河瀬直美監督「萌の朱雀」を振り返る。音楽の役割1
「劇中曲」と「劇伴音楽」
河瀬直美監督「萌の朱雀」を振り返ってみようと思います。
監督にとっての長編劇映画デビュー作、カンヌ国際映画祭カメラドール受賞、1997年に公開されました。
この作品についてはいろいろな想いがあります。今回は映画における音楽の役割という観点から書いてみようと思います。
映画の中に入っている音楽には、劇伴音楽、劇中曲、挿入曲、テーマ曲など役割違いで様々種類があります。「萌の朱雀」では、劇中曲と劇伴音楽が重要な役割をしています。
物語の中、國村隼氏演じる孝三がレコードに針を落とし音楽を聴く場面があります。このときにレコードから流れる音楽がこの映画における劇中曲になります。
事前に監督と打合せをし、孝三はヨーロッパ映画が好きでそのサントラをよく聴いていた、という人物設定にしようと決めていたので、実はこのレコード曲はヨーロッパ映画の音楽をイメージして作っていました。
この曲は劇中何度か出てきます。尾野真千子さん演じるみちるが玩具のピアノでこの曲を弾くシーン。孝三がレコードを聴き何か想いを抱いて家を出るシーン。みちるが村を去る前夜、屋根に上り星空の下、柴田浩太郎氏演じる栄介と戯れるシーン。孝三が残した8ミリフィルムを家族で上映するときにみちるがレコードをかけるシーン、など。
映画の中で、実際に演じられたり、歌われたり、役目を持って物語の中に出てくる音楽を劇中曲と呼んでいます。その劇中曲が映画の中でとても重要な役割を担うことはよくあります。「萌の朱雀」もそうでした。孝三が聴いていたレコードの曲は、もともと劇中曲として作ったものですが、映画が出来上がっていくにつれて「萌の朱雀」のテーマ曲といった存在になっていきました。海外の映画祭でも評判だったようで、この曲に関しての質問も多かったと聞きました。中には「この映画は日本の原風景を美しく描いた作品なのに、なぜ音楽は西洋っぽいのか?」という質問もあったそうで、これは私にとってちょっと嬉しい誤解でした。
次回は、もう一つの重要な役割を持つ「劇伴音楽」について書いてみたいと思います。