GX脱炭素電源法案で見えた「原子力ムラ」の姿
衆議院で審議が始まった脱炭素電源法案(5つの束ね法案)が修正の上、4月27日の本会議で賛成多数で可決。これから参議院での審議に向かう。
原発推進を「国の責務」とし、「運転期間」を規制法から削除して、経産大臣の許可で、40年の原則にプラスして、「他律的な要因で停止していた期間」を除外して20年延長できる。福島第一原発事故以来12年止まっていた原発は、うまくいけば、72年間は動かすことができてしまう。建設当初は、設計寿命が「40年」とされていた原発を、地震大国ニッポンで。
なぜそんなことになってしまったのか。
4ヶ月もかかった情報公開
その決定過程は、昨年12月に一部の内部資料が明らかになって以来、NPO法人原子力資料情報室や記者による情報公開請求、そして国会議員からの資料要求によって、ようやくその一部が明らかになった。原子力規制委員会側からだけではなく、経産省からも資料が公開された。3月末。開示請求の手続きから4ヶ月もかかった(*1)。
「情報公開は民主主義の通貨である」と言ったのは米国のラルフ・ネーダーだったか。日本国民はその通貨を手にしたとは言えず、まだ貧しい。しかし、その「貧しい通貨」でも、少なくとも5つのうち3つの法案の決定過程が見えてきた。それは大きな成果だ。原子力ムラの力は底恐ろしいと思ったが、「知は力」だ。
エネ庁からのアクション
原発回帰の仕掛けは、2017年から事業者から原子力規制委に対して始まっていたことは、既にわかっている(既報)。また、規制庁と経産省資源エネルギー庁(以後エネ庁)の「面談」は、2022年7月28日から9月28日までに少なくとも7回あったと、規制庁が昨年12月27日に記者会見で資料で明らかにした。4ヶ月かけて開いたブラックボックスには、エネ庁が、具体的にどのように、規制庁に話を持ちかけたかだった。提出されたのは60ページ(*2)。以下、順を追って主なものを抜粋する。
7月28日:運転期間を電気事業法に移す説得材料
① 通産省出身議員の国会質問
7月28日資料は、原子力規制委員会が権限を持つ「運転期間」を削除して、経産省所管の電気事業法に引っ越しをさせる説得材料の数々。目を引く1つは、2022年4月14日、原子力業界の要望を代弁する高橋はるみ参議院議員の質問と更田原子力規制委員長(当時)による玉虫色の答弁だ。
答弁を書いたのは規制庁官僚だが、規制庁幹部は、現在までにほとんどが経産省出身者。高橋議員も通産省(現、経産省)出身だ。
②自民党提言
次に目が止まるのは、自民党の提言及び公約だ。不偏不党であるべき経産官僚が、自民党内の委員会の提言や参院選前の公約を3ページも盛り込んでいる。自民党の公式ホームページからは辿り着くことができない「総合政策集2022 J―ファイル」から「2022年参院選 自民党公約」として、「震災後、原子力発電所の停止期間が長期化し、実質的な運転可能期間が短くなっていることや、長期停止期間の経年劣化に関する原子力規制委員会の見解を踏まえ、運転期間制度のあり方を含めた長期運転の方策について検討し、必要な措置を講じます」も抜粋されている。
③ 最初から国会審議は「束ね法案」でと
7月28日資料(第1回面談)で呆れるのは、運転期間を原子炉等規制法から削除して、電気事業法に「引越しする」というイメージだけでなく、原子力基本法も合わせて「束ね法」にして「内・環・経の連合審査」、すなわち国会の「内閣委員会・環境委員会・経済産業委員会の連合審査」と国会審議のやり方までを提案していたことだ。
④「 安全規制が緩んだように見えないことも大事」
さらに呆れるのは最後に、運転期間は「安全規制上の必要性から定められたものではなく」と整理し、「安全規制が緩んだように見えないことも大事」(*3)とした文言だ。
8月19日:規制法の改正条文までエネ庁が用意
8月19日(2回目面談)で、エネ庁は電気事業法と原子炉等規制法の改正条文までを書いて持ってきた(以下)。(ただし、この時は、原子力規制委員会が許可した後でなければ、電気事業法によっても運転ができないという案になっている。運転期間は安全規制だと意識していなければこのような条文案にはならないはず・・・。現在、国会で審議されている法案では、原子炉等規制法が電気事業法における認可の足枷になるような条文は消えている)
9月15日:シナリオ最終段階で規制委に説明
規制庁が明らかにした経緯資料によれば、9月6日に規制庁とエネ庁の担当者が顔合わせを行い(第4回面談)、9月15日(第5回面談)で、経産省の原子力小委員会で提出される予定の資料案が提示される。
その4日後の19日にようやく、山中委員(次期委員長)に規制庁から「22日の原子力小委員会で運転期間延長についても議論される見込み」が伝えられ、9月22日(第6回面談)に原子力小委員会の報告が行われる。
徹頭徹尾、エネ庁が、原子力規制委員会の知らないところで、規制庁の協力を得ながら、国会審議のやり方までシナリオを描いた。段取りがついたところで、9月28日の原子力規制委員会で、山中原子力規制委員長に「資源エネルギー庁との調整を事務局に指示」させ(議事録 P25)、10月5日の原子力規制委員会で運転期間をめぐる議論を始めさせた。その時には全ては決まっていた。
当初、設計寿命は「40年」であるとされていた原発。そのことは、国会審議の中でも繰り返し明らかにされた。しかし、それを70年でも可能にする法案はこうして国会に提出された。シナリオを描いたのは、明らかに経産官僚であり、原子力ムラの主要なアクターなのだ。それがいったい何のためなのか。惰性であること以外は、心底分からない。
(*1)資料は、複数の報道関係者、原子力資料情報室、国会議員が求めた。
・経産省が規制法改正案を作成 原発60年超運転の面談資料
共同通通信4月10日
・「安全規制が緩んだように見えないことも大事」経産省、水面下で規制庁に伝達北海道新聞4月12日
・経産省が原子力規制のあり方に意見か
NKH 4月14日
「運転延長の方針」正式決定前に“規制”と“推進”非公開に面談…原発『60年超』へkhb-tv 4月21日
(*2)「7月28日から10月5日の前までの間における原子力発電所の運転期間に係る原子力規制庁と資源エネルギー庁とのやりとりにおいて使用した資源エネルギー庁作成の資料」全文は、既報「規制委提案にならないよう経産官僚が「頭の体操」:原発の運転期間」の文末に掲載。
(*3)「安全規制が緩んだように見えないことも大事」としたことについては、4月12日衆議院経済産業委員会で山崎誠議員が「見えなければいいのか。官僚が『頭の体操』として書いたメモにしてはあまりに間違った考え方だ」と批判。西村経済産業大臣は、「ご指摘のように、極めて不用意な表現。これを書いた管理職に厳しく指導した」と答弁した。
【タイトル画像】
経産省資料(*2)より