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福島第一原発事故による汚染土の最終処分は「素掘り」。「再生利用」は呼び名を変えるかも?

福島県内外にある「汚染土」の 「最終処分」と「再生利用」の 基準案について環境省が 専門家の意見を聞く会合が2024年9月17日に開催された。


福島県「内」「外」にある「汚染土」

ここで言う汚染土とは、福島第一原発事故で放射性物質が放出され、土壌に沈着、その表土を除去したもので、環境省は「除去土壌」と呼んでいる。

現在、それは福島県内の中間貯蔵施設(大熊町、双葉町)などに1300万m2、福島県外に33万m2あり、放射能濃度は以下の通りだ(県内が右上、県外は右下)。

環境省 資料1「除去土壌の保管状況等について

これまでは「減容化」と「再生利用」と「最終処分」のワーキンググループ(WG)は、別々に議論をしてきたが、基準を作るにあたっては統一的でなければならないとして、今回は、合同会議の開催となった。

環境省はこれまでに、放射性物質対処特措法の基本方針で「再生利用等を検討する必要がある」と書いただけ。法律本文で「福島県内外で土壌を再生利用」できるとは書いておらず、「再生利用」の定義も定めていない(既報)。しかし、2024年度末までに(特措法に基づく省令(汚染土の再生利用や最終処分の基準)やそのガイドラインを作成したいと考えている。

真っ先にIAEAからのお墨付き報告

環境省が会合で真っ先に報告したのは、国際原子力機関(IAEA)から環境省の取組は「IAEAの安全基準に合致している」とお墨付きを得たことだ。 
  資料2 除去土壌の再生利用等に関するIAEA専門家会合について
要点は次の通り「IAEAの安全基準に合致」の連呼だ。

  • P7  正当化 正当化とは何かという説明はなしに、「環境省の除去土壌の再生利用・最終処分の取組の正当化は、IAEA安全基準に合致している」と説明。

  • P7  最適化 「放射線防護の最適化とは、経済的・社会的要因を考慮し」「被ばくの可能性を合理的に達成可能な限り低くすることになるかを決定するプロセスである」と説明。

  • P7  線量限度の適用 については「最適化の適用」の項目の中で、覆土などにより「年間1mSvを下回る線量の低減を目指す」ことは、IAEA安全基準に合致している。「最適化の取組を通じて目指すべき線量水準は、地域住民や自治体などの利害関係者と相談して決定されると認識している」と報告した。

注目ポイント 甲斐委員の指摘「ステークホルダー(「関心をもつ公衆」も)」

IAEAの報告書に関して出た質疑で注目したのは、甲斐倫明委員(除去土壌の処分に関する検討チーム)の指摘。「(訳文は)『利害関係者』としているが、IAEA(報告書)は『ステークホルダー』としているIAEAのいう『ステークホルダー』とは、利害関係者(interested party)ではなくステークホルダー「the conserned」という意味で使っているから『ステークホルダー』として欲しい」と指摘したこと。

ステークホルダー」とはどこまでのこと?
 
実は、9月13日の集会で、IAEAの報告書について私がレポートをした時にも「ステークホルダー」について質問が出た。「どこまでのことを指すのか」と。そこで次のように答えた。
 「デンマークにオーフスという都市があって、その名前を冠した「オーフス条約」という環境問題に関する情報公開と参加と司法参加について定めた条約があります。日本は批准をしていないけれど、そこでは関心ある人、NGOも含んでいます」と答えた。オーフス条約は欧州で始まった条約であり、IAEA加盟諸国の多くが批准しているので、それは当たり前のことなのだ。

関心をもつ公衆(concerned)も利害関係者

具体的に条文(英文)と和訳にリンクを貼り、該当箇所を抜き出しておく。和訳は日本の「オーフス条約を日本で実現するNGOネットワーク」が行なって、オーフス条約事務局が日本語版として公開しているものだ。

「環境に関する、情報へのアクセス、意思決定における市民参画、司法へのアクセス条約」(オーフス条約第2条 定義より
5. 「関心をもつ公衆」とは、環境についての意思決定により影響を受け、もしくは受けるおそれのある、または意思決定に利害関係を有する公衆を意味する。この定義の適用上、環境保護を促進し、かつ国内法のもとで要件を満たす非政府組織は、利害関係を有するものと看做されねばならない。

CONVENTION ON ACCESS TO INFORMATION, PUBLIC PARTICIPATION IN DECISION-MAKING AND ACCESS TO JUSTICE IN ENVIRONMENTAL MATTERS Article 2 DEFINITIONS
5. “The public concerned” means the public affected or likely to be affected by, or having an interest in, the environmental decision-making; for the purposes of this definition, non-governmental organizations promoting environmental protection and meeting any requirements under national law shall be deemed to have an interest.

「再生利用」の名称を今さら変える?

