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ふうせんかずら

少し前に、ふうせんかずらの種をまいた。
ずいぶん前から実家に置いてあったもので、なんとなく植えようかなと思い、持って帰ってきたのだった。
ところが、待てど暮らせど芽が出ない。
土も替えたばかりだし、夫が冗談で隣に埋めたスイカの種は元気に芽を出しているというのに。

よく考えたら本当にずいぶん前の種だった。
もしかして10年以上経っているかもしれない。
ハート型が張り付いているようなふうせんかずらの種がかわいくて、残しておいたんだった。
種はいつまでも保存可能なわけではないんだな。
そんな風に考えたら急に何か植えたくなった。

先日、友人の経営するカフェで食事をして帰ろうとしたら、軒にふうせんかずらを見つけた。
古民家の黒い杉板にグリーンのネットが貼ってあり、そこに絡んだ緑のつると風船のようなかわいらしい実。
茶色くなった実には種が出来ているだろうな、と見ていたら、採っていいよーと出てきた友人が言ってくれた。
「もう夏だから植えるとしたら、来年かなぁ」と聞いたら、
「いや、もう新しい芽出てるよ。まだいけるよ」
とにっこり笑いかけてくれた。
ふうせんかずらは実家にはなかった。
母方のおばあちゃんの家にあったんだった。あのふんわりした実が好きだった。
カフェの友人はグリーンのネットを指して、
 「これ、100均のネット」
とまた歯を見せた。
私も、やる。
心の中で決意した。
もう夏は終わるだろうから、寒くなる前に実ができるといいけれどどうだろう。
やってみよう。
よくわからないタイミングで火がついた。
ガーデニングに興味はなかった。家庭菜園も。
もしかすると、あのハート型に恋をしたのかもしれない。

#エッセイ #ふうせんかずら #恋 #種

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