八百屋に原発は動かせるか?敦賀原発は?
原子力規制委員たちは、どれだけ「原子炉等規制法」をきちんと運用しようとしているだろうか、と思う時がある。そして、原子力規制庁職員は、どれだけ法律のプロではない委員たちに正しい助言をしようとしているのだろうか、とも。昨日もそういう日だった。
敦賀原発の審査中断
4月5日の原子力規制委員会では、「日本原子力発電株式会社敦賀発電所2号炉の審査資料の誤り等を踏まえた今後の審査の進め方」が話し合われた。
日本原子力発電(以後、原電)の敦賀原発2号炉の設置変更許可の申請書に「また」誤りが見つかったので、原子力規制委員会は審査を中断し、8月末までに誤った箇所の「補正」を求めることになった(太字部分は行政指導として行う)。8月末に出る補正申請書を最後に、再稼働を認めるかどうかを判断する。
「8月末」の意味について、規制庁の内藤浩行安全規制管理官は、「審査が再開したのが昨年10月だった。その1年後に審査を再開させるべく考えた場合、8月末に申請書の補正を出させれば、10月には審査が再開できる」と説明した。法的な意味はない。原子炉等規制法がありながら、行政指導でワンクッションを置いて、審査を再開する。
「再稼働を許可しない」選択肢を示さない規制庁
委員会では、伴信彦委員は「申請書のクオリティが悪いということで審査を打ち切ることはできないのか」旨を述べた。これに内藤管理官は「申請書のクオリティが低いからと言って不利益処分はできない」旨を回答。委員たちは法律の専門家でなく、反論できる素地はない。規制庁が以下2つの選択肢を用意し(資料3の3ページ)、委員たちは2を選んだ。2の方が時短になるからだ。
2015年の設置変更許可申請を一旦取り下げさせ、改めて申請させる。
2016年1月26日以降の審査会合を踏まえて、K断層の連続性などに関する部分だけを今年の8月31日までに補正させる。
しかし、実は、山中伸介委員長自身が3月29日の会見で記者に問われて、「打ち切りも含めて最後の判断をしないといけない」と口にしていた。本当なら、その選択肢はあり得たが、そうしなかった。それで、冒頭に書いたようなことを思った。重要なことなので、なぜそう思ったのかを書いておきたい。
「技術的能力」と「新規制基準」はどちらも許可基準
原子炉等規制法第43条の3の6は、原子炉の設置許可基準を定めている。その第1項で、原子力規制委員会はその許可基準に適合していると認めるときでなければ、原子炉の設置を許可してはならないと定めている。
俗に言う「新規制基準」は許可基準の一部でしかない。同条文の第4号で「災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであること」とされており、この原子力規制委員会規則が福島第一原発事故以後に改定されたので、「新規制基準」と呼ばれる。第4号に基づく規則の正式名称は「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」だ。
一方、同条文の第2号では「その者に発電用原子炉を設置するために必要な技術的能力及び経理的基礎があること」と定めている。
どちらにも適合しなければ原子力規制委員会は設置許可をしてはならない。伴委員や山中委員長がいう「審査を打ち切る」とは、許可しないということを意味する。
しかし、原子力規制委員たちは、「新規制基準」(第4号)と「原子炉を設置するために必要な技術的能力」(第2号)が、同等の「許可基準」であることを認識していないのではないか。そして、規制庁職員は第2号の基準に基づいて「審査を打ち切る」(許可しない)という選択肢があり得ることすら提示しなかった。
昨日までに起きていることは「原子炉を設置するために必要な技術的能力」が日本原電にはないことを明らかにしたと言えると私は思うので、そのことも書いておく。
前回と今回、起きていること
「発電用原子炉を設置するために必要な技術的能力」といえば難しいが、例えば、八百屋さんやお医者さんは、原子炉設置許可の申請書を出せ、と言われても、そんなものを出す能力がないことは誰でもわかる。敦賀原発をめぐって前回と今回で起きたことは、極端に言えば、そういうことだ。
前回の「改ざん」
