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新宿区議会、除去土壌の再生利用実証事業の中止を求める陳情を「審査未了」に

2024年10月9日10時から、新宿区議会で「新宿御苑での放射能汚染土(除染土、除去土壌)再生利用実証事業の中止を求める陳情」(文末に添付)が審査されると連絡が入り、環境建設委員会を傍聴した。


福島県大熊町と双葉町に中間貯蔵中の除去土壌(東京ドーム約11杯分)のうち、環境省は8000Bq/kg以下を最終処分したいが、法定通り県外で処分場を見つけるのは困難なので、資材として全国で再利用したい考えで、2022年から「実証事業」を進めようとしてきた。

そのサイトの一つが新宿御苑(東京都新宿区)だが、そこが8月の豪雨で浸水し、実証事業が行われていれば、汚染土壌が流出したのではないかと具体的な問題が提起されており、陳情審査では、そのことも含めて質問が行われた。

2024年10月9日新宿区議会環境建設委員会にて筆者撮影

中止を求める陳情は「審議未了」

新宿区では、2023年1月から区民が区長への申し入れなどを行い、その内容は区から環境省へも伝えられることになっていた。環境省から区へは10ヶ月後の2023年11月に今後については検討するという回答があったのみ(東京新聞)で、約1年が経過した。

10月9日の区議会環境建設委員会では、10人の区議のうち5人が陳情をめぐり質問。3人(共産、れいわ)が「再生利用実証事業の中止を求める陳情」を採択すべきだという立場で、その他の会派は「継続」を求めた1人(民無ク)を含めて、態度を表明せず、「意見が割れた」(議会事務局)ため、「審議未了」で終わった。

新宿区議会のパンフレット「あなたのまちの区議会議員」(2024年5月発行)を筆者撮影

陳情審査の過程での質疑(一部を抜粋した上で要点のみ)は以下の通り。

杉山直子区議:全国にバラまいて良いという気運醸成に新宿御苑が使われることを危惧している。国が御苑に持ち込むといった場合に、はい、どうぞということになるか?
環境対策課長:先が見えない中で答弁できない。国が管理している場所で、国が安全を示す中では区として止めることはない。

杉山区議:新宿区の役目は住民の福祉の増進を図ること。住民にとり安全ではないということがあれば毅然とした態度をとっていただきたい。原子炉等規制法のクリアランスレベル100ベクレル/kgとはかけ離れた土が持ち込まれる。覆土すると言っても最近の気象状況を考えると、住民の健康が危険にさらされていると思うが、それについてはどう受け止めているか?
環境対策課長:安全性は国が責任をもって立証した上で、区民、国民にわかりやすい説明をして安全性について説明することが必要だと考える。今回、豪雨があり浸水が起きたことも予測される範疇に織り込んだ上で、条件が定められると考えている。取り組み状況について国が説明することが重要。
杉山区議:所沢では市長が住民が同意しない限りはと言っている。新宿区にもそういう立場にたって欲しい。

さわいめぐみ区議:ダブルスタンダードについて。
環境対策課長:国からは原子炉等規制法のクリアランスレベルは放射線の障害防止の措置をしなくて済むレベル、除去土壌は特措法で一定の管理のもとに再生利用すると聞いている。安全性は国が繰り返し説明をすべきもの。
さわい区議:国の責任であり、区は感知しないと聞こえる。
環境対策課長:疑念があることはわかっている。広くお知らせすることが大事だと申し上げている。

さわい区議:所沢についてどう認識?
環境対策課長:それぞれ独立した存在なので、それぞれの範疇で、新宿区では新宿区で議論してきた。国の施設内での国の事業を差し止めるつもりはないということ。
さわい区議:議論と呼べるものなのか?陳情に出ているようなさまざまな指摘に答えるものになっていない。
環境対策課長:区民からご要望、ご質問、ご不安が寄せられているのは事実。答える責任があるのは国。そこから出てきた解答、ご要望をお伝えするのは我々の責任。

さわい区議:放射線防護の3原則とは?
環境対策課長:基本的には持ち出さないということだと思う
さわい区議:動かさない、閉じ込める、時間を置くというだが、これを言っているのは、環境省自らだ。国が言っていることに矛盾している。放射能防護の正当化というものはどう認識?
環境対策課長:認知ございません。
さわい区議:正当化とは、被曝をするなら、それ以上の受益がなければならない。低線量被曝のリスクについて認識あるか?
環境対策課長:「1mSv以下」以外の認識ない。
さわい区議:国際的には低線量でも影響はある。閾値なしと。予防原則にたつべきではないか。
環境対策課長:承知している。どこまでそれを適用するかは、さまざまな考え方があり、国がそういったものについて含めた国としての答えを示すべきもの。それを促していくのが区の役割。

