福井県が考える“原子力リサイクルビジネス”
福井県クリアランス集中処理事業に係る意見交換会合の第1回が7月31日に開催された。出席者は原子力規制庁と当事者である福井県の他、資源エネルギー庁(エネ庁)、そして廃炉原発を抱える関西電力がオブザーバー。
意見交換は、現時点では法律が想定していない(つまり違法となる)廃炉原発から出るものの扱いについて。エネ庁が福井県の話を聞いてくれないかと仲を取り持った形で実現した。
おさらい:クリアランス制度とは
以前書いたことを繰り返すが、「クリアランス制度」とは、原子炉等規制法第61条の2で定めている制度。原発敷地内で使った「クリアランス・レベル」(たとえば放射性セシウムなら100ベクレル/kg)を下回る金属やコンクリートについては、原発事業者が、放射能濃度を測定・評価して原子力規制委員会に提出し、委員会の確認を受けて、初めて「核燃料物質によって汚染された物でないものとして取り扱う」、つまり再利用しても良いものとして原発敷地外に出せる制度だ。
この制度では、原子力規制委員会が未確認のものを、原発事業者でもない第三者(廃炉ビジネス業者)が敷地外に出し、「分別・除染・切断・溶融」することは認めていない。
ところが、電気事業連合会は、2022年5月30日経産省の原子力小委員会で、「廃止措置を進めるための取組み状況と課題」の1つとして「クリアランスの合理的・効率的な運用の在り方について、電力間連携を充実・強化し、規制当局とも議論していくことが必要」とし、福井県の事業を紹介した。事実上の提案だ。
福井県が検討する「原子力リサイクルビジネス」
そして、開催されたのが、第1回意見交換会合だ。福井県が「原子力リサイクルビジネス(クリアランス集中処理事業)について」を説明。
要約すると、「クリアランス推定物」は主に鉄、ステンレスなどの金属材質を想定していること、福井県が中心で新たに立ち上げる「企業連合体」がそれを発電所ごとにまとめて溶融した後で「クリアランス検認」(何も定義されていない)をして、クリアランスできなかった「放射性廃棄物」は原発事業者に返還するという提案だ。
原子力緊急事態宣言下の悪ノリ
繰り返すが、福井県の企業連合体であろうが誰であろうが、原子力規制委が確認する前の「クリアランス推定物」を原発敷地外で溶融することは想定外(違法)。
クリアランスレベルを超える「放射性廃棄物」が含まれていたとしても、溶融で希釈されてしまう。溶融後に「放射性廃棄物」ができるとしたら、それは「推定」とは大違いの濃度のものが「クリアランス推定物」に含まれていたことになる。
そうしたことにならないように、原発事業者が責任を持つのがクリアランス制度だ。第1、第2のケースは、原子炉等規制法第61条の2では想定されていない(違法だ)。
にもかかわらず、放射性廃棄物が変換されるときに原発事業者が廃棄事業の許可を取って受け取ればいいというのは、あまりにもデタラメだ。緊急事態宣言の下で、この12年、放射性物質の扱いがいい加減になっていることに便乗、悪ノリしているとしか言いようがない。
意見交換会の前と後に、原子力規制委員長に尋ねた(最近、そういう取材メモばかりで恐縮)。
意見交換会合前
意見交換会合後
普通に、鉄屑屋が鉄屑を集め、溶融して、鉄を取り出すと、資源としての金属の塊(インゴット)の他に、有害物質を含むスラグが出てくる。
福井県の提案は、そのスラグが単なる有害な廃棄物ではなく「放射性廃棄物」であることを含んでの提案だ。
しかも、福井県の企業連合体が「放射性廃棄物」を原発事業者に返という性善説を前提としいる。しかし、性悪説をとれば、同企業連合体は「放射性廃棄物」をさらに希釈してクリアランスレベルをクリアさせるか、クリアしたことにして流通させるかといったことも考えられる。
原子炉等規制法第61条の2 はそうしたことを防ぐ制度のはずなのだ。そのクリアランス制度を<合理的・効率的>と称して破壊するのが、今回の提案だ。
最後に2019年の記事にリンクを貼って、関係部分を抜粋・引用させていただく。
こんなことにならないために、クリアリング制度はある。
【タイトル写真】
第1回 福井県クリアランス集中処理事業に係る意見交換会合(2023年7月31日)にて筆者撮影。