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放射能汚染土「NOと言える新宿区であって欲しい」住民の声

1月12日、「新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会」が、新宿区長に申し入れを行った。

「反対する会」立ち上げと申し入れ

まず、「新宿2丁目に住んでいる」という平井玄さんが申し入れをするに至った経緯を説明。環境省が福島の除去土壌を再利用する実証事業を新宿御苑で行うことを昨年12月に報道で知ったこと、同省の説明会はほとんどの住民は知らず、事実上の「非公開」だったこと、そして、準備会を経て1月7日に「新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会」を立ち上げたことだ。

そして、他のメンバーが申し入れ書を読み上げた。内容は3点だ(以下、要点)。

  1. 「実証事業」について広報掲載やチラシの全戸配布等により周知すること。

  2. 環境省が12月21日に行った説明会の議事録を区民に公表し、誰もが参加できる説明会を再び開くよう求めること。

  3. 区民、来園者、関係者すべての人の安全が保証されない限り、新宿御苑への放射能汚染土持ち込みを中止するよう国に求めること。

最初の口頭回答

吉住健一・新宿区長に代わり対応したのは、環境清掃部の村上部長と環境対策課の小野川課長(タイトル写真右から一人目と二人目)。

部長らは申し入れ書を「預かります」と応じた上で、一通りの回答を口頭で行った。それは当初はそっけない次のようなものだった。

8月に国(環境省)から実証事業の話があり、10月に概要が示された。12月の説明会のチラシがわかりにくかったので修正を求めたこと。説明会は今回は新宿1、2丁目だけだったため、住民理解を得る観点からは不足しており、他の町内からも説明会の要望が出ていること。説明会については国で検討していることなどだ。

最後には姿勢が変化

この回答に対して、参加者からは続々と質問が飛び出した。当初は、国と新宿区の関係性に関する意識に、部長らと住民の間で「ズレ」が目立ち、質疑がギクシャクした。

しかし、双方向のやり取りを通して、ズレの間隔が縮まっていった。強いて表現すれば、ズレがあるなりに、ズレを認識した住民から区役所への期待が区役所に伝わった感がある。部長らも歩み寄り、1時間長の質疑が重ねられた結果、申し入れ3事項のほとんどは事実上、達成されたと言える。

  • 実証事業に関する広報掲載等は、広報と検討・相談する。

  • 説明会に至るまでの経緯や区の考え等については2月初旬を目処に(住民は2週間を要望)文書で記録公表(「今日説明を受けた僕たち以外の住民にも知ってもらう必要があるでしょう?」という同会からの説得により)。

  • 「安全であるという理解が住民に得られることが前提です」と国には(既に)申し上げている(そうでなければ進ませないというニュアンス)。

申し入れ後の質疑に参加した住民ら(2023年1月12日 新宿区役所会議室 筆者撮影)

忙しい読者さんはここまででOK(末尾に1月24日の集会の予定あり)。そこまでの対応を引き出した住民自治力を読み取りたい方は、この先を読み進めていただければ幸い。

双方向のやり取りメモ

申し入れの場に同席した参加者は、国の説明会に参加できなかった1丁目2丁目内外の20人ほど。双方向のやりとり(Q&A)を以下、記録させていただく(が多くを端折っている)。

Q:安全性について区の考えは?
A:環境省からは、基準の範囲の中で安全性が担保されており、区民の健康に影響を及ぼさないと聞いた。

Q:広報の掲載は?
A:全戸配布となるとちょっと違う。広報担当とも相談する。

Q:区は8月には知っていたのに、何故住民には12月まで知らせなかったのか。(11月には)区長選もあった。区として区民への責任を逃げているのではないか?A:国には「実証事業」は誤解を呼ぶ表現と指摘。国からは「土壌は一時的に持ち込むが戻す事業」と説明を受けた(いつまでという年限の説明は受けていない)。「どの範囲で説明するか」と相談を受け、「まず1丁目、2丁目で」と申し上げた。「チラシは何をするのか分かりにくい」と議会に指摘され、第2案を作って掲示した。隣接するほかの町にも今後さらに広げる。