さわい区議:8月21日の豪雨で実証事業の予定地で何が起きたか。
環境対策課長:車庫で浸水があったと、国から聞いている。国は現在、詳細調査中だと聞いている。情報提供をお願いしたいと伝えている。
さわい区議:区民の皆さんにすぐに伝えてくださるよう願う。陳情の採択を願う。所沢では、市民の合意なしには認めないと採択。

沢田あゆみ区議(環境建設委員会・副委員長):9月10日にIAEAの報告がでた。国に問い合わせは?
環境対策課長:大臣が談話を発表されたことについて知らせがあった。

沢田副委員長:新宿でやるといっていた実証事業についてはどうなるか問い合わせはしたか。
環境対策課長:特段変わりはないということなので、質問していない。

沢田副委員長:IAEAの報告に問題があると思う。特措法では再生利用に関する「処分」と書き、それ以上のことは書いていない。だが、今回は、再生利用するために、いわゆる理解醸成のためにやっているのだと思う。国会で議論がないと始められないのではないか。区はどう認識?

環境対策課長:国の昨年11月21日のスケジュールでは、省令として示されていくと思う。国会でどのような結論を出すべきとはこういう場では申し上げることはできない。
沢田副委員長:法律がきちんとあって物事を進めていくのが筋。30年以内に処分しようとしたがそれが進まないから、再生利用しようとているのが本当のところ。国の建物に植木鉢で置かれたりしていて、自民党、公明党本部にもおかれているそうだが・・・
環境対策課長:特措法では一定の管理のもとで再生利用すると、国としては考えていると以前より話をもらっている。30年という法律でかかれたことを果たしていくのは国の役割。具体的なことまでは昨年11月21日の資料以外のことはわらない。

沢田副委員長:豪雨、地震による地割れ、そこに大雨が降るかもしれず、流出していくかもしれない。考え方が違っても、放射能の影響は受けてしまうものとして考えていくべきではないか。IAEAでさえ、国民、利害関係者について改善していく必要があると言っている。
環境対策課長:IAEAの公開資料を一生懸命読んだが、わかりやすいとは言えないと思っている。専門用語もたくさん使われ、インターネットの資料は理解しづらいなというのが率直な感想。もっとわかりやすく説明が必要だと思いますよと伝えた。
沢田副委員長:何か反応は?
環境対策課長:英語を誤訳がないように翻訳されるだけでも時間がかかるとは思うが、できるだけ早く翻訳すべきだと、今後、国が説明責任を果たすべきものだ。
沢田副委員長:いくら説明しても放射能はなくならない。影響のないように処分しなければならない。陳情者の要望はまっとうだと思う。議会としては採択をして区として促す必要がある。

野もとあきとし区議:今回の陳情で2024年9月10日、IAEAの報告について書いてある。10月3日、中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会があり、環境省のホームページにアップされている。この中の再生利用に関するIAEA専門家会議について、環境再生・資源循環局からの資料2に、除去土壌のIAEAの専門家会議により、環境省の要望により、技術的社会的観点から助言を行う目的で、除去土壌に関する会議を3回実施した実績が記載されている。こちらに関しては把握されている部分とされていない部分があるが、IAEAのこうした動きを理解しているか?
環境対策課長:3回の会合があったと承知している。それをそうまとめにした報告だと認識している。
野もと区議:要旨ではこう述べている。環境省の取り組みはIAEAの基準に合致している。今後、合致したものになるかはフォローアップ評価で確認できる。今後の取り組み状況を国際的に発信していくと書かれている。こうしたことは直接、情報提供はされているのか?
環境対策課長:要旨で示されたことは、解説はないが、結論が得られたということはご連絡があった。
野もと区議:以上、事実関係を確認させていただいた。国からの情報提供があるが、リンクを貼っていただくとか、情報発信につとめていただければと。

志田雄一郎区議:会派としての意見。陳情のようなご心配がある。昨年も陳情が2件ほどあった。ご心配を拭えない方がいる。8月の集中豪雨もあった。これについては継続していくべき。

陳情審査を聞きながら打ち込んだ取材メモより

質疑が終了する11時まで聞いて、次の予定に向けて傍聴席を退席した。

果たして結果は? 陳情者の1人、平井玄さんに尋ねると、「自民党、公明党、新宿の会は陳情に反対する言質を取られたくない、立民はあいまい」で「委員長の判断で『審議未了』という門前払いだった」という。

審議未了」の意味を議会事務局に電話で尋ねると、採択されずに終わったことになり、次の議会に持ち越されることもないという。

2024年10月9日新宿区議会環境建設委員会にて筆者撮影。傍聴手続をする際に、撮影や録音の許可をもらうことが容易にできる。国会では一傍聴者は、カメラを持ち込めず、写真撮影はできない。

