バー・レイザー#12〜 アマゾンジャパン中途採用の舞台裏 「創意工夫ができる人」
何かプロジェクトを行うときに予算がなくて制約があったり、十分な人員が得られない、という状況に直面したことはありますか?
私がかつて携わっていたアマゾンのeコマース、リテールビジネスにおいては、予算が大盤振る舞いで降りてくるわけでもなく、常に現有のリソースで実行することを求められてきました。少ない予算、人員で何ができるのか?まずそれを考えよう、というのが基本的なスタンスでした。そして、そうした時に求められるリーダーシッププリンシプルが"Frugarity"でした。
ドア・デスクアワード
アマゾンでは会社の全体集会(All Hands Meeting)で特定のテーマで功績を成した人に対して表彰する仕組みがあります。その一つが「ドア・デスクアワード」です。これは、お客様に低価格を提供するための優れたアイデアを表彰するもので、「創意工夫、創造性、ユニークさ、そして我が道をゆくという意志を象徴するもの」として、下記のリンクでも紹介されています。
ジェフ・ベゾスがビジネスを立ち上げた初期の頃、ホームセンターで見つけた一枚板のドアに脚をつけた方が販売されていた机を買うより安いから、という理由で自作したのが「ドア・デスク」であり、今でも各国のアマゾンオフィスではあえてこの「ドア・デスク」が使用されています。予算がないという制約の中で知恵を絞ることで思わぬアイデアが生まれたり、創意工夫が生まれる、という考え方は脈々と引き継がれているようです。特に商品の物流を担うOpsチーム=オペレーション部門ではこの創意工夫をカイゼンと合わせる取り組みがなされ、コスト削減を常に目指しています。
さて、冒頭に戻ります。本稿の読者の皆さんも経費に制約があったり人員不足の中で業務を回さなければいけない、という場面がきっと少なからずあろうかと思います。そういう時に文句ばかり言って物事が進まなかったり、逆に根性論でそれを乗り切ろうということはないでしょうか。願わくば、そうした状況でも知恵を絞って前向きに物事にあたる人をチームに引き入れたい、と思わない上司はいないでしょう。では、そういう「リソース制約下において創意工夫ができる人」を中途採用面接で見極めるにはどんな質問が有効でしょうか?
この場合、"Frugality"を見極める質問が有効です。アマゾンのサイトからFrugalityの定義を改めてみてみることにしましょう。
Frugality
私たちは少ないリソースでより多くのことを実現します。倹約の精神は創意工夫、自立心、発明を育む源になります。スタッフの人数、予算、固定費は多ければよいというものではありません。
GAFAと呼ばれるITジャイアントの中でリテールコンシューマービジネスがその事業の中心であったアマゾンは長らく利益率の低いビジネスを展開していました。今でこそアマゾン・ウェブサービスがキャッシュカウとして収益を生み出し、リテールビジネスも利益を出し始めていますが、当時は本当に利益確保するにはどうするか、ということが常に議論の中心であり、リテール事業の責任者はそれを強く意識していました。Frugalityという英単語がこんなに身近に感じられたのはアマゾンで働いていたからかもしれません笑
中途採用面接において、「質素倹約、創意工夫が得意です」という方はなかなか出てきません。職務経歴書や履歴書にも書いてありません。ですが、皆さん何かしら創意工夫をして難しい局面を乗り切った経験はお持ちです。意識的・無意識かは別にして、そのエピソードをうまく引き出すのが面接において大切です。きっかけとなるその質問は以下が用意されています。
質問:
少ない予算や人員体制でもうまくいったプロジェクト、仕事のことについて具体的に話してください。
いつものようにSTARを使って、候補者の方のお話を掘り下げてみましょう。
Situation: どのような規模感のプロジェクトで、与えられたリソースはどの程度であったのか、なぜそれは少ないと感じたのか?なぜ会社からは十分にリソースを与えられなかったのか?その背景は?
Task: そうした制約下で上司のサポートは?プロジェクトは総勢何人で動かし、自分はその中で候補者の方はどのような役割だったのか?
Action: 制約が多い中でどのようにして乗り切ろうとしたのか?リソース配分をどのようにすべきと考え、実行したのか?他のチームメンバーのモチベーションを上げるにはどのようにしたのか?
Result: プロジェクトは目論見通りに進んだか?なぜうまくいったと考えるのか?リソース配分は最適であったか?どのような点で創意工夫できたか?
こうした質問と回答を重ねていくと、その候補者の方がリソース不足の中でどのように足掻いたか、というストーリーが炙り出されてきます。そのストーリーの中で語られた体験が実際に将来の仕事の中で再現されるような具体性、客観性を持っているか、が見極めるポイントかと思います。
短期的に売上がまだ見込めないというあるプロジェクトのお話を聞いていて、総勢何人で取り組んだのか?と確認するといきなり十数人で始めました、とおっしゃる方がいました。もちろんそのプロジェクトは複雑なものでしたが、最初にお聞きすると「それって恵まれているのでは?」と感じるお話です。一方で、最後までお聞きすると、その事業が数年後に会社を支える屋台骨になった、というお話まで発展しました。十数人で始めた新しいプロジェクトの最初期はそれくらいの人数であったからこそ、創意工夫が生まれた、というストーリーです。
これは、候補者の方の話ではなく、アマゾン・ウェブサービス(AWS)を立ち上げ、アマゾンの収益を支える柱にまで育てたアンディ・ジャシーの話すエピソードです。こちらをご覧ください。
Frugalityがアマゾンの文化にいかに深く浸透しているか、がよくわかるビデオです。考えてみると、遊びでもなんでも予算に制約がある、という方がより工夫して楽しめるようにしますので、Frugalityというリーダーシッププリンシプル、考え方は「生きる知恵」につながるように感じます。