Q:さらなる説明会はいつ行うと?
A:「準備があるのでお示しできる段階で知らせる」と環境省は言っている。

Q:チラシには汚染土の「オ」の字もなかった。「環境再生事業」と書いてあった。なんの説明かわからない。
A:「安心安全が大前提です」と環境省に申し上げた。国にも意見が集まっていると思う。区民にどう知らせるか、今日、色々意見をいただいたものについては、どう対応するか検討する。

補足:「土壌」とすら書いていなかった環境省のチラシ!

住民側が批判したチラシを見せてもらって筆者は驚いた。環境省が新宿1丁目、2丁目の掲示板に貼ってもらおうと最初に持ってきたチラシは、以下写真の通り、

  • 福島第一原発事故に伴う環境影響と環境再生事業について

  • 今回実施予定の実証事業について

としか書いていなかった。「汚染」どころか、環境省が通常使う「除去土壌」の「再生利用」という言葉もない。この第1案のチラシ(以下写真)を、以下のように修正してもらったという。

  • 福島第一原発事故に伴う環境影響と環境再生事業について

  • 今回実施予定の実証事業(福島県の除去土壌を再生利用した花壇整備)の事業計画や安全性について

環境省が新宿区に持ってきたチラシ第1案には「説明会の内容」に
「除去土壌」や「再生利用」の言葉すらなかった。

それでハタと思い出したが、所沢でも掲示板のチラシを見た住民が「あれじゃわからない」と言っていた(既報)が、このことだったのだ。所沢では修正のないまま、掲示板に貼られたのだろう。補足以上。

自治を熱く求めた住民たち(双方向のやり取りメモ続き)

Q:持ち込まれるのは8000ベクレル/kg以下と言われている。放射能汚染土ではないの? 違う場所にしてと言えなかったの? 8月に話があったなら議会にも話をすべきだったでしょ?
A:日常でも放射能を受けているが、実証事業で発せられるのは同じだと説明を受けた。8000ベクレルとの関係はわからない。今後は8000ベクレルの意味について一段踏み込んで説明して欲しいと申し上げた。議会には国が検討中だということで話さなかった。「12月21日でおしまいという姿勢は持たないで」と申し上げた。

Q:(2歳児を子育て中の弁護士だと自己紹介)地域の情報に気をつけているがこのことを知らなかった。新宿区には「新宿区自治基本条例」がある。積極的に情報公開するのが新宿区でしょう。8月に知っていたとか、国から相談を受けて1丁目2丁目からだと言ったのは区だったというのはビックリ。積極的に知らせて欲しい。区として情報を広報に載せてほしい。お願いします(参加者から拍手)。
A:隠しているということではない。

Q:基礎自治体は国とは別に自分たちで物事を考える存在。今日の話を聞いていると主体性を持っているとは思えない。除染土が汚染土かどうかもわからないと受身。だから住民自治を行使するためにもう少し質問したい。そもそも汚染土は特措法の「処分」だと環境省は言っているが拡大解釈だ。
A:福島の除去土壌を県外で30年以内に使っていくと書いてある。特措法との関係はわからない。

Q:(ゴールデン街で働いていると自己紹介)区はつまり実証事業を引き受けちゃっんですね? それともひっくり返るんですか? 区がダメであると断ることはできるんですか? 実証事業が90%あるものとして説明の仕方をどうのこうの言うのは言い逃れだ。NOと言える新宿区であって欲しい。

Q:12月の説明会の時、1丁目2丁目住民ではないけど参加したいと電話したら担当者が「環境省の事業ですから区は言う立場ではありません」と。区民としては区として対応してくださいとお願いしたんです。
A:そのように聞こえたなら残念。

