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集中管理中の放射能汚染土の行方
2024年9月13日の集会で中間貯蔵施設(福島県双葉町・大熊町)に運び入れられた東京ドーム11杯分の除去土壌を、今、環境省がどうしようとしているのかについて話をした。こちらでも共有しておきたい。長いのでまず前半。
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原発事故→避難させずに除染
2011年3月11日の東日本大震災により、福島第一原発(1F)1〜3号機がメルトダウン、メルトスルー、そして、12日 1号機が爆発、14日 3号機が爆発、15日4号機が爆発。東日本の土壌は広範囲にわたり、汚染された。
同年、汚染地域から人々を避難させるのではなく、除染をさせて居住させ続ける政策「放射性物質汚染対処特措法」(以後、特措法)が制定された。
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市町村に除染させる地域と、国が除染を行う1Fに近い(高い放射線で汚染された)地域で膨大な汚染土が生じた。
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帰還させるための除染
2012年には福島復興再生特別措置法が制定された。
今度は、住民が避難指示を受けた「帰還困難区域」内に「特定復興再生拠点区域復興再生計画」を作り、除染し、住民を帰還させるための除染が行われ、2023年11月まに認定された全区域で避難指示が解除。
続いて、2023年の法改正で、今度は「特定帰還居住区域復興再生計画」の作成により、2020年代をかけて、住民を帰還させる面積を増やし、さらなる汚染土が生まれた。
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仮置き、仮仮置き場
この間、福島県内あちこちに汚染土等を詰めたフレコンバッグの山、仮置き場や仮仮置き場が出現した。
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フレコンバッグを生活空間からどかす→中間貯蔵施設に
フレコンバッグを生活空間から遠のけ、一元管理するため、大熊町・双葉町の地権者や自治体を説得して、運び込む政策が中間貯蔵・環境安全事業株式会社法として誕生。あくまで中間貯蔵だと説得するために「30年以内に、福島県外で最終処分」と約束した。
「必要な措置を講ずる」
法律には「30年以内に、最終処分を完了するために必要な措置を講ずる」と書いてある。しかし、特措法も含めるどの法律にも「再生利用」については定めがない。特措法に基づいて作られた基本方針に「汚染の程度が低い除去土壌について、 安全性を確保しつつ、再生利用等を検討する必要がある」と書かれたきりで、それを具現化する法改正は行っていない(環境省の初代担当者は、法改正をしなければならないと述べていた)。
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現在、このように工区に分かれて土壌が埋め込まれいる。
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フレコンバッグを生活空間からどかす→実証事業
しかし、当初、全福島県域からの搬入には時間がかかった。全村避難だった飯館村(いいたてむら)では、同じ村内で、避難指示解除された地域から、中間貯蔵ではなく、帰還困難区域「長泥(ながどろ)地区」へ汚染土を運ぶ「苦渋の選択」(当時の村長)が行われた。
長泥地区住民への説得材料として、除染を行なって時間制限付きで立ち入れる「環境再生事業」を環境省は行なった。汚染土は農地造成と称して運び入れ、その上にきれいな土を覆土して「実証事業」として、花や資源作物に限定して作ることに。作物ができると、住民たちは「野菜も作ってみたい」気持ちに。環境省はそれを「理解醸成活動」に利用し、現地見学会や視察を行なっている。
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中間貯蔵施設に運び込まれた9割以上が土壌。焼却施設も建設され、燃やせるものは燃やして焼却灰として保管されている。土壌の4分の3が8,000Bq/kg以下であり、環境省はこれを再生利用したい考えだ。
問題は、原発を規制する原子炉等規制法では再利用する金属やコンクリートがらは100Bq/kg以下でなければならないこと。ダブルスタンダードは許されない。
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実は、9月4日に、中間貯蔵施設を見てきた。予約をすれば見学可能だ。
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森の向こうに見えるのが福島第一原発。手前が汚染土壌を埋めた工区。
30年以内に最終処分は困難だから「再生利用」するという考え方
中間貯蔵が始まると、環境省は「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」を開き、30年以内県外最終処分は実現性が乏しいから再生利用しようという「考え方」をまとめた。
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たくさんのワーキンググループ(WG)ができているが、「考え方」は学者などが考えたものであり、法律ではない。内容は変化をしてきた。
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たとえば、管理主体が明確な公共事業で使うとしていたものが、飯舘村の事例を利用して農地もOKになった。考え方は変化する。考え方には放射性物質の濃度や、工期や覆土の厚さが書き込まれていた。
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こうした汚染土の使い方をすると、たとえば8000Bq/kgを2025年に使い始めると、原子炉等規制法のクリアランスレベル(100Bq/kg)まで減衰するのに約200年かかる。たとえば国道の管理主体の国土交通省は200年後に存在するのか?
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ダブルスタンダードだから反対が強い
福島県二本松市では、環境省が「実証事業」として市道(以下の写真)の下に埋めようとした。農地周辺には普通に人々が住まわれている。避難させられデメリットのどん底から故郷に少しだけ帰る時間を与えられる長泥地区とは違い、二本松市の住民には何のメリットもない。
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住民宛に回覧された説明(以下)では、農地脇の市道(上の写真)を素掘りして、汚染土を埋めて50センチ覆土するだけ。実証事業が終わっても掘り返しはしないという説明だった。それは実質「最終処分」だと批判された。
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二本松市の実証事業は中止
大きな反対運動により、環境省は既に済ませていた請負業者との契約を解除し、実証事業の計画は中止になった。
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環境省が省令制定を断念
全国への汚染土バラマキ反対の声が巻き起こる中で、2020年1月、環境省が省令「除去土壌の再生利用の基準」(案)のパブコメを実施したが、「基準」と称しながら、そこには考え方で示されていた用途や数値がまったく書いておらず、概念が書かれているだけだった。結果的に「現時点では制定しない」と断念した。
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2022年の年末近くに突如、環境省が管理主体の「環境省調査研究所」(埼玉所沢市)と新宿御苑での実証事業の説明会を行った。住民運動により所沢市議会は反対を決議、新宿区民からも反対の声が強くあがり、以来、まったく進んでいない。
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実証事業は「汚染土の再利用は安全」アピールのツール
もはや環境省は実証事業を「社会的受容性を段階的に向上させる」、つまり「汚染土の再利用は安全です」プロパガンダの刷り込みツールとして位置付けている。
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それさえも、結局のところ、福島県内の南相馬市のフレコンバッグの「仮置き場」、飯舘村の長泥地区、中間貯蔵施設内、すべて人が居住していないところでしかできていない。
ついに、環境省は国際原子力機関(IAEA)のお墨付きをもらう戦略に出た。お墨付きを得たのち、2020年に断念した省令「除去土壌の再生利用の基準」制定にチャレンジするつもりでいる。
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2025度以降、全国での汚染土(8,000Bq/kg以下)の再生利用を本格化したいと考えているのだ。
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続く。
【タイトル写真】
2024年9月4日、中間貯蔵施設(福島県大熊町)内の老人ホーム「サンライトおおくま」(廃墟となってしまっている)の脇に設置された見晴らし台で筆者撮影。「大熊④工区 土壌貯蔵施設」(清水JV)の向こうに1Fが見える。