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広島、尾道①
文学フリマ広島の続き。
体調がよくなかったら帰ろうと思っていたけど、案外大丈夫だったので、予定していた尾道に行くことにした。
ずっと前から気になっていて、いつか行きたいと思っていたので気持ちがはずむ。
普通電車だと時間がかかるので三原まで新幹線に乗り、そこから在来線で尾道まで。月曜日だったけれど、観光っぽい人が割と多かった。電車を待っていると、小さい子どもを連れた外国人のファミリーに、
「コレ、オノミチ、イキマスカ?」
と聞かれる。前には停車したままの普通電車。尾道の手前で止まってしまう感じだったので、
「これは途中で止まるので、次の電車がいいと思います」
と丁寧に日本語で答えた。
次、というキーワードをきちんと拾ってくれたその女性は、
「ツギネ、アリガトウ」
と言ってわたしの隣に並んだ。いつも思うのだけど、どうしてこんなに人がいる中でわたしに聞くのだろう。よく話しかけられるんだけど、わたしも旅人なので自信はない、といつも思う。東京でも「オダイバ?ツギ?」って聞かれたよな、そういえば。そんなに土地に馴染んでいるのだろうか。大きなリュック背負ってるのにな。
このあたりは電車の本数が少ないようで、いつもの感じでいくと長い待ち時間だけれど、実家のほうはこんなだったなぁと懐かしく思い出す。乗った電車にドアの開閉ボタンがあるのを見て、さらに懐かしくなる。
しばらくそんな電車に乗り、山のほうばかり見ていたら、急に思い出した。
前に書いた小説「海の見える駅」は本当は瀬戸内のイメージだった。方言がわからないので関西の設定に書いたあとで変えたのだけれど、どうしてか瀬戸内の駅であり海だった。
坂道があり、みかん畑のようなものを見つけて、胸がきゅんとした。そしてふと右側を見ると、いつの間にか窓一杯に海が広がっていた。
わたしが書きたかった場所だ、と思った。自分が書いた場所が実際にあって、それに出会ったときの気持ちを今はうまく書けない。
でももし望んでもいいならば、またこういうことがあれば、と思う。書きたい場所や人があって、自分の書いたものが自分を運んでくれるようなことがあったら。
尾道に着き、もちろんノープランなので駅で地図をもらう。もらったはいいけど、いくら眺めてもわからないので、とりあえず本屋さんに行くことにした。(地図も得意ではない)
前に、文フリ東京でお隣さんだったKさんに、終了間際の文フリ京都でまた出会い、
「尾道行くんです」
「あ、じゃあいい感じの本屋さんありますよ」
と教えてもらった紙片という本屋さん。グーグルマップにも載っているので安心して歩いていこう。
商店街を通っていく。静かな商店街だった。閑散としているわけではないのに、落ち着いた雰囲気のある場所だなと思った。
グーグルマップは「到着しました」になったのに、店が見当たらない。でもこの辺のはず、おかしいなと思いながらよく見ると細い通路があって、この先にあるっぽかった。土壁のむきだしになった通路、レトロな建物。
タイムスリップしたみたいな場所を通り、やっと見つけた。薄いカーテンがかかっていた。
小さな本屋さんだったけれど、厳選して好きな本を置いているんだなと思った。置き方も、本の選び方も、好きだった。
詩集を一冊、選んでカウンターへ持って行く。物静かな感じの店員さんが(店長さんかもしれない)本の間に丁寧に何かを挟み、紙袋に入れてくれる。その所作が本当に柔らかくて、ここの本たちは愛されているんだなと思う。(ショップカードかと思ったら、しおりだった)
ちょうどお昼だったので、お店を出て、商店街を戻りながら「ここにしようかな」と目星をつけていたカレー屋さんに入る。
お客はわたし一人。数個しかないテーブル席に案内される。一番辛くなさそうなカレーを注文し、(聞いたら辛くないですと言われたので)店内を見渡す。写真がたくさん飾ってあった。店主さんの撮ったものかもしれない。スパイスの香りがしてくる。数分待ってカレーが運ばれてきた。思った通り、重たくないカレーで美味だった。
「美味しかったです」
とお金を払う時に言ったら、もの静かな店主さんが「ありがとうございます」とにこりと笑った。店を出ると、若い男の子たちがいて、
「お、この店、美味しそう」と言いながら入っていって、なんかよかったなと思った。
続く
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