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数ヶ国語を自在にあやつるスイス人の秘密とは?

この記事は前回からの続きです。まだの方はこちらから先にお読みください。

上の中でお伝えしたように、言語間の距離が、外国語の習得の難易度を決めるんだ、ということ。遠い言語は近い言語に比べて、習得に時間もかかるわけです。

当然、距離が近い言語同士は共通点が多く、それだけ習得がたやすい。

前回お伝えしたFSIによる言語習得の難易度で、カテゴリー1(英語のネイティブにとってもっとも習得が簡単な言語)には

フランス語・スペイン語・イタリア語・ポルトガル語が並んでいましたが、

これらの言語は同じラテン語から派生しており、その意味では親戚同士にあると言えます。ですから、それぞれに距離も近いのです。

特にスペイン語とポルトガル語は近く、ポルトガル人にとって、スペイン語の習得は方言を学ぶぐらいの感覚で出来てしまうのだとか。 

ちなみに言語学的な見地から言えば、同じ日本語である東北弁と鹿児島弁との距離は、別の国同士の言語であるスペイン語とポルトガル語の距離よりも「遠い」のだそうです。

英語ができないイタリア人との会話

これについては自分自身でも経験があります。それはスペイン巡礼の旅であるカミーノ・デ・サンティアゴを歩いた時

その初日に一人のイタリア人と出会います。でも会話をしようとしたところ、英語が全く話せないのです。

そこから初日に山を越えなくちゃいけなくて、その人と二人きりで歩くことになる

でも英語が通じない。困ったな、となった時に思い出したのが、この言語間の距離のことでした。

スペイン語とイタリア語はとても近いということを(僕はその旅のために、スペイン語の猛特訓をしてきていたのでした)。

そこで試しにスペイン語で話したところ、その人に通じたのです。そして彼はイタリア語でゆっくり話す、するとこちらもある程度わかる。

こうしてスペイン語とイタリア語でコミュニケーションがとれたんです。

彼が元々旅行ガイドをやっていたこと、それからIT業界に転職したこと、今は素敵な女性との出会いを探していること(笑)などなどかなり深い話を、だって二人っきりで3時間以上ですからね。

でも違う言語同士で会話ができるんです、しかもそんなに長い時間。これには驚きました。

これとは反対に、以前青春十八切符で日本中を旅していた時に、青森のあたりであるおばあさんと、電車で席が隣同士になりました。

声をかけたのはこちらからでしたが、その方はとてもフレンドリーで、そこから僕に色んな話をしてくれました。

随分と長い時間、話題は色んな話に及んだんじゃないかと思います。

思います、と書いたのは、本当に一言も聞き取れなかったから。

でも、話しかけたのは自分ですし、楽しそうにお話するその方を見てると、分からないとは言えずに、ただただ微笑んで聞いていました。

このように同じ言語であっても通じ合えないこともある、ということです。これが言語の距離。

スペイン語とイタリア語は近くて、僕の知っている標準語・九州弁(うちは父母とも九州出身です)とおばあちゃんの青森弁は遠かったのです。

アウグストが英語を話せた理由

そしてあのオーストラリアで出会ったブラジル人のアウグストが、どうして文法があやふやなのにあれだけ英語が喋れたのか

その秘密も、スペイン語を学んでみて分かりました。

英語で言う  I study English. は

スペイン語では Yo estudio inglés.(普通は主語は省略しますが)

のように、単語を並べる順序が一緒で、そして単語も英語から近いですよね。

さらに例えばスペイン語では、副詞の接尾辞(後ろにつける言葉)は mente なんです → usualmente,  normalmente, finalmente, rápidamente

