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廃炉の優先順序は?原子力規制委員長の考え #1F

2024年11月6日、福島第一原発の廃炉の優先順序について、福島第一原発の廃炉の最高責任者である小野明氏(既報)に続いて、山中伸介原子力規制委員長にも尋ねた。尋ね続ける理由は以下の2つだ。


優先順序を尋ね続ける理由

1 増えるのは汚染水だけではない

 原発事故から13年半、原子炉建屋地下に地下水が流入して燃料デブリなどに触れて生じ続ける「汚染水」問題は、単なる「汚染水問題」にとどまらない。
 それをALPS(多核種除去設備)処理することによって①高濃度の放射性廃棄物(汚泥)が副生され、②その保管容器(HIC)、③置き場、④その最終処理まで、問題は解決するどころか増えるのが実態だ。
 一方で、⑤ALPS処理しきれないトリチウム、さらには基準以下で数十の放射性核種が海洋放出され続けている。

2 「燃料デブリを取り出す」か「地下水流入を止めるか」

 その解決には、燃料デブリ(880トン)を取り出すか、地下水流入を止めて燃料デブリを閉鎖空間で循環冷却等するかの2択しかない。前者は実績からすれば、迅速には不可能だ。後者は土木技術的には不可能ではないと思われる。
 福島大学の柴崎直明教授ら福島第一原発地質・地下水問題団体研究グループは「原発建屋の周りを広く囲む延長3.7キロの広域に従来の土木工法によるコンクリートの広域遮水壁を造ることが有効」との提案(「福島第一原子力発電所の地質・地下水問題―原発事故後10年の現状と課題」/「原発団研の成果の普及と汚染水海洋放出反対への取り組み」を各方面に行っているが、政府・東電は無視してきた。

技術力、作業員被ばく、環境、時間、さらには1Fの劣化の観点からも、私は、地下水流入を止めて燃料デブリに触れさせない工事をする方がより現実的だと考え続けている。これらを念頭に11月6日の会見で「また」尋ねた。

地下水止水と燃料デブリ取り出しより不可能なのは?

結果的に「地下水止水」と「燃料デブリの取り出し」と、どちらがより不可能かを尋ねた。山中委員長は、原子力規制委の「中期的リスクの低減目標マップ(2024年3月版)」では、デブリの取り出しの位置づけは限定的だとした上で、汚染水をゼロにするのは難しいのでバランスを取りながらリスクを下げるという考えだと回答した。以下、記録として会見速記録から貼り付けておく。

○まさの 10月28日に1Fの監視評価検討会で1Fの廃炉設備の維持撤去に係る計画というのが、東電のほうから出てきましたけれども、この中で新アルプスを2029年から運転するということが示されていました。これは既にある汚染水を処理するというのは必要であるにしても、やはり完全止水を止めて、新たな汚染水とか処理廃棄物を増やさないことのほうを優先させるべきだと思うのですが、同じようなことを何回も聞いていますが、これまでも。いかがでしょうか。

○山中委員長 汚染水を減らしていくというのは、サイトのリスク全体を低減していくという上で重要な方針であるというところは同じ認識だというふうに思っておりますけれども、完全にやはり止水することはできませんので、やはりアルプスを動かして汚染水を処理していくという作業というのは必要になってくるかというふうに考えております。

○記者 一方で、すみません。政府のほうが作っている中長期ロードマップを見ますと、第2期は、燃料デブリ取り出しが開始されるまでの期間ということで、燃料デブリの取り出しに重点を置いています。この、ものを撤去していく上での優先順序として、今おっしゃった、止水は不可能だということをおっしゃったと思うのですけれども、それは本当に不可能なのかという点と、その不可能さ加減と比べて、燃料デブリの取り出しというのは、それよりもむしろ優先されるような、可能なものなのでしょうか

○山中委員長 この10年間のサイト全体のリスク低減については、規制委員会でこの春に取りまとめさせていただきました。その中でのデブリの取り出しの位置づけというのは非常に限られたものでございますし、まだまだ試験的な取り出しサンプリングの状況である、大規模取り出しに向けた準備の段階であるという認識ではございます。一方、汚染水をできるだけ減らしていくというのは、これは必要なことでございますし、そういう作業は進めていかなければならないというふうには考えておりますけれども、完全に地下水を遮断して、汚染水をゼロにしてしまうという、これもかなり難しい作業でございますので、その辺のバランスを取りながら、サイト全体のリスクを下げていくということが、我々監視指導していく立場としては進めなければならないことかなというふうに考えています。

