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「高経年化技術評価」を「劣化の管理等」へ格上げ?
前回、「運転期間」を炉規制法から削除する代わりに、今ある規則を、審議中の改正法案で法律(新・第43条の3の32)に格上げすることを書いた。前後してしまうが、格上げすることを原子力規制委員会が決めたプロセスも改めて振り返る。
現在の「高経年化技術評価」とは
ここでいう規則とは「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則」第82条のこと。
第82条は「発電用原子炉施設の経年劣化に関する技術的な評価」として、原子炉設置者は
・運転開始後30年までに(以後10年以内ごと50年まで)
・安全上重要な機器や構造物を決めて、
・経年劣化に関する技術的な評価を行い、
・その評価結果に基づき、その後10年間の施設管理方針を策定
しなければならないというもの。
ちょっとずつ違う言葉が使われていてややこしいが、これを現在は「高経年化技術評価」と呼んで行っている。
これを、炉規制法から失う「運転期間」(現在の第43条の3の32)削除に代わり、法案第43条の3の32(劣化の管理等)に格上げすることになったのは以下の通り。
エネ庁の話を聞いた昨年10月からの出来レース
2022年10月5日に、原子力規制委員会が、資源エネルギー庁(エネ庁)の電力・ガス事業部の松山泰浩部長らから話(資料1、資料1-1、資料1-2)を聞いたその日に、首尾よく山中原子力規制委員長が、次のように指示した。
「現行制度は運転期間そのものと高経年化した原子炉に対する安全性の規制というのがセットになっています」
「したがいまして、運転期間についての定めが利用政策側の法体系に移るとなると、必然的に高経年化した発電用原子炉の安全性の確認をどう法的に担保するのかについて、原子力規制委員会として、今後、しっかりと検討する必要があろうかと思います」
「事務方は、本日の議論や資源エネルギー庁の検討状況を踏まえつつ、高経年化した発電用原子炉の安全性をどう確認していくか、法的に担保するのかについて検討の上、原子力規制委員会に報告をお願いします」
この日は、資源エネルギー庁(エネ庁)に話を聞いただけの当日(*1)。原子力規制委員会としては、まだ何も、意思決定していない。ところが、エネ庁に話を聞いた直後に、山中委員長は「運転期間についての定めが利用政策側の法体系に移る」と決めつけて、「事務方」である規制庁に「経年化した発電用原子炉の安全性をどう確認していくか、法的に担保するのか」の検討を指示したことがわかる。
昨年11月にできていた規則案概要
その指示に従って、規制庁が原子力規制委員たちにその「検討中の案」を提案したのは2022年11月2日。早々と、資料「高経年化した発電用原子炉に関する安全規制の検討」で、未知の領域である60年超を除いては、ちょっと文言が変わる程度の規則案の概要を示している。(*2)
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資料1高経年化した発電用原子炉に関する安全規制の検討 (原子力規制庁)P.6より
石渡明委員は当初から「時期尚早」と
規制庁とエネ庁の「頭の体操」で敷かれたレールに、巧みに乗って始まった出来レースだった。このレールに乗ることを、石渡明委員は「時期尚早」という言葉で2022年11月16日から拒んでいた(*3)。
新規則案の水面化の検討開始は2022年8月23日
エネ庁と規制庁が、実は法改正について2022年夏からことを進めていたことが、2022年12月に内部資料で明らかになった。(*4)
規制庁がその内部情報を記者に説明するために記した経緯を見れば、規制庁トップ3らが、運転期間削除後の「高経年化した原子炉に対する安全規制に関する事務方としての検討を開始」したのは、2022年8月23日。
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令和4年12月27日原子力規制庁より筆者抜粋
2022年2月22日から始まった「高経年化した発電用原子炉の安全規制に関する検討チーム」がやっているのは、昨年8月から準備してきた出来レースの一部または延長だということになる。
以上、「高経年化技術評価」を「劣化の管理等」へ格上げすることになったプロセスのおさらいになってしまったが、次こそは劣化の管理等の詳細を決めるチームで行われてきたことを記録しておく。
【タイトル写真】
高木章次さんのイラスト「忘れないで!福島原発事故の教訓を 原発推進GX法案を廃案に」チラシを2023年4月25日「#原発GX法を廃案に 国会前集会」にて筆者撮影
(*1)岸田首相が指示:原発の運転期間延長の裏側 2022年10月14日
(*2)老朽原発の審査案、現わる 2022年11月15日
(*2)老朽原発の審査は厳しくなるのか? 2022年11月16日
(*3)原発の寿命を誰がなぜ決める―国会審議から 2022年11月17日
(*4)主導権:官僚に握られた原子力規制委員会 2022年12月24日
*その後2023年4月15日までの取材ノートはこちら