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3つのポイントで振り返る世界のオルタナティブデータ業界動向2023

この記事はFinatextグループ10周年記念アドベントカレンダーの20日目の記事です。昨日は瀬能さんが「Streamlit Bootcamp #1」という記事を公開しています。

はじめに

こんにちは。ナウキャストの辻中です!
2023年も年の瀬ですね。
今年は個人的にTwitter運用頑張ろう、と思っていたのですが気付いたらお笑い(M-1楽しみ!)とオルタナティブデータ関係のニュースシェアするばかりの芸がない発信ばかりしておりました。反省。

そしてまた各方面から芸が無いとツッコミを受けそうですが、年の瀬ということもあり、この業界、どういう1年だったっけ?を振り返ってみたいと思います。敢えて国内の話よりも海外の話を中心に、3つのポイントで振り返り、来年以降の見通しも簡単にご紹介したいと思います。

①AI/LLM/ChatGPTブーム!

なんと言っても今年のオルタナティブデータ業界を彩るのはChatGPTブーム!
オルタナティブデータに関わらず、クラウドやデータ活用を生業にしている方で無関係だった方はいないのではないかと思います。
海外のオルタナティブデータプロバイダも早い段階からこの大きな技術革新を自社の成長に取り込むように躍起になっていたなと思います。個人的に特に印象的だったのは、ChatGPTのPluginサービスが出た今年3月の段階でリーガル・レギュレーションのインテリジェンスサービスを展開するFiscalnote社(上場もしています!)がPluginの初期パートナーに名前を連ねていたことです。

その他自社サービスにChatGPTのAPIを使った機能をリリースする動きもありましたね。特許データサービスのOrbitの事例などが象徴的かと思います

ご多分にもれず、弊社でも今年4月にNowcast LLM Labも立ち上げました

データのユーザーサイドを見ても、ChatGPT/LLMの利用の広がりは周知の通り。Citadelが早々に自社の業務にChatGPTを活用することを表明していました。

一方で、少し意外だったのは「実際にChatGPTを運用の判断に使ってるよ~」という声を聞かなかったこと。テキストデータを使ったsentiment analysisとかはもともとかなりメジャーな分析だし、ChatGPTで加速するかと思っていましたが、意外とそうでもなさそうでした。Temperatureの問題とかが大きそうで、バックテストの結果が毎回変わるのは伝統的なクオンツ的な考え方とは相容れない部分があるのかと思います。テキストデータへのニーズも大幅に増えた、とかもあまり聞かなかったのも意外でした。
恐らく今後広がっていくのは投資家のフロント、ミドル、バックオフィスの各業務の効率化の推進の中でLLMが使われていく流れかと思います。

②規制・コンプライアンス環境の大きな変化

コンプラ、コンプラ、コンプラ、、、
金融もデータも元々規制の厳しい業界ですが、今年はこんなにもか、というほどコンプラ関係のニュースを聞きました。
特に話題に上がったのは、①中国のデータプロバイダへの処罰・監視強化と、②米国FTCの動向かと思います。
まず取り上げたいのが中国の動向です。世界のオルタナティブデータ業界を最も震え上がらせたのが中国政府の処罰・監視強化ではないでしょうか
もともとこの業界は米国が最も成熟しており、プレーヤーも多いですが、米国についで世界のオルタナティブデータ市場をリードしてきたのは長らく中国だったかと思います。
2010年代以降、米国に少し遅れてSandalwood(ナウキャストとビジネスモデルが似ています)、Wind(中国版Bloomberg)、Databurningなどの有力な大手情報ベンダー、スタートアップが急成長してきました。
しかし、コロナ以降、度重なる中国のロックダウンによって景気が悪化したことが業界の重しとなります。そこに追い打ちをかけたのが中国政府の処罰・監視強化です。
下記の記事にもある通り、2017年以降中国はいわゆる「データ三法」を成立させ、今年7月には「反スパイ法」が改正され、「スパイ行為に該当するか否か」という新たな観点でデータの越境移転について監視されるようになりました。

そもそも、中国のオルタナティブデータ市場の拡大は、機関投資家や事業会社が中国市場の動向を正確に、いち早く捉えるためにオルタナティブデータが使われるところから来ていますし、そうしたデータの需要家は中国外にいたりします(寧ろ過半数が国外の需要家と思われます)ので、こうしたデータの越境移転の監視強化は直接的に市場の伸びにインパクトします。

そしてこうした潜在的なリスクの増大は今年、現実のものになりました。Capvisionへの調査です。

Capvisionは日本でいうとビザスク、海外でいえばGLGやGuidpointなどのようなエキスパートインタビューサービス(あるいはスポットコンサル)の提供者です。厳密にはオルタナティブデータプロバイダとは異なりますが、弊社の顧客でもエキスパートインタビューサービスを併用している方も多く、顧客層が類似しているため、「お隣さんの業界」という感覚です(実際にユーザベースグループはデータサービスの提供者であり、ミーミルというエキスパートインタビューサービスの提供も両方やっているのは好例です)。
そうした業界で、「中国発の雄」とも言えるCapvisionがターゲットになるのは衝撃でした。
時を同じくして、中国版BloombergといわれるWind informationが海外ユーザーへのデータアクセスを制限するなど、中国市場に関するデータの越境移転に関する規制は現実のビジネスに間違いなく影響を及ぼし始めています。

