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漁師のリカコさん脚本塾②「入口でつかんで引き込む」

Clubhouseで出会った漁師のリカコさんに「書きぐすりを自分で処方できるようになる」書き方を教える脚本塾(noteをまとめたマガジンはこちら)。第1回「入口と出口を作る」に続いて、第2回は「入口でつかんで引き込む」

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リカコさんの宿題   冒頭シーン脚本

登場人物
ヒデちゃん   漁師(58)
リカコ    ヒデちゃんの妻(57)
タカシ   ヒデちゃんの弟(56)
カズヨ   タカシの妻(60)
ヒロミ  ヒデちゃんの妹(54)
コウイチ ヒロミの夫(55)
百か日法要の後、仏壇の前で
カズヨ「あー、リカコ姉さん、さあどうぞどうぞ、ビールにします?」
リカコ 「いや、まだまだやることあるからお茶にしとくわ」
タカシ 「兄ちゃん、リカコさん、長いことありがとうございました。僕ら、何にも手伝えずに申し訳なかった」
ヒデちゃん「いやいや、長男やから当然や」
コウイチ「いや、お義兄さん、僕は弟に任せっぱなしでしたよ。なんせずっと海外赴任でしたから。なあ、さかえ」
ヒロミ「うん。ほんまにお兄ちゃんありがとう」
コウイチ「僕なんか、ヒロミがいなかったら、何にもできませんよ。お義兄さん、ひとりで頑張られて、すごいですよ」
ヒロミ「お兄ちゃんが跡ついで漁師してくれたから、お父さんも八〇まで沖に行けた。お父さん、幸せやったと思う。ご苦労さまでした。これからはまたリカコさんに甘えてゆっくりさせてもらってね」
カズヨ 「パチパチ」
タカシ 「そや、同じ町内やから引っ越しゆうほどでもないやろけど、なんか運ぶものがあるんなら手伝うよ」
コウイチ「そうですよ、遠慮なく言うてください」
ヒデちゃん「ありがとう。大丈夫。またボチボチやるから」
リカコ「なんでよ、せっかくゆうてくれてるねんし、布団とかマットレス運んでもろたら?明日から天気悪なるし」
ヒデちゃん「うーん」
リカコ「どうしたん」
コウイチ「布団、二階ですか?」
タカシ「軽トラで行く?」
ヒデちゃん「いや待って、あの」
リカコ「うん?」
ヒデちゃん「あの、あの、もうちょっとま、こっちで暮らそかなって、思って」
リカコ「はあ?」
ヒデちゃん「あの、仏壇の守りもせなあかんし、あの、隣保の役も当たってるし」
リカコ「へぇ?そんなこというあんた、初めてみたわ。ヒデちゃん、自分あのあの言うとき、まあまあ怪しいねんで。わかっとる?」

この初稿を数時間で一気に書いたというリカコさん。ただ者じゃないことは、初めてしゃべったときから感じてたけど、書いたらますますただ者じゃなかった。

シナリオ講座の受講生でも、いきなりこれだけ面白いものを書ける人はなかなかいない。物語をほとばしらせるチカラはすでに備わっているので、脚本のあの手この手が身につけば、即戦力!!

コース料理の一皿をイメージして

第1回のおさらい。

✔︎脚本は「たくさんの中からひとつを選ぶ」の連続
✔︎ラストまで続く一本道をイメージして登場人物やエピソードを置く

「直線」のイメージができたところで、今回は「面」で考えてみる。

✔︎「ワンシーン=コース料理の一皿」を出すつもりで

脚本作りを料理に喩えるとわかりやすい。「脚本全体=コース料理」「シーンの一つ一つ=コース料理の一皿一皿」の喩えは、リカコさん脚本塾での発見。音声で書き方を教えるには「言葉から広がるイメージ」が大事。

1)作品全体(コース料理)の位置づけ
「どんな店?」
「店の看板料理? 裏メニュー?」
「どんな人が食べに来る?」

2)作品(コース料理)の中のシーン(1皿)の位置づけ
「その1皿で何を伝えたい?」
「お客さんをどうさせたい?」
(笑わせる 泣かせる びっくりさせる キュンキュンさせる)
「味が単調になってない?」 

3)「ここで、今、この状況で、それ出してええの?」
食べる人のことを考える
「最初に何出すといい?」
「いきなり重いの出してない?」 
「温かさは? 辛さは?」 
「そんなに量必要?」
「続きを食べたくなる?」

料理の一皿のつもりで一行ずつ吟味

✔︎一行一行=料理の一口一口 
「時間」の流れ、濃さは? 感情の流れは?(観客はついて来れる?)

