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地震の巣窟で女川原発再稼働

2024年10月29日、東北電力が、牡鹿半島の中ほど太平洋岸に立つ女川原発2号機の核燃料から制御棒を引き抜いた。12月に営業運転を開始すると発表した。


大事故まで「紙一重」だった

女川原発は、東日本大震災で大事故まで「紙一重」だったと「女川原発の再稼働を許さない!みやぎアクション」の多々良哲さん(資料)が原子力市民委員会のセミナーで語った。不勉強だった私は震え上がった。

  • 標高14.8mの地盤が1m地盤沈下し、津波は13m。80cmの差で助かった。

  • 2号機建屋地下のB系の冷却システムは2.5m水没。A系統だけ生き残った。

  • 外部電源5系統中4系統がアウト

  • 1号機タービン建屋地下の高圧電源盤で火災発生道路寸断で消防は出動できず、粉末消化器で消火。

  • 使用済燃料プールに異物落下など600箇所以上不具合が公表された。

  • 新規制基準の適合性審査では2号機原子炉建屋の壁に、1130箇所のひびが見つかり、剛性が7割低下していた。

適合審査は長引いた。当たり前だ。いや、本来なら、廃炉にしても不思議はない。

業界のプレッシャーで政界は原発回帰

ところが、電気事業連合会や原子力エネルギー協議会(ATENA)など原発推進業界団体は、審査の効率化を!とプレッシャーを与え続け、岸田前内閣は、GX基本方針で「再稼働の遅れ」(P9)と問題視した。そして、原子力を「脱炭素電源」として最大限活用(P3)すると原発回帰へと舵を切った。

再稼働を巡っての抗議声明など

今回の再稼働を巡り、原子力資料情報室は「女川原発2号炉がかかえる安全上の問題点」で、女川原発と同じ「沸騰水型原発」だった福島第一原発で起きた水素爆発のメカニズムは十分解明されていないなどの問題を指摘している。

また、国際環境NGO FoE Japanは抗議声明で「能登半島地震では、20ある放射線防護施設のうち、3施設で倒壊のおそれなどで施設としても使用できなかった。放射性物質の侵入を防ぐ装置については、3施設で起動不可」だったなど「女川原発の避難計画は、能登半島地震の経験や教訓を踏まえたものではない」とし、直ちに停止することを求めている。

政府は住民を守るのか?

政府はこれまで「安全が確保」されれば再稼働とのスタンスを取ってきたが、安全は誰が確保しているのか。国際的には「深層防護」の第1層〜第4層は原子力敷地内で確保し、それを突破する災害は第5層で住民を守ることになっている。

日本では第1〜4層は、原子力規制委員会が審査するが、第5層は内閣府が会議を開くだけだ。

そして、現在、本来は第5層の一種である「屋内退避」(避難させないケース)について原子力規制委員会が第4層と混ぜた不思議な形で議論中だ(メモ「屋内退避は「深層防護」の年層目か」)。

第5層 原子力防災「会議」だけ

住民を守る避難計画(緊急時対応)について、審査せず、会議だけの原子力防災会議とはどのようなものか。女川原発に関する2020年6月22日の第10回会議次第配布資料)の議事内容はたったこれだけ(議事録)だ。

○荒木 内閣府政策統括官 お手元の資料1-1を御覧ください。女川原子力発電所は宮城県の牡鹿半島に位置し、原子力災害対策重点区域内には、女川町及び石巻市など、7市町が含まれています。当該重点区域の人口は約20万人です。この地域の主な特徴は、半島の南側から北に向かって陸路で移動する場合には、発電所の近くを通ることとなること、半島の周辺に離島があることであり、この地域の防護措置として、放射性物質が放出される前の段階から、予防的に避難等を実施することとしています。
 東日本大震災の被災地でもある当該地域においては、津波や地震などとの複合災害の発生を想定した防護措置として、特に半島部や周辺離島は陸路、海路、空路といった複数の避難手段を確保しています。天候の悪化などにより避難が困難な場合には、天候等が回復するまでの間は自宅等で屋内退避を行うこととなりますが、安心して屋内退避をしていただけるよう、地元自治体の要望も踏まえた屋内退避施設の放射線防護対策を進めています。
 また、当該重点区域の中で避難等に際して、支援や配慮が必要な方々の人数や居住地の状況等を把握し、それらに必要な輸送手段や避難先等を確保しています。さらに、新型コロナウイルス感染症等の感染症流行下において、原子力災害が発生した場合の避難車両、避難所における感染拡大防止策等の基本的な考え方を盛り込んでおります。原子力災害への備えに終わりや完璧はないことから、引き続き関係自治体と一体となって、緊急時対応のさらなる改善に、継続的に取り組んでまいります。以上でございます。

