
スマホのメモを整理していたら、謎のページがあった。
「ところで」を
「2237」と読み
「たね」を
「tate」と読む
暗号か?
なぞなぞか?
思いつきを書き留めたのか?
文字起こしアプリの離れワザ
少し考えて、「あれか」と思い至った。
画像になっている文字を読み取る文字起こしアプリの「誤読」をメモしたものだ。
「ところで」を「2237」と読む。
ひらがなが数字に化けている。
「たね」を「tate」と読む。
ひらがながアルファベットに化けている。
文脈を考えればあり得ない、ぶっ飛び読み。
人間にはできない離れワザだ(ほめてない)。
子どもの頃に読んだ本で「品川」を「Three boxes and three lines.」と英語で読んだ人のエピソードが出てきて、日本語を母語としない人は品川をカタチで読むのかと感心した。同期入社した帰国子女のカツメは「ルミネ口」の「口」をカタカナの「ロ」と思い、「ルミネロ」と呼んでいた。日本語に慣れ親しんだ人でもやりがちだし、漢字の「夕」とカタカナの「タ」、漢字の「一」と音引き(ー)も間違えがち。
だけど、「ところで」を「2237」と読み違えるのは、無理があるのではないか。
元の画像の「ところで」がよっぽど悪筆(おそらくわたし)だったに違いないが、いくらなんでも「ところで」が「2237」に見えたりするだろうか。
明朝体よりゴシック体
というわけで、画像に文字を入れられる加工アプリ、その名も「文字入れくん」に入っているいろんなフォントで「ところで」と「2237」を打って並べてみた。
文字はグリーン背景に白抜き。
A1明朝

「全然似てないやん」という感想。
どの文字も似ていない。
太くしてみると、どうだろう。
リュウミンUltra

太くしても近づかない。
明朝体は、やはり遠いかも。
ゴシック体だとどうだろう。
新ゴRegular

明朝体より「ところで」と「2237」が歩み寄った気がする。
個々の文字は全然違うが、「ろ」と「3」が近づいた。
太くしてみよう。
新ゴUltra

「太い文字」の存在感で、まとまりとしては似ているような錯覚を抱いてしまうが、ひと文字ひと文字は似ていない。
手書きに近づける
読み取ったオリジナル画像の文字が手書きだったので、手書きっぽい書体にすると、より近づくかもしれない。
勘亭流
勘亭流とは、歌舞伎の外題や看板などに用いる太くうねりのある様式化された書き文字で、骨太で威勢のいい江戸歌舞伎の感性をデザイン化したものです。江戸時代に書家 岡崎屋勘六(号名 勘亭)が始めたといわれ、千客万来を願って内へと入る運筆で枠一杯に隙間なく書かれるのが特徴です。モリサワ「勘亭流」は画の間隔をやや広くとって、つぶれの少ない判読しやすい形にしてあり、演劇や催事のタイトルなどに適しています。

「22」が「ええ」に見える。
「んん」にも見える。
「とこ」からは一番遠ざかった。
毛筆書きでは遠くなる。元の手書きはペンか鉛筆だったはずだ。
はるひ学園
書体にこの名前をつけるセンスが好き。
線が細くて、窓際の席の女子が鉛筆でノートの端に筆圧弱めで書いた文字、という雰囲気。その女子は髪が長くてサラサラしていて、指も長くて、鉛筆回しがうまかったりする。

「ろ」と「3」がグッと近づいた。
「で」と「7」も近づいた。
なるほど。あのカーブが「7」に見えるのか!
「ろで」と「37」がいちばん接近した(当社比)。
でも、「とこ」と「22」は遠い。
「2」の下のほうをもう少し丸めたら近づくのに。惜しい。
シネマレター
映画の字幕っぽい書体だから「シネマレター」なのねと思ったら、「ぽく」どころか、しっかり字幕文字がベースになっていた。
およそ30年にわたり、映画字幕文字を書き続けている職人の文字をもとに作成されました。映画の字幕は、書いた文字から版を起こし、フィルムに直接、文字を刻みつけていました。その際に版とフィルムがはがれやすいように、画線に隙間をあけて文字を描くのが通例でした。また、スクリーン上で文字が見やすいように独特の骨格で設計されており、画線の両端に筆止めを持たせているのも映画字幕文字の特徴です。

これも「ろで」と「37」の気持ちはわからないでもない。
「こ」と「2」の上のほうのカーブ具合も近い。下も丸めたら、もっと近づくんだけどな。
すずむし
モリサワ「タイプデザインコンペティション 2012」和文部門でモリサワ賞 銅賞、明石賞、ファン投票1位と3つの賞を受賞したデザイン書体らしい。

「ろで」と「37」は近いけど、「とこ」と「22」はかなり違う。
竹
節みたいなゴツゴツが竹っぽい。
「直線のみの大胆なエレメントのなかに楷書の運筆を感じさせるゴシック系スクリプト書体」とのこと。

「ろ」と「3」はかなり近い。
「と」と「2」も近づいた。
ニコモジ
「あの丸文字っぽいニコニコ動画(GINZA)の左上の例の文字を非公式にフォント化してみました。カタカナ、アルファベット大文字・小文字、数字が収録されています。無料でダウンロードできるフリーフォントです」とのこと。
ニコモジのニコはニコ動のニコだった。

「ところ」と「223」がかなり近い。
下の線が揃っている。
「ころで」と「237」の上の線も揃っている。
結果的に全体の雰囲気がよく似ている。
よく見ると違うんだけど。
遠くから見て知り合いだと思って、近くで見たら別人だった、みたいな感じ。
「ところで」と「2237」がどこまで迫れるか書体選手権。
優勝はニコモジ(当社調べ)。
書体オーディションの思い出
書体を調べるにあたってネット検索をしたら「書体といえばモリサワ!」の株式会社モリサワのサイトに行き着き、心が躍った。
同じ言葉でも書体が変わると佇まいが変わる。印象が変わる。衣装やヘアメイクで役者を役に近づけるように、言葉にふさわしい書体を見つけて着せると、伝えたい色や想いを届けやすくなる。
コピーライター時代は、アートディレクター(デザイナー)が出した書体違いのレイアウト案を見比べて、こっちがいい、どれも違う、などと意見を出し合っていた。
文字の大きさや色、縦組みにするか横組みにするか、どこに置いてどれくらい余白を取るかによっても、言葉の強さや可愛げや面白さが変わる。
コピーを考えるより、レイアウトを見てあれこれ言うほうが楽しかった。
そんなことも思い出させてくれた「ところで2237」。
大掃除してたら地層の底からバラバラになって発掘されたFONTWORKS社の書体見本メモパッドの写真もどうぞ。


FONTWORKS社のサイトも楽しい。
「もじと もっと じゆうに」というコピーも好き。
書体の違いでこんなに化け具合が変わるのも、漢字、ひらがな、カタカナ、ローマ字、算数字が共存できる日本語のらしさ満開。日本語は書体と遊ぶ天才でもある、とあらためて思う。
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