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ブナの森に再び

妹のタネカラプロジェクトに去年から参加している。
何度も参加している人や、妹の住む地域の人とは顔見知りになってきた。
わたしと妹が全く似ていないため、姉ですというとびっくりされるのにも慣れてきた。
今年は活動を新聞やラジオにも取り上げていただき、チャレンジ滋賀の大賞までいただき、ありがたい限りである。

去年と同じ、ブナの森へ繰り出した。今年はどんぐりが全然ないと言っていたけれど、本当にない。ブナの木は毎年実をつけるわけではないので、去年に引き続き、今年も実をつけていなかった。たくさんのブナの落ち葉を踏みしめながら歩く。タンナサワフタギ、カマツカ、リョウブ。聞いたこともない木の名前を妹が説明してくれるけれど、悲しいかな全く覚えられないので、今回からスマホでメモすることにした。
カマツカは赤くつやつやした実で、食べられるということなので一粒口に含んでみた。野イチゴに近い味がする。きっと鳥は好きだろう(人間でも食べられるんだから)。
「あー、あの種、ほしい」
妹が指さすのは、頭のはるか上に枝を伸ばした木の先に赤い実だった。長いはさみの先をどんなに伸ばしても届かない。
きっと生き延びるためにあそこまで枝を伸ばしたんだろうと思う。鹿や熊からも逃れて、鳥に遠くまで種を運んでもらうのだ。
自然を生きるものは、わたしたちが思うより、ずっと強かなのだと思う。そして全力で命を繋ごうとしている。
「これは、土に埋めてから2年後に芽が出ます」
タネを見せながら、妹が説明する。埋めたことも忘れそうだ。人間の1年は森の1年と同じとは限らない。森と人が共有できる時間はむしろ少ないのではないかと思ったりする。
もみじの葉がはるか上で色づいている。
「なんであんなに高いところに葉っぱがあんの?もみじって普通、あんなに高い木じゃないないよなぁ」
わたしの問いかけに妹は答える。
「他の木が高いから、そうなんねん。自分だけ低かったら陽が当たらへんやろ。森によって変わるねん。同じ木でも同じものはないし」
背の高いブナに合わせて、大きくなった、いや、そうなったものだけが生き残ったのかもしれない。
日高敏隆さんの『春の数えかた』という本に、赤の女王説というのが取り上げられている。ルイスキャロルの『鏡の国のアリス』の中で赤の女王がアリスにこういうのである。

ーーここでは、同じ場所にいるためには、力の限り走らねばならぬのじゃ。どこかほかのところに行きたければ、少なくともその二倍の速さで走らねばならぬのじゃぞ!

小さい頃、不思議の国のアリスより、どうしてか鏡の国のほうが好きでよく読んでたので、このフレーズには覚えがあった。
生き物は変化に適応しようと常に全力であるということの形容である。
優雅に見える花も堂々とそびえたつ木々も、生きて子孫を残すために必死なのだ。それでも人間のもたらした変化があまりに大きいと追いつかない。追いつかないものはひっそりと消えていくしかない。
ブナの森を見上げながら、思う。
わたしたちはいま、走っているだろうのか。それとも自らの足で走ることをとっくにやめたのだろうか。何か得体の知れないものにどこかへ運ばれているのだろうか。
答えは、わからない。
はっきりしていることは一つ、ただ待つだけではいけない。また来年も会いたいと願うなら、わたしたちも一緒に走らなければ。然るべき方向に。

汗ばむほどのあたたかい日だった。帰り際、少し風が出てきた。車に揺られながら、なんだか遠足の帰りみたいだなと思った。
「久しぶりに息してるみたい」
と言っていた参加者さんがいた。子どものころにかえったみたいだとわたしは思った。
お土産にハクウンボクのタネをもらった。秋に蒔くと春に芽が出るという、比較的成長の早い木のようだ。早速どこに植えようか考えてみる。せっかくだから地植えにしてみようかなとも思う。森に移植するならポットで育てるより地植えのほうがいいはず。土用が明けたらタネをまいてみよう。
タネは命であるし、そのまま未来でもあるのだ。

タネカラプロジェクトHPはこちら。写真を見るだけでもおすすめです。
サポーターの方、いつも応援ありがとうございます。(妹のかわりに)

https://tanekarap.jimdosite.com/

過去の記事はこちら。

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