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「原子力災害時の屋内退避の運用に関する検討チーム」も普通の「審議会」だった疑い

何度か書いたが、原子力規制委員会と、その裏方である原子力規制庁は、「原子力災害対策指針を改正しない・したくない」という姿勢を顕にしている。しかし、必ずしも最初からそうだったわけではない。


1月1日の能登半島地震から流れを振り返っておく

そうではなかったことの記録のために、これまでの流れを振り返る。

1月1日 2024年元日、能登地方で地震
1月8日 避難計画の考え方の見直しが必要
1月10日 「原子力災害対策指針」見直しへ から以下抜粋

記者:原子力災害対策指針の抜本的な見直しが必要ではないか。
山中委員長:(略)ご指摘の通り、木造家屋が多いようなところで屋内退避ができないような状況が発生したのは事実でございますので、その点の知見を整理した上で、もし、災害対策指針を見直すような必要性があれば、そこはきちっと見直したいと思います。

原子力規制委員会 定例記者会見(2024年1月10日)

そこで当方としては以下3ステップで提起し、主な論点については会見で、ことあるごとに山中委員長に質した。

1月11日 「原子力災害対策指針」を見直すべき根拠を募集!
1月25日 「原子力災害対策指針の見直しZoom勉強会」報告
1月30日 原子力災害対策指針見直しに関する論点提起 

原子力災害対策指針見直しに関する論点提起 から目次を抜粋
1.自治体および職員体制について(現指針P11〜)
2.警戒事態等に際しての判断、通信および要員参集について(現指針P6〜)
3.屋内退避と避難について(現指針P7〜)
4.スクリーニング(避難退域時検査および簡易除染)について(現指針P71~)
5.安定ヨウ素剤について(現指針P58〜)
6.実働組織による避難・救助の不可能について(現指針には欠如)
7.原子力総合防災訓練(現指針P64〜)
8.原子力防災会議のあり方について
9.指針見直しの限界

2024年1月30日地味な取材ノート「原子力災害対策指針見直しに関する論点提起」より抜粋 

1月17日 「屋内退避」に特化した分岐点

振り返ってみると、1月17日の原子力規制委員会では、山中委員長が「1月13日(略)、宮城県の女川原子力発電所の地元の自治体の皆様と意見交換を行いました。その際に、屋内退避の解除のタイミングとか、先日の能登半島の地震の経験を踏まえた防災対策等について御意見をいただきました」(2024年1月17日議事録)と、議題になかった議論を持ちかけた。

そこには、指針の見直しの必要性に言及した委員がいたにもかかわらず、山中委員長は、その場で、不自然に「屋内退避」に特化したスタンスへと態度を変えた。「紆余曲折中の原子力災害対策指針の見直し」(2月5日地味な取材ノート)で引用した議事録をさらに抜粋すると、その奇妙な分岐点と、議論を「屋内退避」に特化しようとしていた人物が他にもいたことが浮かび上がる。

そして何より、今回の結論の大筋が既にこの時点で出ていたこともわかる。

○山中委員長(略)1月13日(略)、宮城県の女川原子力発電所の地元の自治体の皆様と意見交換を行いました。(略)能登半島の地震では、家屋が倒壊をしたり、集落が孤立したりという状況にございますけれども、そういう状況の下での原子力災害という複合災害の問題、これは非常に重要な問題であると認識しております。
 (略)内閣府の原子力防災担当でも検討を始めていると聞いておりますけれども、能登半島の地震の状況下での屋内退避の問題、あるいは先日の女川原子力発電所の地元の自治体の方々から御意見等がございました屋内退避の期間等について、原子力規制委員会として検討すべきところがあるのではないか(略)。

○杉山委員 (略)今回の能登半島地震を踏まえて、屋内退避というものがそもそも成立するのかということ、それと孤立地域に対してどうやって対応するかというようなことの問題を提起されました。(略)きちんと屋内退避という計画が実現できるのか(略)。その上で(略)いつまでもその状態を続けられるものではないということで、何らかの判断の下で解除する。(略)一概には計画を決めにくい。プラントの状態がどうであるということを、電力会社からの情報などから我々が判断し、かつ、モニタリングポスト等からの実際の放射性物質の放出状況、こういうものを踏まえた上でないと決められない(略)。

○伴委員 (略)今回の能登半島の地震でたくさんの家屋が倒壊してしまったので、そもそもそんな状況では屋内退避ができないではない(略)そのこと自体がまず問題(略)。
 ただ、一方で、屋内退避という防護手段を最も有効な形で使うために今の指針で十分なのかというと、そこはやはり議論の余地がある(略)。そうすると屋内退避をお願いするタイミング、どの範囲に対してそれをお願いするのか(略)。
 そのときに、プラント状態をという話が杉山委員からありましたけれども、やはりプラントの状態を見て、今この範囲に対して屋内退避を要請すべきではないかということになってくるとすると(略)。数か月で結論を出すということにはならないかもしれない(略)。

2024年1月17日原子力規制委員会議事録

5人の委員のうち9月に任期が切れた2人は次のように述べていた。

○田中委員 (略)複合災害で地震とかが起こっても、屋内退避というか、避難できるような具体的な場所がないといけないわけですから、それについてはまた別のところで考えていただかなければいけないし、複合災害のときにどこにどう避難するかということとも関連して、国全体として考えていかなければいけない(略)。

○石渡委員 私も、今回の能登の被害を見ていると、とにかく自然災害が起きた場合の避難ということがまず大前提になっていて、その上で原子力災害が発生した場合にということを考えるべきなのだと思うのです。そういう意味で、今までの原災指針(原子力災害対策指針)は、そういう方面の考えが少し足りなかったのではないかなという感じはいたします。

2024年1月17日原子力規制委員会議事録

田中(前)委員が口走った「別のところ」ではない「ところ」とは、後に設置することになる「原子力災害時の屋内退避の運用に関する検討チーム」のことであり、この時、屋内退避に特化して議論しようという方向性が固まっていたのではないかと推察せざるを得ない。

知る人ぞ知る「審議会」の掟

霞ヶ関で開催される普通の審議会と同様、このチーム会合もまた、最初から結論ありきだったと、現時点から遡って、考えさせられる。

もしかすると、知らない方がいるかもしれないので、書いておくが、少なくとも国の審議会が開催され、議論が始まる時には、既に結論は決まっている。その結論を目掛けて行政が資料を用意し、審議会参加者は結論へと誘導されていく。その結論に邪魔な参加者は最初から委員に選ばれないか、アリバイ的に少数のみを入れて、意見を抹殺する。1990年代にはその弊害が産官学の癒着と共に顕著で、一定の改革が行われようとしたが、本質的には現在も変わっていない。今回の衆議院選挙でも争点にすらなっていない。人々は忘れているのだ。

このチーム会合の主題はIAEAの深層防護の第何層か

ところで、このチーム会合がIAEAのいう深層防護のどの層の話をしてきているのか、という重要な問題について改めて書くべきことがある。近日中に書きたい。

【タイトル画像】

原子力規制委員会の入っているビル(2024年10月18日筆者撮影)。



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