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主導権:官僚に握られた原子力規制委員会

「これできますかね」--内部文書の確認を記者に求められた原子力規制委員長は、担当課長に確認を指示するべきところ、顔を伺った。原発の運転規制に関する法改正内容が、規制委での議論が始まる前に、経産省と規制庁の間で決められていたことを示す内部文書の確認についてだ。

内部情報とは法改正案と人事

12月21日、原子力資料情報室の松久保肇事務局長が、これまで知られていなかった2つの内情を明らかにした。

  • 運転期間制限に関する法改正について原子力規制委員会がリアクティブに10月5日に始めたはずの検討が、8月に経産省と規制庁の間で決まっていたこと

  • 「9月1日付で法令実務経験のある職員3名に原子力規制部規制企画課に併任辞令」が出ていたこと。

記者たちは、その裏付けを取るため、午後の定例会見で原子力規制委員長に質問を浴びせた。結果、文書内容が確認できただけではなく、3つの大きな問題が露呈した。順に整理していく。

上記が8月時点で作成されたことに加え、「9月1日付で法令実務経験のある職員3名に原子力規制部規制企画課に併任辞令」が出ていたという内部情報が、原子力資料情報室により明らかにされた。

0.「頭の体操」?

3つの問題を整理してノートを作っておくが、内部情報の中身をやや詳述する(各紙が既に報じているので、文末にリンクも貼っておく)。

  • 来年の常会に提出予定のエネ関連の「束ね法(経産主請議)」により、現在、炉規制法に規定されている発電炉の運転制限を、電気事業法に移管。

  • これに伴い、同束ね法により、【高経年化対策に関する安全規制】を炉規制法に新設。

  • 重要広範となる可能性も念頭に、スケジュール、立法事実/法律事項などを、今後、経産省とも調整・検討。規制庁内は当面、4名程度のコアメンバーで立法作業に着手。

  • 改正の具体的イメージ図(上図)

そして「9月1日付で法令実務経験のある職員3名に原子力規制部規制企画課に併任辞令」が出されていたという情報。これらが緊急記者会見の形で原子力資料情報室からもたらされたので、少なくない記者がその情報を手に会見に臨んだ。

原子力規制委員長は、10月5日から12月21日にかけて決まっていったことになっている具体的な法改正の中身が、既に8月時点で経産省と規制庁職員の間で決まっていたことについて、「頭の体操」と呼び「問題がない」と述べた。時間のある方は1時間半弱の会見を早回しで、または速記録で確認することをお勧めする。

原子力規制委員会定例記者会見(2022年12月21日)動画 

1. 原子力規制委員と規制庁職員との関係性

記者たちは入れ替わり立ち替わり、法改正の中身と人事体制が9月1日までに決まっていたことは問題ではないかと質問。組織を形作る原子力規制委員と規制庁職員の関係性はマズイものになっているというのが多くの記者が受けた印象だと言える。以下、ごく一部のやり取りを抜粋する。

ガバナンスできているのか

○記者 委員長が御存じがない段階で、もう、つまり8月から、いわゆる規制庁と、少なくとも規制庁と経済産業省との間でいろいろ詳細なすり合わせが行われていないとこういう準備というのは行われないと思うのですけど、全然御存じがないというのは、つまり規制委員会として規制庁をきちんとガバナンスできているのかという問題になろうかと思うのですけど(略)。

○山中委員長 職員が何かこういうその原子力関係の我々安全規制に関係するような事案について、検討するということ自身は特段の問題を感じておりません。(略)準備あるいは頭の体操するということ自身はそういうことはある、あっても別に悪いものではない

○記者この併任の辞令というのはどなたが最終決裁をされたのか、原子力規制庁の長官というふうに考えてよろしいでしょうか

○金城原子力規制企画課長 企画課長の金城のほうから答えますけど、最終的な決裁は長官だったと思います。その決裁ですね。

○記者 長官は御存じだけど規制委員会の方は御存じがないって、そういうことですが、これだけ重要な問題で、そういうことで問題ないということですか。

○山中委員長 少なくとも私が原子力規制委員会委員長になって、9月28日の委員会から議論をさせていただいたということで、特段何かそういう職員が検討していたということで弊害が出たとは思っておりません

12月21日会見速記録

お飾りのような機関

○記者 規制庁のほうで頭の体操をすることはもう構わないと、問題はないと考えているということでしたけれども、私の認識としては、規制庁というのはあくまで事務方であって、原子力規制委員会の指示に基づいて何か検討を始めるということだったと思います。現に、10月5日のときに山中委員長は検討してくださいという指示をされたわけです。その検討を指示する前に検討が進んでいたかもしれないということについては、それでも問題はないということなんでしょうか。(略)規制委員会が規制庁を追認するようなお飾りのような機関になってしまうのかなと思うんですけれども、お考えをお聞かせください。

