「100分de名著」で学ぶブッダ「真理のことば」 」3回目その1
1.前回のおさらい
私たちは皆、物事を自分中心に考える性質があり、そのことを知らない点で「無明」であり、愚かであるとも言える。
無明は、うらみを引き起こし、さらには苦しみの感情を生み出す。
私たちは無明であることに気づいたとき、うらみから離れ、苦しみから抜け出すことができる。
出演者:
司会 --- 堀尾正明さん
アシスタント --- 瀧口友理奈さん
講師 --- 佐々木閑(しずか)さん
2.執着との向き合い方
ナレーション:
私たちは、日常生活の中で様々なことに執着して生きています。
しかし、それが望み通りにならないとき、人は苦しみます。
自分の人生を縛り付け、柔軟に考えることを奪ってしまう執着。
2500年前、ブッダは執着から苦しみが生まれると説きました。
執着とどう向き合ったらいいのか、ブッダの教えを紐解きます。
執着にとらわれない自分を作るにはどうしたらいいのか、そのヒントを探っていきます。
3.苦しみを生み出す執着とは
講師:
前回は「うらみ」というひとつの煩悩でしたけれども、今回はもうひとつの大きな煩悩である執着というものについて、お話ししたいと思います。
執着といっても、ブッダの言葉を信じて、その道を進むというのも、ある意味では執着と言えます。
私が仏教の学問を一生懸命するというのも、ひとつの執着です。
しかし、この世の中には愚かな執着というものがあり、必ず苦しみを生み出してしまうということがあります。
ブッダの真理の言葉の中に、そのような執着の例を示す物語がありますので、ご紹介したいと思います。
4.ケーマー王妃の話
ナレーション:
マガダ国にケーマー王妃という女性がいました。
彼女が執着していたのは、自分の美しさ。
ある日ブッダを訪ねることになったケーマー王妃。
そのことを知ったブッダは、神通力で自分のそばにケーマー王妃よりさらに美少女の幻影を座らせました。
ケーマー王妃はそれを見て驚きます。
私の美しさなど、あの少女に比べたら、到底及ばない。
しばらくすると少女は少し歳をとり、成人、さらに中年、皺だらけの老婆に変わり、ついには骨だけの死体となってしまいました。
この一瞬の出来事でブッダは、人間の肉体は永遠に続くものではない、だから美しさに執着しても意味がないと、ケーマー王妃に悟らせたのでした。
司会者:
ケーマー王妃のように、女性は美しさにこだわるんじゃないですか?
アシスタント:
女性としては、美しさは永遠の憧れですから、ケーマー王妃の気持ちも分かりますけどね。
講師:
ただやはり、確実に、年老いて、死ぬという現実は、紛れもないわけですよね。
今の場合、ケーマー王妃は、美しさというものに執着したわけです。
しかし、執着した対象の美しさというのは、前回も申しました通り、諸行無常ですから、いつまでも続くものではない。
いつまでも続かないものに、いつまでも続いて欲しいと執着した、それが現実との間にそのギャップを生み出してしまう、それが苦しみの元です。
逆に言いますと、美しさというものは、必ず衰えていくということが最初から理解できていたならば、その美しさに強く執着することはなかったはずです。
そこに苦しみが生まれるか、苦しみがないか、その違いが現れてくるわけです。
講師:
ケーマー王妃の物語の元になった真理のことばを読み解いていきましょう。
「貪欲(とんよく)に染まった人は流れのままに押し流されていく
それはまるで
蜘蛛が自分で作りだした糸の上を
進んでいくようなものだ
一方賢者は
その貪欲を断ち切り
執着することなく
一切の苦しみを捨てて
進んでいくのである」
貪欲はひとつの執着です。
そういう気持ちを持った人は、ものの見方がひとつに固まってしまいます。
例えば、美しさがわたしの全てだと思った人は、美しさしか目に入らなくなる、流れのままに押し流されていく、自分で執着したことに流されていくわけです。
自分で作った道を自分が流れていく。
これが「蜘蛛が自分で作りだした糸の上しか歩けなくなってしまう」ということの例えです。
一方賢者というのは、貪欲を断ち切り、執着することがない、その一つの道しか歩けなかった人が自由になって、貪欲から、執着から生まれた苦しみを捨てることができるという意味です。
私たちはいろいろなものに執着しています。その執着がいろいろな執着を生み出しています。それが私たちの普通の生活だということです。
5.ここまでの感想
貪欲は、ひとつの執着です。
世の中は絶えず変わるという現実と、こうあって欲しいという、自分自身のひとつの固まった考えとに、ギャップが起こり、苦しみが生まれます。
その原理を知った者は、貪欲を断ち切り、執着から生まれた苦しみを捨てることができるということを、今回学びました。
仏教の教えでは、欲望を持つことは、苦しみを生み出す悪い原因という捉え方がされています。
しかし、現状に不満を持ち、より良いものへ改善しようとする行為は、長い歴史の中においても、数多く行われてきたことで、それがなければ、今の社会のように発展することはできなかったと思います。
欲を一切捨ててしまうことは、やる気を失うことにも繋がるのではないかと思います。
それよりは、貪欲や執着の気持ちがどこから生まれるのか、また、その気持ちが生まれることによって、どんなデメリットを引き起こす可能性があるのか、という仕組みを学び、自分の欲とうまく付き合っていくようにした方がいいのではないかと思いました。
※NHKオンデマンド、U-NEXTなどの動画サイトで、ご覧いただけるNHK番組「100分de名著」を元に、学んだり、感じたりしたポイントをお伝えしています。
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