○菅 内閣官房長官 ただいまの説明について、発言をお願いいたします。まずは、原子力規制委員会委員長。
○更田 原子力規制委員会委員長 女川地域原子力防災協議会において確認された「女川地域の緊急時対応」は、原子力災害対策指針に沿った具体的かつ合理的なものであると考えております。原子力規制委員会としては、今回確認された計画などに基づき、緊急時の役割を確実に果たしてまいりたいと考えております。以上です。

○菅 内閣官房長官 次に、防災担当大臣、国家公安委員会委員長。
○武田 防災担当大臣兼国家公安委員会委員長 まずは防災担当大臣として申し上げます。自然災害と原子力災害の複合災害に的確に対応できるよう、緊急災害対策本部と原子力災害対策本部の意思決定の一元化、情報収集及び指示・調整の一元化にしっかり取り組む所存であります。
 続いて、国家公安委員会委員長として申し上げます。原子力発電所において災害が発生した場合、警察では、速やかに体制を構築するとともに、関係機関と連携し、被害の拡大防止を図ります。また、被害状況等を踏まえ、警察災害派遣隊を派遣するほか、緊急時対応において不測の事態が生じた場合には、住民の安全を最優先とし、必要な活動を適切に実施していく所存であります。以上です。

○菅 内閣官房長官 次に、総務大臣。
○高市 総務大臣 総務省としては、不測の事態が生じた場合には、関係県の要請などに応じ、緊急消防援助隊の派遣により、避難行動要支援者や傷病者の搬送、住民への避難指示の伝達などについて、広域的に支援をしてまいります。以上です。

○菅 内閣官房長官 次に、国土交通大臣。
○青木 国土交通副大臣 原子力災害発生時には、海上保安庁が、巡視船艇・航空機を派遣し、海上における警戒活動、放射線モニタリングの支援を行います。住民の避難については、民間船舶では対応が困難な場合には、状況に応じて海上保安庁の巡視船艇又は航空機を派遣して対応いたします。国土交通省としては、関係省庁や地元自治体と緊密に連携し、対応をしてまいります。以上でございます。

○菅 内閣官房長官 次に、防衛大臣。
○河野 防衛大臣 自衛隊は、女川地域において原子力災害が発生した場合には、宮城県知事などからの要請を受けて、多賀城駐屯地の第22即応機動連隊を主力とした陸上部隊、航空機、艦艇等を派遣し、関係機関と緊密に連携しながら、避難住民の輸送、簡易除染などの支援活動を実施いたします。

○菅 内閣官房長官 次に、経済産業大臣。
○梶山 経済産業大臣 今回の「緊急時対応」を踏まえ、東北電力に対しては、住民避難時の線量検査や放射線防護資機材の貸与など、原子力災害時の対応に、他の事業者とも緊密に連携してしっかりと取り組むよう指導してまいります。以上です。

○菅 内閣官房長官 それでは、原子力防災担当大臣。
○小泉 原子力防災担当大臣 今回の緊急時対応の取りまとめに当たっては、関係省庁には様々な御協力をいただきました。まずありがとうございます。女川以外の地域も含めて、引き続き御協力をお願いいたします。
 特に自衛隊を始め、警察、消防、そして海保、このような実働部隊の皆さんには、地元から現地で、自治体から強い期待が寄せられておりますので、各担当の大臣におかれましては、万が一の場合の対応についてよろしくお願いいたします。
 また、感染症流行下では、可能な限り感染防止対策との両立を図り対応しますが、万が一の際には被ばくと被ばくリスクの回避を優先するなど、国民の生命・健康を守ることを最優先に取り組んでまいります。
 今後とも、関係自治体と一体となって、感染症流行下での原子力災害対策に万全を期してまいります。

○菅 内閣官房長官 それでは、原子力防災会議としては、ただいまの報告を了承したいと思いますが、よろしいでしょうか。 
(異議なし)
○菅 内閣官房長官 ありがとうございます。次の議題に参ります

2020年6月22日の第10回原子力防災会議 議事録より

第1〜4層 原子力規制委員会の審査

一方、原子力規制委員会の女川原発2号機に関する新規制基準に基づく適合性審査の記録は以下の通り。

女川原発2号機 設置許可

申請日  2013年12月27日
 補正:2019年9月19日
 補正:2019年11月6日
 補正:2019年11月19日
 補正:2020年2月7日
許可日 2020年2月26日
備考 審査会合等の状況

