「100分de名著」で学ぶブッダ「真理のことば」 」2回目その1
1.前回のおさらい
ブッダの世界観とは、人は自分中心に世界が存在しているといういう誤った考え方をしているため、現実社会との食い違いが必然的に引き起こされ、苦しみが生まれるということです。
ブッダの教えは、心の中が苦しみに満ちていることを自覚した人だけに役に立つ考え方であり、心の拠り所となる教えである、ということを学びました。
出演者:
司会 --- 堀尾正明さん
アシスタント --- 瀧口友理奈さん
講師 --- 佐々木閑(しずか)さん
2.今回の概要
ナレーション:
誰しもが抱えてしまう恨み。
人はなぜ恨みを抱くのか?
どうすればそこから離れることができるのか?
2回目は、恨みの連鎖について、紐解いていきます。
指南役は花園大学の佐々木閑(しずか)さんです。
ブッダが説くうらみの根元にある愚かさについて、分かりやすく解説していきます。
3.うらみを離れて生きる
司会者:
今回は恨みをテーマにお話を進めてまいります。
講師:
前回は、私たちの苦しみには大きく2種類あるとお話しました。
一つは、年を取る、病気になるなどの避けがたい苦しみ、私たちの心が作り出す人工的な苦しみというものをいろいろ考えていきたいと思っています。
そのひとつのとっかかりといたしまして、代表的な人間の苦しみを生み出す元、それは「うらみ」です。
司会者:
人間社会には、大きな恨みや小さな恨みで満ち満ちていますよね。
講師:
今回ブッダが説きました真理のことばについて語るのことばがあるんですが、それを後のお弟子さんたちが説明するために、ひとつの物語をつけていますので、それからご紹介したいと思います。
4.釈迦族とコーリア族の争いの話
ナレーション:
ブッダの親族である釈迦族とコーリア族は、互いを滅ぼしかねないほどの激しい争いをしていました。
そこへブッダが現れ、尋ねます。
「これは何の争いですか?」
将軍も副将軍も答えられませんでした。
ようやく奴隷に問いただして、初めて水の利権争いだと分かったのです。
「大王よ、水にどれほどの価値があるのか?」
「わずかです。」
「部族にどれだけの価値があるのか?」
「計り知れません。」
「わずかな水のために、はかりしれない部族を滅ぼすことはふさわしくありません。」
この言葉を聞き、釈迦族とコーリア族は静まっていったのです。
5.うらみのない生き方
アシスタント:
友達の喧嘩でも、最初のことを忘れ、何で喧嘩をしてるんだっけ?ということがありますよね。
講師:
小さな原因だったのに、次第に増幅されていって、最後にはなんのために戦っているかも分からなくなってしまうということが、ありますね。
これこそが、自分自身で生み出す苦しみの代表的な例ですね。
今のこのお話はブッダの真理のことばの197番の詩なんです。
それについて、ご説明しましょう。
「うらみを抱く人たちの中で
私はうらみを抱くことなく
安楽に生きよう
うらみを抱く人たちの中で
うらみを抱くことなく
暮らしていこう」
これはブッダの教えにしたがって生きていこうという、強い決意を表している詩です。
うらみを抱く人たちというのは一体誰か、何か特定の悪い人なのか、そうではなくて、私たちは、人間として生まれれば、心の中に煩悩を持っています。
うらみもあれば、欲望もある。
つまり、これは普通の人たちの中で暮らしているということです。
しかし、私たちはうらみを抱くことなく、つまり、自分で決意して、そういう気持ちを起こさないようにして生きていこうという強い決意を表しています。
その結果、何が起こるのかというと、安楽に生きる、つまり、自分の心の煩悩を消すことで、苦が消滅していくわけです。
ですから本当の安楽、本当の幸せというものを求めるという、私たちの道だということを説いてるわけです。
司会者:
おっしゃる通りですけど、ただ、例えばパンを食べてて、誰かに、そのパンを盗られたら、あっと思って、今お腹が空いていたのに!と、うらみを持ちますよね。
ですから、うらみを持たず、安楽に生きるというのは、相当難しいことですよね。
講師:
その場合の一番の原因は、パンが自分のものだと思っていることです。
そのパンは誰かがくださったパンで、たまたま私が手に入れて食べているだけだと思うのと、これは私が稼いだ金で買ったパンだから、誰にも渡さない、私だけのものだと思っているのとでは、そのときの気持ちは全然違ってきますよね。
ですから、うらみを起こさない、煩悩を起こさない状況に自分の環境を整えていくということも、仏教が教える大切なひとつのポイントです。
うらみを捨てるということですが、随分昔の教えですけれども、この教えに基づいた有名な出来事があったんです。
1951年のサンフランシスコ講和会議はご存知ですか?
アシスタント:
第二次世界大戦の後に、日本が連合各国と平和条約を結んだというものですね。
そのときに、真理のことばを用いた、とても重要な演説が行われたんです。
次回、その演説について、お話していきます。
6.ここまでの感想
私たちが生きていて起きる苦しみのひとつに、私たちの心が生み出す苦しみがあり、その代表的なものに、「うらみ」というものがある。
そして、その「うらみ」は、煩悩から生まれた苦しみである。
本当の安楽、本当の幸せを求めるなら、その煩悩を起こさないような状況に自分を整えることが、重要なポイントである。
そのようなことを、今回は学びました。
人というのは、欲しがる気持ちを持っているがために、持っているものを奪われたくないという気持ちがあり、その心持ちが自分を苦しめる。
そして、初めは小さな欲を叶えようとしただけなのに、その欲が少しずつ積み重なるうちに、大きな争いごとに発展してしまうこともある。
人には、そのような心のメカニズム、人の性(さが)があることを説き、より良く生きるための第一歩として、自分の気持ちのあり方に気をつけるというブッダの教えは、理にかなった教えであり、人の心持ちが環境にどう影響を与えるかという考え方は現代の心理学や行動科学に通じるものがあると思いました。
しかし、合理的に行動することができないのも人の性(さが)の一面としてあるのも事実で、それをどう受け止め、対処していくかというところに、難しさや面白さがあり、文学や芸術が大事にされるところでもあるように思いました。
※NHKオンデマンド、U-NEXTなどの動画サイトで、ご覧いただけるNHK番組「100分de名著」を元に、学んだり、感じたりしたポイントをお伝えしています。
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