規制・コンプライアンス関係で同じく耳目を引いたのは米国FTCの動向です。具体的にはアドテクのKochavaの人流データ取り扱いに関する提訴が注目されました
https://www.techdirt.com/2023/11/14/unsealed-ftc-complaint-shows-data-broker-kochava-hoovered-up-oceans-of-sensitive-data-on-millions-of-americans/

Kochavaはモバイルアプリの計測ツールを提供する代わりに、各アプリの利用者の位置情報のデータを収集し、このデータを広告利用目的で販売する、というビジネスモデルで急成長してきました。
現在も係争中のため、真実はこれから明らかになっていくと思われますが、「Kochavaが提供していた位置情報には個人が生殖医療クリニック、礼拝所、ホームレスおよびドメスティックバイオレンス(DV)被害者のシェルター、依存症回復センターなど、個人にセンシティブとなる位置情報を示すものが含まれていた。このような情報をトラッキングする行為や、センシティブ個人情報を売却することは、人々を差別や暴力、ストーキングの危険にさらす可能性がある」、と FTC は主張しています。
プライバシー保護への対応は当然異なると思われるものの、モバイルアプリの利用者の位置情報を収集し、ビジネスに活かすプレーヤーは米国にはもちろん、日本でもブログウォッチャーやUnerry、Agoopなど複数社存在しますし、オルタナティブデータビジネスに従事する会社も多いため日本の会社にとっても無関係とは言えない同訴訟の行方には注目が集まってます

③少し落ち着いた?データプロバイダ同士の合従連衡

2021-2022年はデータプロバイダのM&Aニュースをこれでもか、と聞くことが多かったです。
ぱっと思いつくだけでも、

  • NielsenIQ(米国版インテージ!)がRakuten intelligenceを含む複数社を買収(2021年9月)

  • S&P globalがIHS markitを買収(2022年2月)

  • YipitDataがe-mail receipt dataプロバイダのEdisonを買収(2022年9月)etc

と大型の買収事案が多数ありました(小型~中型も多数ありました!)。
しかし、今年はそれほど耳目をひくようなM&Aはあまりなかったように思います。
代わりに増えたのがリストラや倒産。先程のような厳しいマーケット環境から中国のオルタナティブデータプロバイダはそこそこ名のしれた会社が倒産しているとも聞きますし、直近でいえば米国$4bnユニコーンDataminrが20%、150人の従業員をレイオフしたことが報道されています。

Dataminrの事例は典型例かと思いますが、スタートアップバブルによる高すぎるValuationと過剰な投資で肥大化したスタートアップの倒産やレイオフのニュースが出るのはある意味で自然ではあり、今後この業界のM&Aのトレンドも救済的なニュアンスが強くなるのではないかと想像します。

来年以降に向けて

後半2点はやや向かい風のように聞こえる話をしましたが、個人的には寧ろ来年に向けて日本のオルタナティブデータスタートアップ、そしてナウキャストには追い風が吹いているなと思っています。
まず第一に、日本のデータに対してかつてなくグローバルな投資家が注目をしています。それは当然にして資産運用立国の推進や、先進諸国の中で相対的に高い経済成長率、持続的なインフレ環境が形成されるのではないかという期待値など、金融市場の環境改善も大きい要素ですが、中国市場とデータからの逃避先として日本が選ばれているという要素も見逃せません。
実際に我々が普段接するグローバルな投資家でも、中国へのExposureを減らし、日本へのExposureを増やす、そして日本市場のリサーチに投資する動きが増えています。この傾向は来年以降も継続すると思われます。
また、LLMへの注目度の高まりがデータへの需要増加に繋がることも間違いありません。今年1年は「LLMへの投資≒ChatGPTを業務活用する」というのが多くの企業の現実だったかと思いますが、来年以降はよりDomain specificなユースケースを模索する流れが続き、その際に社内外のデータを活用していく流れが強まると思います。
ナウキャストでは、こうした好機を存分に活かすため、オルタナティブデータのパートナーを増やし(今年3社と提携を発表!)、Nowcast LLM Labを今年4月に立ち上げ、更にデータ分析基盤の構築を支援するソリューションチームを組成しています。
もし、我々のさらなる挑戦に関心がある方がいれば、是非一度お話しましょう!

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▼ナウキャストで募集中のポジション(一部抜粋)

では皆様、良いお年を!!

 明日は岸さんによる入社エントリです。お楽しみに!

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