発電用原子炉に係る適合性審査状況 設置許可より

女川原発2号機 設計工事計画認可

申請日 第1回:2013年12月27日
 補正:2020年5月29日
 補正:2020年9月30日
 補正:2020年11月30日
 補正:2021年2月19日
 補正:2021年3月31日
 補正:2021年11月24日
 補正:2021年12月10日
 第2回:2014年7月2日(申請取り下げ)
認可日 2021年12月23日

発電用原子炉に係る適合性審査状況設計工事計画認可より

女川原発2号機 保安規定認可

2023年3月8日 審査中 東北電力(株)女川原子力発電所原子炉施設保安規定変更認可申請(実用発電用原子炉及びその付属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈等の改正に伴う変更)

2022年6月20日 審査済 東北電力(株)女川原子力発電所原子炉施設保安規定変更認可申請(女川原子力発電所の工事の作業エリア確保に伴う女川原子力発電所周辺監視区域の一部の変更)

2021年2月19日 審査済 東北電力(株)女川原子力発電所原子炉施設保安規定変更認可申請(組織整備に伴う変更等)

2020年5月29日 審査済 東北電力(株)女川原子力発電所原子炉施設保安規定変更認可申請(原子力規制における検査制度の見直しに伴う変更)

2019年12月16日 審査済 東北電力(株)女川原子力発電所原子炉施設保安規定変更認可申請(女川原子力発電所1号炉の廃止措置に伴う変更及び放射性廃棄物でない廃棄物の管理に伴う変更)

2019年3月1日 審査済 東北電力(株)女川原子力発電所原子炉施設保安規定変更認可申請(組織変更に伴う変更等)

2018年8月2日 審査済 東北電力(株)女川原子力発電所原子炉施設保安規定変更認可申請(モニタリングポスト移設に伴う変更等)

2017年12月1日 審査済 東北電力(株)女川原子力発電所原子炉施設保安規定変更認可申請(組織整備に伴う変更)

2017年3月31日 審査済 東北電力(株)女川原子力発電所原子炉施設保安規定変更認可申請(組織整備に伴う変更等)

2015年12月24日 審査済 東北電力(株)女川原子力発電所原子炉施設保安規定変更認可申請(緊急作業時の線量限度の見直しに伴う変更)

2014年4月16日 審査済 東北電力(株)女川原子力発電所原子炉施設保安規定変更認可申請(組織改編に伴う変更等)

2013年12月27日 審査済 東北電力(株)女川原子力発電所原子炉施設保安規定変更認可申請(原子力規制委員会設置法の一部施行に伴う変更(新規制基準の施行に伴う変更))

2013年11月6日 審査済 東北電力(株)女川原子力発電所原子炉施設保安規定変更認可申請(1号炉の原子炉施設の経年劣化に関する技術的な評価の実施に伴う長期保守管理方針の追加)

2013年10月4日 審査済 東北電力(株)女川原子力発電所原子炉施設保安規定変更認可申請(実用発電用原子炉に係る発電用原子炉設置者の設計及び工事に係る品質管理の方法及びその検査のための組織の技術基準に関する規則の制定に伴う変更等)

2013年4月26日 審査済 東北電力(株)女川原子力発電所原子炉施設保安規定変更認可申請(協力企業従業員への保安教育の管理個所見直しに伴う変更等)

届出
2023年3月1日 東北電力(株)女川原子力発電所保安規程変更届出(新規制基準の施行等に係る変更)

東北電力株式会社 女川原子力発電所の規制 保安規定認可より

これだけ審査しても、それは人間が作った基準をクリアしたというだけで、安全が確保されたわけではない。

地震の巣窟でなぜ原発なのか

それにしても、なぜ、地震大国で他に代替策のある発電を原子力で賄おうとするのか。自然を畏れることをなぜ忘れるのかと、防災科研の「日本全国 広域 最新30日間 の震央分布図」(以下)を見て叫びたい。これはたった30日間に起きた地震の震央の分布なのだ。日本列島は絶えず揺れている。

https://www.hinet.bosai.go.jp/hypomap/?ft=1&LANG=ja (2024年10月30日現在)

【タイトル画像】

防災科研のHi-net自動処理震源マップ「日本全国 広域 最新30日間 の震央分布図」で「東日本」を選択して、一部を筆者切り抜き。


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