Q:「残念」と言ったが、今日の態度はそれ。わからないなら、引き受けないで!
Q:新宿が引き受けたら全国どこでも大丈夫となる。新宿は笑い物になる。広報に載せるかどうかは国と相談すると言ったが、載せるかどうかは区の判断でやってください!
Q:なぜ新宿御苑?
A:環境省所管の場所でという話があり、10月に御苑という説明があり、選ばれたんだなと。「安全であるという理解が住民に得られることが前提です」と国には申し上げている。
Q:今、それ初めて聞いた。やること前提みたいだった。新宿御苑に持ち込まれる実証事業の土はわずかな量。安全性を確認するんですか?なぜ実験が必要なのか。
A:県外ではやることがなかったので環境省が管理をしてやりたいと。

Q:広報で知らせることに抵抗感を感じているのはなぜ?
Q:安全であるという国の言うことを真(ま)に受けないでください。安全だといって福島で事故が起きた。どうして国を信じることができるのか。そのほうが信じられない。
Q:僕たちは新宿区と対立したいわけじゃない。国の方を向くのではなく住民に向き合ってほしい。

基礎自治体の自治に期待し、住民自治を訴える繰り返しの言葉に、最初は構えていた部長らは率直な姿勢に変化した。冒頭にまとめたように、最後には住民の申し入れのほとんどは実質、聞き遂げられる方向になりそうだと感じる。

蛇足:筆者も便乗質問

実は、部長らが「基準の範囲の中で安全性が担保」されていると環境省から説明を受けたことが気になったので、最後の方で便乗質問させてもらった(開始前の名刺交換で取材者であることは名乗り済みの上)。

Q:放射性物質として扱わなくてよい「基準」は原子炉等規制法で定めた100ベクレルで、8000ベクレルはその80倍だと説明を受けたましたか? 特措法で省令で定めようとしたけどダブルスタンダードだと批判され、8000ベクレルという「基準」はまだないことは聞きましたか? 環境省はそういう説明はしていないと言っています(既報)から、その裏取り確認ですが。
A:説明を受けていません。安全だという説明を真に受けていました。(Q:50センチとか1メートルとか覆土して管理しなければ安全ではないという説明は?)管理が必要だという説明は受けました。12月21日の説明資料に詳細が出ています。第三者に理解してもらわなければダメですよね、という話はしてあります。

ズサンすぎる環境省の数字のマジック

申し入れ終了後、「12月21日の説明資料に詳細」とは「これのことですか」と聞いてみた。(「日常的に受けている線量」という単位もケタもうろ覚えのようだったから。無理もない。筆者にも難しい。)「それです」というので、数値を見て改めて驚いた。それは、作業員が汚染土壌の上で7日間毎日8時間働いて被ばくする0.034ミリシーベルトという線量だった。

2022年12月21日環境省説明資料19ページ

「ミリシーベルト/7日間、一日当たり8時間」という単位で説明されても、安全なのかどうか、わかる一般人はいるのか。筆者はわからない。

(土壌の汚染濃度や覆土の厚さなど「管理」の仕方で、被ばく線量は変化(へんげ)するので、「基準」を定めても「基準」とは呼べないと筆者は考える。)

作業員図の下には住民とおぼしき男女が「覆土」の上に立っている図もあるが、上の図とは単位が違う。そして、安全のためには、そのような「覆土」状態で約190年間の管理が必要だという数字は書いていない。数字と単位のマジックがずさん過ぎるのではないか?

1月24日(火)19時から「ご存じですか」集会

「新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会」は1月24日(火)19時から四谷地域センター12階多目的ホールで「新宿御苑に放射能汚染土が持ち込まれる計画があるのをご存知ですか」と題して「発足集会」を行う。福島からの参加者もいるという。

申し入れ後に受け取ったチラシ

関係取材ノート
放射能汚染土の再利用:原発基準の80倍
所沢:放射能汚染土利用の実証事業計画
新宿で原発汚染土「利用」説明:都区には夏に

タイトル写真【新宿区市役所での申し入れ】

2023年1月12日、吉住健一新宿区長への申し入れ書を読み上げる「新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会」メンバー。筆者撮影。

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