「事業者だけがステークホルダーじゃない」 #原子力規制委員会
民主主義は、岩場を1ミリずつ登るようにしか進まない。進もうと思わなければ落ちていく。進もうと思っても、運がよければ爪1枚をひっかけて1ミリ登れる程度のものだ。日頃、日本の民主主義の進展をそんなふうに考えている。しかし、今週、1ミリ進む兆しが見えてきた。
きっかけは2024年11月27日の原子力規制委員会の議題1の次期中期目標。それは何なのかから書いた。時間のない方は目次から「2024年 原子力規制委員会「事業者だけがステークホルダーじゃない」をクリックして飛んでいただければ幸い。
2001年 国民から遠い政策評価制度
2001年にできた「政策評価法」の目的(第1条)は、「効果的かつ効率的な行政の推進」と「国民に説明する責務が全うされる」ことだ。つまり、民主主義の1ツールだが、成立当初から、国民からは遠く離れたところで行われる「政策評価」という儀式に過ぎなかった。
2022年 原子力規制委員会マネジメント規程に記された「コミュニケーション」
原子力規制委員会は、同法に基づく政策評価のために、2022年に原子力規制委員会マネジメント規程を作った。組織の運営管理の方針、中期目標を定め、学識経験者の知見も活用するために「政策評価懇談会」を設置した。このマネジメント規程には「ステークホルダーとのコミュニケーション」という文言が入った。
だが、ステークホルダーがどこまでの範囲をさすかは、日本政府の中では、それを狭く解釈する傾向があり欧米諸国とは差がある。こちらでも書いたように、今年、ようやく、そのことを政府に起用された有識者が指摘する場面に遭遇した。ステークホルダーには、The Concerned (関心ある人々)が含まれているという指摘だ。
日本では、その認識が進まず、欧米諸国とは異なり、政策決定の早期段階で関心ある人々の参加は、法律に位置付けがない。
原子力規制委員会マネジメント規程でも、「情報共有又は意見交換」程度のことしか書かれていないのに、現実には、直接対話の門戸は閉じられていた。
2013年 福島第一原発事故を二度と起こさない組織理念
2013年に遡れば、原子力規制委員会には、現在のマネジメント規程よりも熱い思いで作られた「原子力規制委員会の組織理念」や「原子力安全文化に関する宣言」があった。前者の全文は、以下の通りだ。
2015年 「宣言」された「コミュニケーションの充実」
「原子力安全文化に関する宣言」には以下の項目がある。
兆しのきっかけ(次期中期目標「コミュニケーション」)
さて、ようやく、冒頭で書いた1ミリ進む兆しについて。
11月27日の原子力規制委員会は、議題1で政策評価のための「次期中期目標」の策定に向けた討議が行われた。
「次期中期」とは2025年4月1日からの5年間。
「目標」は「原子力に対する確かな規制を通じて、人と環境を守ること」。先述した2013年の「原子力規制委員会の組織理念」がルーツだ。
「成果目標及び施策目標」には、多くの項目が並び、討議された中で、「Ⅰ.独立性・中立性・透明性の確保と組織体制の充実」で示された以下2項目に対しては、委員全員が意見を投じた。
伴信彦委員は「コミュニケーション戦略という大きな絵の中で何ができるんだろうか」「どっかで少し腰を据えてしっかり考えなければいけないんじゃないか」「現状を見たときに国際会議等でいろんなテーマが議論されている。テクニカルなところには一定程度貢献していると思うが、ソーシャルなところにほとんど貢献できていない。たとえばステークホルダーインボルブメントの話とか安全文化の話もそうです。あまり貢献ができていない。だとしたらそれはなぜか(略)そういう視点も必要なんじゃないか」と発言。
以下をクリックすれば該当部分の動画が頭出しできるようにした。
2024年 原子力規制委員会「事業者だけがステークホルダーじゃない」
この発言を受けて、山中伸介委員長は「Ⅰ番(独立性・中立性・透明性の確保と組織体制の充実)はもう少しチャレンジングな目標の書き方にしてもいいんじゃないか。安全文化の話、組織文化の話からコミュニケーションの話、人材育成の話(略)コミュニケーションの話はグレードを上げていこうということなんでしょうが、もう少しチャレンジングに書かれてもいいのかなという気がします」
一方、杉山智之委員からは「事業者から本音を引き出さないと安全性の向上において、あまり良いことがない。本音を引き出すことによって、より安全性が向上する方向に我々が動かせるんだったら、しばらくは非公開、いずれ議事録を公開するとかも考えられる」と「透明性」とは逆向きの意見も出た。
これに対し、山中委員長は「事業者だけがステークホルダーではない。国民の皆さんとの対話ということもレベルをあげていかないといけない。コミュニケーションという意味では不十分なところもあるので。そういう意味で少しチャレンジングな書き方を目標でしてみたらと(略)、私は伴委員の意見に賛成なんです」と発言。
長﨑晋也委員も、「私も伴委員や山中委員長の考えの方がいいのではないかという風に思います。中立性、透明性というものに対して国民からのご批判、疑問を持たれないためにも、国民とのコミュニケーションというのはきっと関わってくる話」と発言。
山岡耕春委員もまた、「(4)に「原子力規制委員会に対する社会的な理解及び信頼を醸成する」というのが目的になっているが、コミュニケーションは、結局は相手を理解する、合意をするところまでは人間多様だからできないにしても、お互いに理解をするってことが多分重要なので、このコミュニケーションは別に原子力規制委員会のプラスになることだけが目的なのではないだろう。なんのためにコミュニケーションをするのかをもうちょっと積極的に書いてもいい」と発言した。
思わぬところで1ミリ進んだと感じた。
2024年 会見「コミュニケーションのレベルを上げていきたい」
午後の会見では、ここに集中して質問をすることにした。以下、速記録が未掲載なので、動画(該当部分を頭出し)と筆者による音声起こしを貼り付ける。
ことあるごとに、パブコメ以上の市民参加の必要性について、会見で3人の歴代の原子力規制委員長に尋ねてきたが、今までで一番、踏み込んだ回答だった。
【タイトル写真】
山中伸介原子力規制委員長(2024年11月27日の定例会見にて筆者撮影)