「新規制基準」に基づいて敦賀原発の申請書を出した原電は、これまでに何度もミスを犯しているのだが、最もひどいのは、2020年2月に判明したボーリング柱状図データの改ざんだ。
ボーリングデータはそれが正しければ、活断層の有無を判断する重要な手がかりを与えてくれる。思い描いて欲しい。活断層の有無を調べたい場所の土に何本もパイプを打ち込む→地上に戻したパイプを割ると柱状の土の層を取り出せる→その柱状の土の層一本一本に破砕帯があったとする→ここで三次元の空間を思い描いて欲しい→一本一本で見つかった破砕帯の深度をつないで、その点がうまくつながれば、断層面(破砕帯)が浮かび上がってくる。それがボーリング調査の目的だ。
2020年2月に判明したのは、原電が、見つかった破砕帯の有無を巧みに書き換えたことだ。有るものを無い、無いものを有ると書き換えていた(原子力規制庁の審査チームはよく見つけたと思う)。この時点でわかると思うが、破砕帯が有ったものを無い、無いものを有ると書き換えれば、たとえ、そこに断層面があったとしても、見えなくなってしまう。
(ちなみに、言い訳のきく巧みな「書き換え」だったので、原子力規制委員会は「書き換え」と称したが、私は「改ざん」だと考えている。)
今回の「誤り」
その後、「新たな業務プロセスが構築された」として(意味がわからないが)、規制庁が審査を再開したのは2022年10月。そして、2023年3月17日、原電が出してきた申請資料にまた「誤り」が確認された(資料3の1ページの経緯)。今回の「誤り」は、破砕帯の範囲内で最新の活動面で作製すべきとした「薄片試料」の作製位置が間違っていたというもの。
これについては原子力規制庁の審査チームは「薄片試料の作製位置の誤りについては、技術的な誤りであることから、原子力規制検査を改めて実施する必要はない」と認識したとして、先述した選択肢を規制委員たちに示して、2を選ばせた。
八百屋や医師に原子炉は動かせるか
しかし、ちょっと待て。前回は断層面があってもわからなくなる改ざんを行い、今回は試料の作製位置を間違ってしまった。どちらも意図的な改ざんなら問題外だが、非意図的な間違いであっても、技術的能力が欠如していると言わざるを得ない。調査目的を考えれば、「ある」と「なし」と「位置」という絶対に間違ってはならないところで、2度目も間違えたからだ。
新規制基準の第3条第3項では「耐震重要施設及び兼用キャスクは、変位が生ずるおそれがない地盤に設けなければならない」とされている。その解釈で「第3条第3項に規定する「変位」とは、将来活動する可能性のある断層等が活動することにより、地盤に与えるずれをいう」と定義された。今回間違えたのは、この基準をクリアするための最重要資料だ。「てにおは」や「誤変換」といったミスではない。
先述したように、法第43条の3の6第1項で、原子力規制委員会は、全ての基準に適合していなければ原子炉の設置(再稼働)の「許可をしてはならない」。第1項第2号で「必要な技術的能力」があることという基準がある。だから、審査レベルに達する設置変更許可申請書を持ってくる能力がなければ、基準をクリアできていないことになり、不許可にすればよい。
必要な技術的能力が「ある」か「ない」か。八百屋さんや医師に原子炉を動かす技術的能力があるかないかと問われればその答えは簡単だ。では、前回と今回のミスの中身を見た場合、それはどうなのか。私は八百屋さんや医師について聞かれるのと同じぐらい「ない」と思うのだが、これをここまで辛抱して読んで下さった皆さん、どう思われますか?
行政指導で時間稼ぎ?
奇しくも杉山智之委員が「審査がいつまでも終わらない。事業者が活断層を否定するための証拠探し」をする時間を与えているようなものではないかとの懸念を示した。そして、少なくとも委員が二人も「打ち切り」を口にした。にもかかわらず、規制庁は、原子炉等規制法に基づく王道「許可しない」の選択肢を示すことすらしなかった。
法律の専門家ではない原子力規制委員たちが法律の適正な運用の仕方に自信がないことをいいことに、法律の適正な運用に腰が引けている規制庁が、行政指導で時間稼ぎをさせている図に見えた。
【タイトル写真】
委員長会見で山中委員長(写真左)を補佐する内藤浩行安全規制管理官(写真右)。2023年4月5日筆者撮影。
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