「これできますかね」--内部文書の確認を記者に求められた原子力規制委員長は、担当課長に確認を指示するべきところ、顔を伺った。原発の運転規制に関する法改正内容が、規制委での議論が始まる前に、経産省と規制庁の間で決められていたことを示す内部文書の確認についてだ。
内部情報とは法改正案と人事
12月21日、原子力資料情報室の松久保肇事務局長が、これまで知られていなかった2つの内情を明らかにした。
記者たちは、その裏付けを取るため、午後の定例会見で原子力規制委員長に質問を浴びせた。結果、文書内容が確認できただけではなく、3つの大きな問題が露呈した。順に整理していく。
0.「頭の体操」?
3つの問題を整理してノートを作っておくが、内部情報の中身をやや詳述する(各紙が既に報じているので、文末にリンクも貼っておく)。
来年の常会に提出予定のエネ関連の「束ね法(経産主請議)」により、現在、炉規制法に規定されている発電炉の運転制限を、電気事業法に移管。
これに伴い、同束ね法により、【高経年化対策に関する安全規制】を炉規制法に新設。
重要広範となる可能性も念頭に、スケジュール、立法事実/法律事項などを、今後、経産省とも調整・検討。規制庁内は当面、4名程度のコアメンバーで立法作業に着手。
改正の具体的イメージ図(上図)
そして「9月1日付で法令実務経験のある職員3名に原子力規制部規制企画課に併任辞令」が出されていたという情報。これらが緊急記者会見の形で原子力資料情報室からもたらされたので、少なくない記者がその情報を手に会見に臨んだ。
原子力規制委員長は、10月5日から12月21日にかけて決まっていったことになっている具体的な法改正の中身が、既に8月時点で経産省と規制庁職員の間で決まっていたことについて、「頭の体操」と呼び「問題がない」と述べた。時間のある方は1時間半弱の会見を早回しで、または速記録で確認することをお勧めする。
原子力規制委員会定例記者会見(2022年12月21日)動画
1. 原子力規制委員と規制庁職員との関係性
記者たちは入れ替わり立ち替わり、法改正の中身と人事体制が9月1日までに決まっていたことは問題ではないかと質問。組織を形作る原子力規制委員と規制庁職員の関係性はマズイものになっているというのが多くの記者が受けた印象だと言える。以下、ごく一部のやり取りを抜粋する。
ガバナンスできているのか
お飾りのような機関
委員長「認識しておりません」
2 推進と規制の分離
福島第一原発事故の原因の背景に、原子力の推進と規制が経産省の中で一体となっていたという教訓が得られた。そこでできたのが原子力規制委員会だが、独立性が完全に崩壊した。多くの記者が苛立ちを感じながら質問をしたはずだ。以下、ごく一部のやり取りを抜粋する。
規制と推進が一体となっている
推進と規制が何かくっついてその運転期間を延ばそうとしてる
3 国民に対する透明性
福島第一原発事故後、原子力規制行政は、国民が監視の公開原則のもとで運営されるはずだったが、それも瓦解した。独立性と公開の双方が崩れ去ったのではないか。以下、ごく一部のやり取りを抜粋する。
委員長「指示はしない」→「できますか」
情報公開請求に課長が電話で回答
なお、原子力資料情報室の松久保氏によれば、存在しないという回答は電話での連絡だったという。これは情報公開法で請求されたが開示したくない文書を請求された時の官僚の一つのやり方だ。事実に反して「不存在」という開示決定書を出せば、公文書偽造になったり、不服申立てをされたりするから電話で済ませようとする。(念のために、会見終了後に筆者はあえて開示請求文書を提出した。)
この問題は、多くの記者が指摘しているが、委員長が知っていたとしても知らなかったとしても大問題。最後にこれに関する私自身の質問部分も記録として載せておく。
原子力規制委員会定例記者会見(2022年12月21日)
関係報道
■委員長指示なく検討着手規制庁、経産省と原発延長巡り
日経新聞12月21日
■原発運転延長巡る検討事務方が規制委の指示待たず経産省とスタート
朝日新聞12月22日
■原発60年超「事前調整」、規制庁と経産省NPOが文書入手
毎日新聞12月24日
【タイトル写真】2022年12月21日会見
この日は、いつもより多くの記者が集まった。