続いて、以下の説明が行われた。
 資料3 除去土壌の再生利用・最終処分における放射線防護の考え方等について
 資料4 除去土壌の再生利用基準(案)のポイント
 資料5 除去土壌の埋立処分基準(案)のポイント

ちょっと驚いたのは、資料3(以下)で再生利用と最終処分の定義を説明しながら「再生利用」という言葉は「この言葉でふさわしいか検討したい」と環境省が述べたことだ。

資料3 除去土壌の再生利用・最終処分における放射線防護の考え方等について

その他、環境省はこう考えているという中で、再生利用と最終処分(これまで環境省の会合では「埋立処分」と称してきた)について、記録しておくべき要点をかいつまんでおく(9月18日に順不同で書いたので、9月19日、再生利用と最終処分にわけて整理しなおしました)。【 】内は私の感想。

まず再生利用について

  • 再生利用では、飛散・流出防止のため表面は覆うが、「福島県内実証事業等の結果を踏まえ、遮水シート等の地下水汚染防止措置は不要とする」(資料4 p26)。【これまで再生利用の実証事業の説明(例:新宿御苑 p16)ではシートで集水、一時貯留し、安全確認後に下水道へ流すと説明してきた(図1)。基準(案)(資料4 p26)でそれを「不要」とするのは大きな変更だが、「表面を覆う」説明の欄外※でこそっと書いてある(図2)】

 図1 遮水シートあり 再生利用の実証事業での説明例:新宿御苑 p16
図2 遮水シート不要 再生利用基準(案)の説明(資料4 P26)  ハイライトは筆者の加筆。
実証事業からは大きな変更だが、わかりやすく説明するための図すらここにはない。
  • 覆土をすれば、作業員も周辺居住者でも利用者でも年1mSv以下に収まる。

  • 覆土が流出してしまっても、年1mSv以下に収まる(下図)。

  • 【しかし、既報したように年1mSv以下であっても正当化されない行為だ】

再生利用基準(案)の説明(資料4 P10)
  • 作業者も一般講習扱いと整理し、追加被ばく線量が1mSv /年を超えないようにする(資料3 p3)【言うのは簡単だが、土ぼこりを吸い込んだり触れるリスクを持つ作業員の被ばく管理がどう行われるというのか】

  • 管理期間の終了まで再生資材化した除去土壌に関する情報を保存する(下図)。【8000Bq/kgがクリアランスレベル100Bq/kgの減衰まで約200年かかるが、誰がそれをやるのか】

汚染土の再生利用基準(案)のポイント P30
  • 汚染土の再生利用の操業中、管理期間中の安全基準を定めようとしているが、IAEAに指摘された閉鎖後については今後検討する。【IAEAに指摘されなければ、「管理して再利用」と言いながら、埋めっぱなしのつもりだったのか】

  • 「再生利用実施者である環境省」と「規制機能」は、IAEAは「独立」していなければならないと指摘。委員からは、これからIAEAと相談するというが、実施開始前に行うべきだと指摘され、環境省は「機能的な独立性を実施前に考えたい」と回答。【環境省がいう「機能的な独立性」とは、おそらく別組織を考えるのではなく、なし崩しで、組織内で任務が分かれていますとごまかすのではないか】

  • 再生利用を行なった場所で周辺に囲いや立ち入り制限をしないが、掘り返したりされないか旨の質問があり、利用場所であることを表示するが、立ち入り制限などは設けない。「普通の公共事業でも、一般の方が入ってきて掘ったりすることはないから」と環境省。【管理して再利用すると説明してきたのに、表示するだけで、周辺に囲いや立ち入り制限を設ける必要はない?200年耐久する表示は可能か?】

次に最終処分について。

最終処分は基本的に素掘り

  • 福島第一原発事故による汚染土の最終処分は、基本は素掘りの穴(左)を掘って埋める。一部、セシウムが溶出するときには遮水工を設置する(右)

資料5 除去土壌の埋立処分基準(案)のポイント p2
ただし「10万Bq/kgを超える場合には」遮蔽型にすることが小さな文字で上図の下に書いてある)
  • 最終処分で「10万Bq/kgを超える場合には、コンクリート構造による外周仕切設備が設けられた場所で処分する」(資料5 P2)

  • 委員からは、「一部というが、どういう基準で遮水工は設けるのか?処分場は管理をしないといけないと後世に負担をかける。セシウムはほとんど溶出しないから不要ではないか」「豪雨が降ったら、遮水シートがあると、水が溢れるのではないか」などの指摘。【実際、再生利用の実証事業の予定地(新宿御苑)が豪雨で内水氾濫したとの指摘が関係者からなされている】

再生利用と最終処分の違いは、目的があるかないか?

  • 再生利用と最終処分の基準案で定める主な項目はほぼ同じ(以下の通り)。

汚染土の再生利用基準(案)P4より
汚染土の最終処分基準(案)P3より
  • 【会合後に取材すると、環境省は8000Bq/kgという数値は基準の中に入れるが、覆土して1mSv/年を超えないようにするというのに、覆土の厚さについては基準に入れないという】

  • 【会合後に最終処分と再生利用は何が違うのかを、環境省の中野哲哉環境再生事業担当参事官に取材すると、「再利用には目的があり、最終処分には次の目的がなく埋めたらそれで終わりだ」というだけの違いだと言う。やはり、「再生利用」とは名ばかりの「最終処分」だ

  • 最終処分と再生利用の責任者は除染実施者なので、福島県内は国、県外は市町村が最終処分と再生利用の責任者となる。【福島県外で除染をさせられた市町村は、除染のみならず、最終処分も再生利用も(東京電力の失態の後始末を)未来にわたって責任を押し付けられるのは、あまりにも理不尽ではないか?福島県外で都道府県が汚染土を使っても、市町村が200年管理させられるのか?】

  • 最終処分を実施するために取り組むべき課題の一つは、選ばれる最終処分場ごとに固有の評価が必要になること。

  • 重金属などの汚染のおそれが高いときには「土壌汚染対策法」も参考にする。【「参考」ではなく、適用すべきではないのか】

2024年9月17日、下記、合同会議にて筆者撮影

【タイトル写真】

2024年9月17日(火)中間貯蔵施設における除去土壌等の再生利用方策検討ワーキンググループ(第7回)中間貯蔵施設における除去土壌等の減容化技術等検討ワーキンググループ(第7回)除去土壌の処分に関する検討チーム会合(第10回)合同会議にて 筆者撮影


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