○記者 すみません、最後に一点なのですが、その撤去の優先順序、廃炉の優先順序として、劣化すると労働環境とか、環境に影響が大きいものというものを最優先だとは思うのですけれども、そのほかにやはり汚染された物質を増やさないこととか、高濃度のものは減衰を待って処理するとか、そういった基本的な原則というのを改めて見直す必要があるのではないでしょうか。

○山中委員長 その辺の考え方はリスクマップ全体で御覧をいただければ、我々の方針というのは理解をしていただけるかなというふうに思っております。高レベルの液体の廃棄物を減らしていく、あるいは高レベルな個体を減容化して、安定に保管をしていくというのがこの10年間での重要な作業だというふうに認識しておりますし、その点についてはリスクマップを見ていただければ、どの点に重点を置いて監視指導していくのかという規制委員会の方針を御理解いただけるかなというふうに思っています。

2024年11月6日原子力規制委員会記者会見録

「試験的」と「抑制」という中途半端さ

燃料デブリの試験的取り出しと地下水抑制という中途半端な形で、結局どちらでも作業員の被ばくが続いているのだ。

数g分析に1年でも、燃料デブリ取り出し優先か?

この日、多くの記者が、燃料デブリ試験的取り出し既報)に関して尋ねた。それにちなんでも「また」優先順序について尋ねた。記録しておく。

○司会  1巡目御質問のまだある方いらっしゃいますか。ではよろしければ 2 巡目でマサノさんで御質問を最後にしたいと思います。 マサノさん、どうぞ。

○記者 フリーランス、マサノです。1Fの2号機のデブリの取り出しの件なのですけれども、0.2ミリシーベルトパーアワーだったということで、ちゃんと本当に測れていたのかという疑問が湧いています。1メートル離れたところから20センチを換算してということで、実際は1メートル測ったところはもっと低かったはずだということで、その東電としては周りからの線量を拾わない形でコリメートして測定したと言っているのですけれども、委員長的にはこの、委員長としては0.2ミリシーベルトパーアワーというのはちゃんと測れた数値だとお考えでしょうか。
○山中委員長 東京電力の評価値だというふうに報告を受けておりますし、この点についてはきっちりとエンクロージャーの内部で計測するということが必要かなというふうに思いますし、取り出したデブリの取扱いについては慎重に進めていっていただきたいというふうに思います。

○記者 先ほどお答えの中で、デブリの一つの形態が今回分かることになるというふうにおっしゃったと思うのですけれども、東電資料を見ますと「分析の取りまとめに1年かかる」と書いてあって、それは長いと考えておられるでしょうか、短いとお考えでしょうか。
○山中委員長 もっと早くなればいいなというふうに思います。現場で概要がつかめるような、そういう体制に早くなってほしいなというふうに思っています。

○記者 最後なのですけど、今回のテレスコの通り道の2018年の調査結果を見ますと、高いところで70グレイパーアワーと大変高い濃度のものがあるので、今回取られたものがもし測定が正しかったとして、非常にもう超低いものが取れたというふうに考えるべきだと思いますが、その辺はいかがでしょうか。
○山中委員長 先ほども少しお話をさせていただきましたけど、デブリというのはいろんな種類、バリエーションがございますので、その一つの形態のデブリが捕まえることができたというふうに考えております。別の場所、あるいは同じ場所からももう少し違うデブリというのが取り出される可能性はもちろんございます。

○記者 3グラムぐらいのものに分析に1年がかかって、その次にまた別の場所から取るということを繰り返していく場合、やはり長期でかつ被爆、もう作業員の被爆も重なっていくと思うので、これやはり優先順序として燃料デブリの取り出しというのを最優先課題としてよろしいのでしょうか
○山中委員長 これはその私どもが作ったそのリスクマップの中では、デブリのその取り出しということが最優先というふうには全体像の中では捉えておりませんけれども、やはりデブリがどんなものかを知っていくということは重要な作業には違いありませんので、それは続けていっていただきたいというふうには思っております。

2024年11月6日原子力規制委員会記者会見録

【タイトル画像】

東京電力福島第一原子力発電所の中期的リスクの低減目標マップ(2024年3月版)
(2024年2月28日 原子力規制委員会) より

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