○山中委員長 少なくとも最終的に議論をするのは原子力規制委員会で、委員がそれぞれ意見を戦わせて議論して決定するのが原子力規制委員会だと思っておりますので、少なくともこの数か月、数回にわたって議論をしてきましたけれども、委員はそれぞれの意見を言われて、案がまとまったというふうに考えておりますし、何かその予定どおりの案になったとは思っておりません。

12月21日会見速記録

委員長「認識しておりません」

○記者 法令実務経験のある職員3名を原子力規制部の規制企画課、金城さんのところだと思うのですが、この併任の辞令が出ているというような説明があったのですが、こういったその人事の件というのは委員長は御存じなんでしょうか。

○山中委員長 少なくとも今伺った事実については、私自身認識しておりません

○記者 金城さんもいらっしゃるのでこの9月1日付で、この法令実務経験のある職員3名を原子力規制部規制企画課に併任の辞令を出したという事実関係の正否についてお答えいただけますでしょうか。

○金城原子力規制企画課長 (略)法令実務経験のある人間も含まれていましたけど、当然現場というのですか、高経年化技術評価とかに詳しい技術系の人間も入れて3名。もし何か起こったときのために準備として企画課には併任をかけておきました。

12月21日会見速記録
記者質問に答える山中伸介・原子力規制委員長 12月21日筆者撮影

2 推進と規制の分離

福島第一原発事故の原因の背景に、原子力の推進と規制が経産省の中で一体となっていたという教訓が得られた。そこでできたのが原子力規制委員会だが、独立性が完全に崩壊した。多くの記者が苛立ちを感じながら質問をしたはずだ。以下、ごく一部のやり取りを抜粋する。

規制と推進が一体となっている

○記者 内容については具体的にもう今日出されているような内容がそこでエネ庁さんと調整をされていて、どうやって束ねるかというような中身が示されているというような内容です。これって、山中委員長が常々言っていた公開の場でとか、要は委員会の意思決定の前にこういう調整をすること自体、もう既に規制と推進が一体となっていると、個人的には捉えるのですがいかがでしょうか。

○山中委員長 規制庁の職員がどういう活動をしていたかというのは私は承知しておりませんけれども、少なくとも委員会の場で様々な議論を開始したのは9月18日、私が委員長になった時点で資源エネルギー庁を呼んでいいかどうかという議論をさせていただいて10月5日に来ていただいて、方針を確認したという、そこから議論をスタートしていますので、少なくともその職員がどういう準備をしていたのかということについては私自身は承知していません

○記者 逆に手を組んでも問題はないのですか

○山中委員長 少なくともどういう検討していたか、あるいは頭の体操をしていたかだと思います。そういう準備を少なくともその制度が変更されるということで検討をしていたということであれば、そういう準備をしていたんだろうなというふうに想像します。

○記者 繰り返し失礼します。同じですけども、準備をしていたそのファクトはそうだとして、それ自体は問題ではないのですか

12月21日会見速記録

推進と規制が何かくっついてその運転期間を延ばそうとしてる

○山中委員長 少なくとも、職員がいろいろ案件について考察をしていくということは委員長に事細かく報告する必要もないかと思いますし、これについてはいろいろ準備検討するということについては、特段、私、問題があったとは思いません。

○記者 委員長はそういうお考えということは分かりました。でも、一般の方からすると、福島の事故があったからわざわざ第三者委員会の規制委員会つくったのに、推進と規制が何かくっついてその運転期間を延ばそうとしてるというふうに見られると思うんですけど、その辺はいかがでしょうか。

12月21日会見速記録

3 国民に対する透明性

福島第一原発事故後、原子力規制行政は、国民が監視の公開原則のもとで運営されるはずだったが、それも瓦解した。独立性と公開の双方が崩れ去ったのではないか。以下、ごく一部のやり取りを抜粋する。

委員長「指示はしない」→「できますか」

○記者 それはやり取りをしていたのは金城課長お一人ですか。それとも複数人ですか。

○金城原子力規制企画課長 私は当然やり取りするときはいろいろ補佐とか、関係のものを含めてやっていますので、複数の者で聞いているといったところですね。

○記者 その情報公開について、10月5日の会見で委員長御自身が、事務方同士の意見交換をどう透明性を確保するかということについて、できる限り公開してほしいし、事実確認をするものでとどめてほしいと、できる限り公開が原則かとおっしゃっています。ここはその5日の会見以降のことについては実際にその面談録に出ているような状況ではあるのですが、その前のことについてもやはり出すべきではないかというふうに考えるのですが、その辺りどうですか。

○山中委員長 本当に私自身9月26日に就任した時点で、そういう検討を始めましたので、委員長としての指示としては、10月5日以降、情報交換をした場合には公開をしてほしいという、そういう指示を出しましたけれども、この事実を知ることになったのはもっと後の話なので、過去にさかのぼって云々ということについては、当然、その記録が残ってるかどうか別でしょうけども、私自身、今、指示を出すということは今考えていません。

