原子力災害時の医療体制の拡充案だけパブコメ中
能登半島地震後に、原発震災への危機意識が高まり、原子力災害対策指針の見直し要請や「地震に関する新知見がまとまるまで、1)新規制基準の適合性審査や使用前検査を凍結してください、2)稼働中の原発を動かさないようにしてください」など多くの声が上がったにもかかわらず、原子力規制委員会は問題を矮小化させて「原子力災害時の屋内退避の運用に関する検討チーム」を作った。今回、それとは別に原子力災害対策指針の改正案に対するパブリックコメントを求めている。
原子力災害対策指針の改正案パブコメ
7月17日に原子力規制委員会が公表し、2024年8月24日0時0分まで、パブリックコメントを求めている「原子力災害対策指針」の改正案は以下のとおりだ。
現在の指針
原子力災害が起きたときには、被ばく傷病者の診療や、甲状腺簡易測定などを行う医療機関(以後、原子力災害医療協力機関)が必要だが、現在の原子力災害対策指針では、原子力災害対策重点区域(*)内の24道府県が、こうした機関を登録することになっている。
しかし、2023年5月に「甲状腺被ばく線量モニタリング実施マニュアル」を内閣府(原子力防災担当)と原子力規制庁が作成した際に、より広域的な協力体制を作ることが課題として挙げられたのだという。
日本診療放射線技師会が声を上げたことが出発
その説明では不十分だったが、伴信彦委員が「日本診療放射線技師会が全面的な協力」を申し出たからだと発言。規制庁の山本・放射線防護技術調整官が「恐らくは東京、名古屋といった大都市圏、非常に測定要員の候補となる会員の方が多いところから派遣をいただくという体制で要員の確保を図っていくということになろう」と回答した(7月17日原子力規制委員会議事録)。
念のために、午後の会見で「原子力発電関係道県議会議長協議会とか原子力発電関係団体協議会が今年の5月、6月に能登半島地震を踏まえていろいろな要請を出された中の一つだと捉えていますが、その理解で大丈夫でしょうか」と聞いてみたが、山中委員長は、甲状腺被ばく線量モニタリング実施マニュアルを改定した際に「全国規模の放射線技師会ですか、そこから我々も協力したいというお声が上がりましたので」と回答した。
マニュアルが機能するための改正の中身
マニュアルに書いたことを実現するための協力の申し出があったので、それが実現できるよう、今度は指針を修正する。そのために、原子力規制委員会が出した改正案(太字)は以下の通りだ。
資料(別紙1)P3〜6
・24道府県以外の都県も含めて、国が、全国規模での活動体制を有する原子力災害医療協力機関を指定できる。
・派遣される者への研修や訓練の範囲も拡充する。
資料(別紙2)P7〜13
・原子力災害医療協力機関の指定要件については、
(現行)立地道府県等が登録する協力機関については、以下の(1)から(7)までを要件とする。
(追加)国が指定する協力機関については、以下(1)の基本的な要件のうち1項目以上の要件について全国規模での活動を行うことができること、(4)と(5)を要件とする。
課題はまだ山積み
このままでいけば、伴委員と山本放射線防護技術調整官の質疑通り、国は最低でも「日本診療放射線技師会」を「原子力災害医療協力機関」に指定することになるのだろう。それでマニュアルに書かれたことが、どの原発周辺地域でも実施できるようになるのかはまた別問題で、山積みの課題(絵に描いた餅)のすべてが解消することにはならない。
指定要件の1つ「安定ヨウ素剤の配布支援」をとっても
例えば、国による指定要件の中には、先述したように、以下のA〜Gのうち1項目以上について全国規模での活動を行うことができること、というものがある。
その1つ「F)安定ヨウ素剤の配布支援」をとっても、協力機関の支援以前の問題がある。福島第一原発事故の経験から、以下のようなことが指摘され続けている。
原子力発電関係道府県の要請
自治体も声を上げている。5月、原子力発電関係道県議会議長協議会は「原子力発電の安全確保等に関する要請」を行い、原子力発電関係団体協議会もほぼ同様の内容で「原子力発電等に関する要請」を行っている。原子力災害対策指針や医療体制に関する事項は数多く上がり、要請対象は、内閣官房、内閣府、警察庁、総務省、消防庁、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、海上保安庁、環境省、原子力規制委員会、防衛省など多省庁にわたる。
「原子力災害時の屋内退避の運用に関する検討チーム」は迷走
「原子力災害時の屋内退避の運用に関する検討チーム」で議論されている屋内退避に限ってさえ、敦賀市課長からは、屋内退避は「不要不急の外出を控えるロックダウン的なものか?」「対象範囲の物流は制限されるか?」「通院・診療が必要な住民への対応は?」「エッセンシャルワーカーの動き方は?」など数々の問いかけがあり、規制庁は、真正面からの応答ができていない。伴委員からは「議論した結果、何も変えないという結論もありえます」という発言すらあり、迷走していると言わざるを得ない(6月28日第3回議事録)。
山中委員長の考え
7月17日の記者会見で、原子力災害時の屋内退避の運用に関する検討チームには、自治体から2人が参加しているが、原子力発電関係道県議会議長協議会や原子力発電関係団体協議会からも「全ての要望を一度聞き取るということが公平性の観点から見ても重要ではないでしょうか」と以前も尋ねた問いをまた質問してみたが、山中委員長は「2人の御意見をいただきつつ、当然何か結論が出ましたら、委員会でもまた議論をいたしますし、それは公開の場で議論をさせていただきますので、御意見等はいろいろな自治体からいろいろな形で聞くことができる」と答えるにとどまった(会見速記録)。
求められているすべての事項について、丁寧に意見を聴くことにどんな不都合があるのか、今回もまたわからなかった。
原発は発電の一手段に過ぎない
原発は、代替案のある「発電」方法の一手段にすぎない。日本全国が上を下への大騒ぎをさせられることのない代替案を優先させる方が合理的ではないか。ふるさとに戻れない地域を作り出した残酷かつ非人道的な発電方法は、もはや捨て去るべきではないか。そう考えているので、虚しいパブコメではある。一方で、原発という発電手段の非合理性を共有する機会になるのではないか。実際に再稼働をする(それを自治体が認める)以上は、機能する避難計画が存在しなければおかしい。そう思うので、パブコメのお知らせをすることにした。以下、再掲する。
【タイトル写真】
鳥海山の麓に咲いていたヤマユリ(2024年7月21日筆者撮影)
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