英語では当然 ly ですよね。→ usually, normally, finally, rapidly

これも、この違いさえ知っておけば、簡単に使えます(発音はちょっと違いますが)。

こうやって、ほぼそのまま、あるいはちょっと変えるだけで使える単語も山ほどある。

使える単語が沢山あって、その単語の並べ方もほぼ同じなわけですから、

自分が普段喋ってる言語を、少し単語を変えて、まぁあてずっぽでも、ある程度話せるわけですよ。

今はスペイン語の例を出しましたが、ポルトガル語はスペイン語と近いので、ほとんど重なるはずです(ブラジルではポルトガル語が使われています)。

だから、ああして、いきなり話すことが可能だったわけです。

でも、細かいところを問われる文法テストでは、その知識のあやふやなところのボロが出て、低いスコアを取ってしまったと。

これが、文法メタメタでもスラスラと英語が話せた、その秘密です。

お伝えしたように、レベルの低い人であっても、その場のアドリブで考えながら話すことができる、これは自分の母語と英語が近いからこそ可能になることなんです。

こんなこと、日本語を母語とする私達にとってはあり得ないことですよね。

だからどの言語を母語にして育つか、というのは、外国語の習得の上で大きくものを言うわけです。

数カ国を操るスイス人の秘密

さぁ、ここで最初にお話した、数カ国語を話すスイス人の例に戻りましょう。なんで彼らはあんなに沢山の言葉を話せるのか。

スイスには「スイス語」という独自の言語がなく、ドイツ語・フランス語・イタリア語(もう一つロマンシュ語という超少数言語があります)が公用語として採用されています。

自分の生まれた地域によって上のいずれかの言語を「母語」として学び、そして小学校で、それ以外の公用語のどれか、さらには英語も学ぶのだそうです。

ではスイスの「イタリア語圏」に生まれた子のケースを考えましょう。

この子が母語であるイタリア語に加えてフランス語・英語を学ぶとします。

(言語に対する吸収力が高い子供と大人との学習速度の差については、ひとまず置いておきます。)

前回見た表ではイタリア語はカテゴリー1の「英語のネイティブにとって最も習得が簡単な言語」に含まれ、600-750時間程度の学習時間で習得できる、とありましたよね。

ですからイタリア語を母語とするこの子にとっても、英語はやはり600-750時間程度で習得できる「簡単な」言語であるはず。まぁ750時間として考えましょう。

さらに上で見たように、イタリア語とフランス語は同じ起源を持つ、いわば「親戚同士」の言語ですから、これらの言語間の距離は、英語との距離よりももっと近い(はず)。

ということは、この子がフランス語を学ぶ場合、おそらく英語の習得にかかる600-750時間よりもっと短い時間で習得ができるはずです。まぁここでは一応 600時間としておきましょう。

そうなるとここまで2ヶ国語(英・仏)で1350時間もかからない、という計算に。母語のイタリア語と合わせてすでに3ヶ国語話者です。

さらにここからスペイン語を学ぶにしたって、やはり600時間もかからないはず(上述したようにスペイン語もイタリア語から近い言語)ですから、

1950時間で4ヶ国語、というのも全然無理な話ではなりません。そしてこれは「かなり多く見積もって」の数字です。

我々日本人が、英語という一つの言語を学ぶのに2200時間以上は、いや3000時間はかかるだろう、というのに。


距離の遠い言語を学習するなら、その時間で距離の近い複数の言語を習得するのも十分に可能だということ。 

言語間の距離が、その学びやすさを決めるのです。彼らは外国語(ヨーロッパの言語に限りますが)を学ぶ上でとても恵まれた環境にいるわけです。

だから何ヶ国語も話せる、っていうのをありがたがる必要は全くなくて

だって日本人であるあなたが本気で英語を習得しようとしているなら、

それはヨーロッパの人達が自分の母語に近い言語をいくつも習得するよりも、遥かに大変な道のりなのですから。

ただ、そのことに気づいていない人は多いですよね。

英語学習は誰でもできますが、本当に英語が「使える」ようになるための取り組みができている人はほんの一握りです。

あなたの勉強はどっちですか?

続きはこちらを。

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