております」、「ただ、ここの部分というのは、先ほどの11ページのところにもありますけれども、水色になっているところは、実際、シリコン樹脂で固められているような通常では中を見ることができない」、「微妙なはんだの状況になっているのをそのまま維持しながら、当該箇所を取り出せるのかというのもかなり難しいと事業者からは聞いています

2023年3月22日「関西電力株式会社からの高浜発電所4号機原子炉自動停止に係る報告に対する評価」P.11

⑥「見られる日が来ればきちんと調べて」?今じゃないの?

最後に山中委員長がこうまとめた。「切れたかどうか、その状態を見たい。それは見られないかもしれないけれども、反面、見たらいろいろなことが分かるので、だから、そこはきちんと、杉山委員が言われるように、私も見た方がいいと思う。すぐさまやれというわけではないですけれども、見られる日が来ればきちんと調べてと、それは伝えてください。」

つまり、関西電力は、なぜか、問題を推定したはんだ付けの剥離箇所は見ないし、取り出さないし、今後は使いもしない。関西電力は、接続部については、何が起きたのかを取り出して調査さえせず、ケーブルに関する再発防止策だけを示しただけであるにも関わらず、規制庁はそれを「妥当」とし、原子力規制委員会はそれを了承した。

ケーブルに目が囚われていたが

以来、ずっとモヤモヤしていた。記者会見では、さまざま質問が出たし出したが、「施工不良」ありきの回答でモヤモヤは増した。老朽原発の規制基準事業者の意見を聞いてその要望通りに決まっていくなかで、私のモヤモヤは頂点に達した。

ついに、4月14日に関西電力に問い合わせた(文末に質問と回答)。はっきりしたのは、ケーブルが覆いかぶさっていたことは目視で確認したが、はんだ付けが剥離したことは目視できていないこと。なぜなら「接続部は、樹脂で覆われていること等から状態を維持したままの分解調査することは容易ではない」から。

しかし、「将来的に当該部分を取外すタイミングで、分解調査ができないか検討しております」という回答だった。原子力規制委員会であれだけ言われたのに「分解調査ができないか検討しております」とまだ時間稼ぎをしている。

さて、「接続部は、樹脂で覆われている」とは、杉本安全規制管理官が「11ページ」(上図)の「水色になっているところ」を指す。覆いかぶさったというケーブルに目を囚われていたが、改めて8ページの拡大図の「ケーブル接続部」の方を見ると、「銅棒」と「ケーブル心線」が「接続金具」に、それぞれ「ろう付け」と「はんだ付け」の異なる材料で繋いであって、それが「シリコン樹脂」で覆われているという「接続方式」だ。それが長年、引っ張られて、外れた話なのだ。

2023年3月22日「関西電力株式会社からの高浜発電所4号機原子炉自動停止に係る報告に対する評価」P.8の拡大

6種の材料の接続部の劣化の議論は、なし

モヤモヤが晴れた気がした。何がこれまでの議論で隠されていたかが、見えた気がした。なぜ、「施工不良」という結論に急いだのか。

それは、この接続部は、3つの金属(接続金具、銅棒、ケーブル心線)と「ろう付け」と「はんだ付け」と「シリコン樹脂」の6種の材料がつながっているところの劣化の議論から、一刻も早く遠ざかるためではないか。

「ろう付け」にも「はんだ付け」にも寿命がある。はんだ接合部の劣化評価や寿命診断方法も開発されている。シリコンだって劣化する。しかし、この接続部については上記、③一度だけ垣間見えた「接続方式」問題 で触れたように、貫通部の話にすり替わってしまって議論されなかった。

関西電力が筆者に回答した「接続部は、樹脂で覆われていること等から状態を維持したままの分解調査することは容易ではない」というのは、嘘ではないだろう。しかし、はんだ付けが剥離した形が維持できずに取り外しても、樹脂、はんだ付け、ろう付けの劣化ぐらいは判断がつくのではないか。逆にそれが実証されることが怖くて、実物を取り出して検証しようとしないのだとしか思えない。

もし、検証の結果、点検ができない老朽化する箇所(ケーブルの接続部)があることを認めると、現在審議中の、運転期間を削除する「GX脱炭素電源法案」に影響が出るだろう。「運転期間」は、1000万点とも言われる部品からなる原子力施設の老朽化を見落とさないために有効な規制であることは論を待たないからだ。

この法案は、まだ衆議院で議論が行われている。原子力規制委員会は、規制者として断固として、問題の接続部の取り出し調査を求めるべきだ。その間は、原子炉等規制法から運転期間を削除する法案の審議に待ったをかけるべきだ。

*関西電力への筆者問合せと回答

「高浜発電所4号機の原子炉自動停止」の推定原因について

1.ご発表によれば、
https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2023/pdf/20230307_1j.pdf
「コイル側電気ケーブルが覆いかぶさっていたことにより、原子炉格納容器貫通部内から引き抜かれる方向に力が働いていたためと推定」したとのことですが「覆いかぶさっていたこと」は目視確認できたという理解でよろしいでしょうか。

2.規制庁資料によれば、
https://www.nra.go.jp/data/000424040.pdf
「貫通部内にあるケーブルの接続金具のはんだ端子箱付けが剥離した可能性」とありますが、「可能性」ということは、御社としては「はんだ付けが剥離」したところは目視できていないという理解でよろしいでしょうか。

3.同規制庁資料によれば、
「関西電力が平成26年6月に申請した高経年化技術評価では、今回の不具合箇所(電気ペネトレーションの電線ケーブル)に対して、経年劣化事象として導通不良を想定している。その評価において「大きな荷重が作用しなければ、断線による導通不良至ることはなく着目すべき経年劣化事象ではない」としている」と書かれています
1)御社としては、平成26年の高経年化技術評価で「大きな荷重がかかると、断線による導通不良が生じる」と想定していたということでしょうか。
2)御社としては、「電気ペネトレーションの電線ケーブル」という箇所で不具合が起きた場合は、経年劣化による導通不良であると想定していたのでしょうか?

4.原因断定のために当該ケーブルおよび端子箱を取り出すことは不可能なのでしょうか。取り出せない理由をお教えいただければ幸いです。

筆者問合せ2023年4月14日

まさのあつこさま
いつもお世話になり、誠にありがとうございます。
関西電力株式会社広報室です。
ご質問いただいている内容に関しまして、以下の通りお答えいたします。
1.目視で確認いたしました。
2.目視では確認しておりません。
3.同評価書にて、導通不良は大きな荷重がかかるような状況があれば断線により起こりうる事象であることを記載しております。
 また、当該部位(電気ペネトレーションの電線ケーブル)には設計上、断線に至るような大きな荷重は作用しないよう配慮がされておりますが、今回の事象の要因は、不具合箇所に他の余長ケーブルが覆いかぶさったことで、ケーブル接続部に設計上想定していない引張力が作用したことにより、接触不良(導通不良)が発生したものと考えております。
 従って、設計通り荷重がかからないように施工すれば発生しない事象であることから経年劣化が原因ではないものと考えております。
4.当該貫通部の接続部は、樹脂で覆われていること等から状態を維持したままの分解調査することは容易ではないと考えているものの、将来的に当該部分を取外すタイミングで、分解調査ができないか検討しております。

関西電力広報室から2023年4月21日回答

タイトル写真
2023年3月22日原子力規制委員会資料「関西電力株式会社からの高浜発電所4号機原子炉自動停止に係る報告に対する評価」P.8より

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