田植え
妹の住む山奥に田植えをしに行った。
子供の習い事などでタイミングがなかなか合わず、久しぶりの田植え。
私の通っていた小学校では田植えの授業があって、少人数の小学校だからできたことなんだろうと今なら思う。
足の指の間におたまじゃくしが入り込んだ感覚は未だに忘れない。
ヒルは痛みもないのに血を吸うからなかなか気づかない。大した麻酔だなぁと思う。
久しぶりにヒンヤリした泥の中に足をつっこんだ。
今回は一番下の妹夫婦も来ていて、うちの母も応援に来てくれた。うちの子供もいれて総勢8名。
泥の中で誰か転んだらおもしろいんだけれどなと思っていたら、田んぼの脇で苗を分けていた母が、痛!と声を上げた。
ハチが中にいたみたい、と言ったけれどよく見たら虻だった。
虻なら大丈夫だけど一応水で洗っておいたほうがいいね、と真ん中の妹が母についていった。
妹が戻ってきてまた田植えに戻る。
「あ、アオバトの声」
妹の声が聞こえて顔を上げる。聞いたこともない鳥の声が森にこだまする。
別に田植えが好きなわけではない。
こうやってこの場所で誰かとしゃべりながら作業するのがいいんだなぁと改めて思う。
午前中で田植えを切り上げ、バーベキューの準備に入る。
炭をおこして焼きそばや肉を並べていく。こういうとき一番役に立たないのは私である。妹は普段からお風呂も薪で沸かしているし、一番下の妹夫婦はアウトドア好きなので要領がいい。
いつも私は美味しくいただくだけ。
家から車で1時間40分ほどの妹の住むボロボロの古民家。
お風呂はトトロに出てくるやつみたい。
小さな黒い子猫と大人の猫が二匹。
買い物へ行くのにも1時間かかる山の中。
日照時間は少なく、冬は雪で埋まる。
私は住めないな、といつも思う。
けれど、もしここに住んだら。
妹の入れてくれた紅茶を飲みながら、丸太に座ってボンヤリ考える。
すぐ側の畑に大きなタライがあって水が張ってあるのが見えた。
「あれ、なに?」
「ああ、あれはカエルのたまごが入ってる」
妹は笑いながら答える。
溝に生みつけてあるたまごを見つけ、そのままだとすぐにイモリに食べられてしまうので移動させたらしい。
「去年は水を張ってた溝なんやけど、今年は間に合わなくてさ。なんか申し訳なくて」
「モリアオガエルのたまご?」
うん、と妹はうなづく。今年だけな、と舌を出した妹は、きっと来年も同じことをすると思う。
いただいたサポートは創作活動、本を作るのに使わせていただきます。