自治体議会と民主主義

なお、質疑に出てくる所沢市では、市長が「市民の理解」が大前提とし(東京新聞)、所沢市議会も昨年「住民合意のない除去土壌再生利用実証事業は認めない決議をしている。

上記のメモからは端折ったが、質疑では自治体と国の関係や、自治体および環境省の役割の認識も問われていた。結果はどうあれ、国会よりも身近な自治体の議会を、住民がどう活用し、その動きをメディアがどう伝えていくのか、民主主義についても考えさせられる時間となった。

新宿御苑での放射能汚染土(除染土、除去土壌)再生利用実証事業の中止を求める陳情

上記をテキストで貼り付ける。

新宿御苑での放射能汚染土(除染土、除去土壌)再生利用実証事業の中止を求める陳情

新宿区議会議⻑ ひやま 真一 殿
       
           新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会

1 要旨
2024年9月10日に発出された IAEA(国際原子力機関)の報告や、先日実証事業予定地付近で起こった集中豪雨による浸水などを受け、新宿区は国に対し、改めて新宿御苑での放射能汚染土(除 染土、除去土壌・以下「放射能汚染土」という。)再生利用実証事業の中止を求めてください。

2 理由
(1)環境省が本実証事業の安全性の根拠としている、IAEA の報告書(9 月10日発出)は、日本の国会での審議もなされず、文意の矛盾が解消されていないという法的欠陥を差し置いたまま 「安全基準に合致している」という結論を導いている。その欠陥には、放射能の安全基準が Wスタンダードとなっている問題も含まれており、放射能防護の三原則とは真逆の内容である、 放射能汚染土の再生利用実証事業を遂行する合理的説明とはなっていない。

(2)先の 8 月 21 日には集中豪雨により実証事業予定地付近一帯が浸水し、放射能汚染土に触れ た水が地域一帯にも溢れる可能性が高いことがわかった。このような不測の事態が今後も様々な場面で起こることは自明である。今後数百年に渡って管理と監視が必要な放射能汚染土を住 宅街や公園に持ち込むことは、地域住⺠と関係者、そこを訪れる人々の、心理的、身体的安全、 ひいては幸福追求権を脅かす事業であるといえる。

補足−1)
放射性物質汚染対処特別措置法には、放射能汚染土(除去土壌)の再生利用に関する規定は存在しない。存在するのは、「除去土壌の収集、運搬、保管及び処分」(同法 7 条 2 項 5 号、41 条 1 項)との定めだけであり、再生利用に ついては、同法に基づく基本方針中で「再生利用等を検討する必要がある。」とされているに過ぎない。「処分」に「再 生利用」を含むという解釈は文理からして無理があり、実際、同じく環境省が所管する循環型社会形成推進基本法や 廃棄物処理法等では、「処分」と「再生利用」とが明確に書き分けられている。

このように、「除去土壌の再利用が日本の法律で認められている」旨の記載は、事実に反する上、国会が再利用を許 容したかのように読み手をミスリードする不当な記載である。IAEA 最終報告は、環境省による「除去土壌の再利用が日本の法律で認められている」との説明をそのまま受け入れて記載した可能性がある。

(補足−2)
原発の運転過程で放射化した物質の再利用基準は、セシウム 134 及びセシウム 137 で 1 kgあたり 100 Bqであるにもかかわらず(原子炉等規制法 61 条の2第 1 項、製錬事業者等における工場等において用いた資材その他の物に含まれ る放射性物質の放射能濃度についての確認等に関する規則 2 条及び別表第 1)、放射能汚染土は 1 kgあたり 8000 Bq以 下で「管理」すれば再利用可能といういわゆる「ダブルスタンダード」の問題がある。「管理して再利用する」とはどういうことかが日本の法律においてまったく規定されていない以上は、IAEA 最終報告があるからといって正当化されるものではないし、合理的説明がつくものでもない。

(補足−3)
100 Bq/1kg〜8000 Bq/1kg の放射能汚染土は、原発敷地内にてドラム缶に入れて密封保存され、文字通り「放射能汚染」のある土として取扱われていることは自明であるのに、環境省がこの実証事業の説明で「除染土」や「除去土壌」と表しているのは、安全であるという印象操作を行なっているとの疑いを持たざるを得ない。

(補足−4)
上記に述べたような様々な疑義に対して、実証事業を推し進める国からは具体的な説明がない。先に行われた説明会の対象は新宿御苑直近の新宿 1 丁目及び 2 丁目の住⺠ 50 名限定で事前登録制であった上、説明会開催の周知は町 会の掲示板のみで、実際の参加者は 28 名に留まった。その後、環境省から地域住⺠に対する説明はなく、実証事業 計画のその後についても言明していない。IAEA でさえ報告書で、国⺠・利害関係者の関与について引き続き改善していく必要がある旨指摘している。つまり、地域住⺠との協議や合意形成のプロセスがすでに、市⺠からの信頼を損なうものとなっている。
                                  以上

【タイトル写真】

2024年10月9日新宿区議会環境建設委員会にて筆者撮影。




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