✔︎入口=最初の一口 出口=最後の一口

✔︎入口のシーン設定(最初の一口のつかみ)
「百か日法要をどう表現する?」問題
「百日経っててええの?」問題 別居問題のインパクト(晴天の霹靂)はヒデちゃん父が亡くなって間もないほうが良い→葬儀の日

✔︎設定わかる?
リカコの夫が父親(リカコの舅)の介護のため実家に別居していたが、舅が亡くなり、リカコは再び夫と同居できると思っている

✔︎登場人物は6人必要? 
ヒデちゃんの妹夫妻と弟夫妻、今後も出てくる?
キャラクターの肉づけ=泥人形ではなく血の通った人間に。人生を負わせる
一人一人を作るにはエネルギーが必要
観客が一人一人を知るのもエネルギーが必要

✔︎局面を変える 
飲み会で店を変えると話題や気分が変わる感じ○場所を変える/メンバーを変える(人の出入り)/時間を飛ばす

○「もの」を使う 軽トラは「漁港だと普段から軽トラ使ってそう」なので効かない

✔︎みんながわかる? 「隣保の役」=モデルになった本人にはおなじみだけど全国的には通じない言葉

✔︎シェフ渾身の残したいひと口は? 
一番リカコの感情が動くところを立たせる
埋もれさせないために→別居維持宣言の前後のリカコ(同居への期待と別居維持宣言のショック)をしっかり作る

✔︎最後の一行=最後のひと口の後味は?
リカコの追及が始まってるが、タイミングが早い。ここはまだ「別居維持宣言にショック」のリカコでは。

味がまとまるための提案

✔︎いつ=百か日法要→お葬式の日
✔︎誰=登場人物6人を整理→リカコ、ヒデちゃん、ヒデちゃんの妹と弟(配偶者はオフ)をリカコとヒデちゃんが見送るところから始める
✔︎どこ=後に続くシーンが屋内になりそう(家族会議など)なので外のシーンに
✔︎入口=リカコとヒデちゃんがヒデちゃんの妹と弟を見送るところから始める
局面を変えるところ=ヒデちゃんの妹と弟が去った後、夫婦2人で会話させる
✔︎出口=ショックを受けるリカコ(さあどうなる?で次のシーンへ)

ポイント踏まえた今井加筆バージョン

登場人物
リカコ(57)
ヒデちゃん(58)リカコの夫 漁師
タカシ(56)ヒデちゃんの弟
ヒロミ(54)ヒデちゃんの妹

ドアを開けると、波が打ち寄せる音が聞こえる。

ヒデちゃん「遠いとこから、ありがとう。親父も喜んでるやろ」
タカシ「ええ葬式やった。兄ちゃん、何から何までありがとう」
ヒデちゃん「長男やから当然や」
タカシ「兄ちゃんが跡ついでくれたから、親父、八十まで沖に出れた。ええ人生やったな」
ヒロミ「ちい兄ちゃん、そればっかり」
タカシ「弱ってからも、最後まで親父のこと兄ちゃん一人に押しつけてしもて」
ヒロミ「リカコさんもやで」
リカコ「いえ。私はなんも。ヒデちゃんが住み込みでお世話して、私はご飯作って、ヒデちゃんに運んでもろてただけです」
ヒロミ「お兄ちゃん、これからはリカコさんに甘えてゆっくりさせてもろてね」
タカシ「やっとまた夫婦一緒に暮らせるな」
ヒロミ「リカコさん、お兄ちゃんをよろしく頼みます」
リカコ「はい。また寄ってください」

軽くクラクションを鳴らして、車が去る。

リカコ「はー、良かったー。晩ご飯食べて行くて言われたらどないしよ思た」
ヒデちゃん「聞いてくれるん待ってたんちゃうん」
リカコ「聞くわけないやん。子どもも孫も先帰したのに。(唐突に)お骨どないしよ」
ヒデちゃん「お骨?」
リカコ「海にまこか」
ヒデちゃん「まいてええん?」
リカコ「海やったら、お義父さん、淋しないかなーて。あちこちのガールフレンドに会いに行けるやん」
ヒデちゃん「それ幽霊ちゃうん」
リカコ「ヒデちゃんの船から、まいたげて。今日は一旦うちに持って帰ろか」
ヒデちゃん「なんで? ここ置いといたらええやん」
リカコ「なんで? お義父さん一人きりになるやん」
ヒデちゃん「なんで?」
リカコ「なんで、て。ヒデちゃん、うち戻って来るやろ? もうお義父さんの世話せんでええんやから」
ヒデちゃん「そのことやけどな……あの、もうちょっとま、こっちで暮らそかな、思て」
リカコ「は? なんで?」
ヒデちゃん「あの、仏壇の守りもせなあかんし……あの、町内会の役も当たってるし」
リカコ「それ、実家に住み込まんかて、できるやん」
ヒデちゃん「とにかく、このまま別々に暮らそ。な!」
リカコ「せやから、なんで?」

波が大きく打つ。

宿題 続きのシーンを書く

シーン1   今回やった冒頭シーン(問題勃発)
シーン2  問題を受けて続き(さらに混乱)
シーン3  子どもたちと家族会議(さらに紛糾)
シーン4  大団円(問題解決)

の4シーンで完結予定。1回で1シーンを書いていくことに。次回は2シーン目。

夫ヒデちゃんから「別居維持宣言」をされたリカコ。誰かに電話してしゃべる(相手のセリフはなくてOK)。そこに誰かが訪ねて来て、その人としゃべる。

誰かが訪ねて来る前と後で局面が変わる(料理の味が変わる)のがポイント。

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