○記者 記録が残ってるかどうかのその確認はしていただけませんか。

○山中委員長 これできますかね。

○金城原子力規制企画課長 この記録が残ってるかどうかの確認は、ちょっとできるかどうかも含めてちゃんと検討したいと思います。

12月21日会見速記録

情報公開請求に課長が電話で回答

○記者 その文書が内部文書に当たるかどうかについては宿題扱いということですので詳しくお聞きしませんが、原子力資料情報室が原子力規制庁に情報公開請求を行ったと。それに対して、規制庁の原子力規制企画課より、事前に検討した経緯というのは存在しないということで、要するに文書が存在していないということですね。いわゆる関係省庁とのやり取りなどについてですが、となると、もしその文書がいわゆる内部文書というものが存在していたということになると、情報公開請求に関して、存在しているにも関わらず存在していないというふうに規制庁金城さんの部署ということになると思うんですけど、答えたということにならないのかと思うんですけど、情報公開請求というのがちゃんと機能してるのかですね、そういう問題も出てくるんじゃないかと思うんですけど、どうなんでしょうか。

○金城原子力規制企画課長 企画課の金城からですけど、情報公開請求、いろいろ来てございますが、どういった例えば期間でどういった内容でといったものはちゃんと請求者と精査した上でその存否は確認した上で出していますので、私はこれまで見て出した中では、そういったものは確かに含まれてなかったと思いますので、ですから、ちょっとその情報公開請求は具体的にどのような範囲でどのような内容でといったことをちょっと詳しめに教えていただければあれですけれども、多分この今議論されてる中には含まれてなかったと思います。

12月21日会見速記録

なお、原子力資料情報室の松久保氏によれば、存在しないという回答は電話での連絡だったという。これは情報公開法で請求されたが開示したくない文書を請求された時の官僚の一つのやり方だ。事実に反して「不存在」という開示決定書を出せば、公文書偽造になったり、不服申立てをされたりするから電話で済ませようとする。(念のために、会見終了後に筆者はあえて開示請求文書を提出した。)

この問題は、多くの記者が指摘しているが、委員長が知っていたとしても知らなかったとしても大問題。最後にこれに関する私自身の質問部分も記録として載せておく。

原子力規制委員会定例記者会見(2022年12月21日)

○記者 フリーランスのマサノです。先ほど質問がなされていた8月時点での内部での検討についてなのですけれども、確認なのですが、委員長としては頭の体操とか準備であれば問題ないというふうに認識を示されたと思いますが、それでよろしいんでしょうか。
○山中委員長 少なくとも私が聞いていいますのは、9月1日で併任がかかったというのは確かめまして、そういう情報は得ております。少なくとも8月24日の時点でGX会議で運転期間の延長ということについては取り上げられておりますので、職員として何かそれに対して検討を始めるということは当然あり得る話かなというふうに考えています。
○記者 そのやり取りの中で、具体的に言うと、「炉規制法に規定されている電発炉の運転期間制限を電気事業法に移管」とはっきり書いてあるのですが、そこまで今回の結論と全く一致していますが、そこまでのものが検討されていたと、規制庁と経産省の間で。それでも問題はないんでしょうか。8月時点であれ、9月1日でもいいのですけど、問題ないとお考えですか。
○山中委員長 その中身については私承知しておりませんけれども、その後様々なその運転期間の延長について準備をされる、あるいはその原子炉等規制法の運転期間について仮に政策側で何か新しい提案があれば、除外されるということは可能性としてはありますので、それについて制度設計の準備を進めるということ自身は問題はないと思っています。
○記者 規制庁がそれを了解した上で、相談をしていたとしても問題ないということですか。
○山中委員長 私自身どういう内容で、どういうことをされていたのかということについては承知しておりませんので、少なくとも9月1日の時点でその併任がかかったということについては承知をしておりますけれども。
○記者 それでは今おっしゃった「併任がかかった」ということは承知していると。金城課長の下に併任が来たと、それは何をするための併任であると9月1日時点で聞いたんでしょう。
○山中委員長 私が聞いたのはもっと後の話です。
○記者 いつですか。
○山中委員長 正確には11月末頃だと思います。報道機関からそういう指摘があって調べてみますということで確認させていただきました。
○記者 そのときに何のための併任だったと説明を受けられましたか。11月の時点で。
○山中委員長 運転期間延長あるいは原子力の政策が変更されるということについての準備という、何を具体的にそのどういうことを議論したかということについてまでは確認しておりません。
○記者 では9月1日時点の併任は、運転期間の延長の変更に対するものであったということで確認させていただきました。

12月21日会見速記録

関係報道

委員長指示なく検討着手規制庁、経産省と原発延長巡り
日経新聞12月21日
原発運転延長巡る検討事務方が規制委の指示待たず経産省とスタート
朝日新聞12月22日
原発60年超「事前調整」、規制庁と経産省NPOが文書入手
毎日新聞12月24日

【タイトル写真】2022年12月21日会見

この日は、いつもより多くの記者が集まった。


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