見出し画像

成り上がりパート主婦の連ドラ企画があるんですが、9/1のマツコ観てもらうのが早いです!

お知らせ。こちらのnoteの主役・小早川愛さんが2024.7.5(金)20時からEテレ「あしたも晴れ!人生レシピ」に出演。

🌱NHKプラスで見逃し配信あり
🌱7/11(木)昼12:15再放送


それ連ドラになる!

打ち合わせで「友人のこんなエピソードがあるんですが」と話して、「それ(脚本に)入れよう!」となることがよくある。ネタのストックを持っておくのは、脚本家の強みになる。

ネタに事欠かない脚本家と言えば、映画『嘘八百』『嘘八百 京町ロワイヤル』を一緒に書いている足立紳さん。足立さんと妻の晃子さんをつつくと、「実話ですか⁉︎」と驚くような強烈で絵になるネタが絵巻のように引き出される(手始めにブログ「後ろ向きで進む」を!)。持ちネタの面白さを競い合うネタバトルがあれば、夫婦でどつき漫才しながら勝ち上がっていくのが目に浮かぶが、足立さん自ら自虐を込めて小説や脚本を書き(親しみを込めて「身売り作家」と呼ばせてもらっている)、メガホンまでとっている(9月11日公開の『喜劇 愛妻物語』は原作・脚本・監督)ので、わたしの出る幕はない。

『嘘八百』シリーズで塚地武雅さんが演じた「千利休の追っかけ学芸員・田中四郎」は堺市博物館の名物学芸員がモデル(一を聞いたら十しゃべる学芸員の矢内さんは自粛に耐えられたのか)だけど、矢内さんが主役でしゃべり倒すドラマや映画は、スパイスを丼いっぱい食べるようなもので、刺激が強すぎる。(「今日からこれを私だと思って話しかけて」と夫人にゾウのぬいぐるみを贈られた話はスピンオフ的な掌編になるかも)

主役を請け負えるネタとキャラを持ち合わせた人というのはかなり限られるが、3年ほど前、友人の話を聞いたとき、思わず興奮して言った。

「それ連ドラになる!」

友人の名は小早川愛さん。子どもつながりで知り合ったママ友だ。

力を持て余していたママ友

何でも完璧にこなす人というのが、愛さんと出会ったときの印象だった。4人のお子さんを育てながらも身ぎれいにしていて、女優さんのような華があった。

愛さんは隙がなさすぎて、隙だらけで手抜きの達人のわたしとは距離があった。

その距離を一気に縮めたのがお酒だった。

ワインが進むと、愛さんは、いい感じに隙のある人になった。もしかしたら、出会った当時は今よりも肩に力が入っていて、それが緩んだのかもれない。

区議会議員選挙に出馬した友人に「演説のとき、こんな風に自分を見せたら?」と実演しながらアドバイスしたら熱が入りすぎ、「どっちが候補者なんだかわかんなくなっちゃった」という話に大笑いした。出身は沖縄らしいが、お酒が入ると、西のほうのお笑い成分がふえる。こんなに面白い人だったのかとうれしくなった。

声がよく通るし、人を惹きつけるというか、巻き込むというか、求心力の強い話し方をする。街頭演説をやったら、道行く人の足を止めさせ、人溜まりを作れるに違いない。

「愛さんが立候補しちゃえば?」とけしかけた。

愛さんは、あり余っているエネルギーを注ぐ先を探しているように見えた。「子どもたちの習い事の送り迎えやPTAで毎日忙しくって」とハツラツと話しつつ、自分にもまわりにもそう言い聞かせて、出口を求めて沸々とたぎっている意欲や情熱を押し留めているようだった。

わたしが会社員からフリーランスになったとき、これまで職場で交わしていた大量の何気ない会話が行き場を失った。使いきれなかった生野菜が冷蔵庫の奥で変色していくように、不完全燃焼の言葉がジクジクと腐っていく感覚を味わった。それと同じくすぶりが愛さんに起こっているのかもしれない。

そんなことを思った覚えはあるけど、わたしは愛さんに「もったいないよ。仕事したら?」と言ったらしい。

そのことは覚えていない。酔っていたのか。

キャリア封印からのパート経理

「私、オシゴト復活したの」

愛さんが切り出したのは、休日の昼下がりのカフェ。腰を落ち着けて話すのは、数か月ぶりだった。次々と切り替わる話題の8個目くらいに、仕事復帰の報告が出てきた。

愛さんは以前、映画配給会社のGAGAで働いていた。カンヌ映画祭へ行って、「これ買った方がいい、あれはコケるからやめとこ」と指示を出したり、劇場上映交渉をまとめたりしていた。営業部長として。

後にわたしが『嘘八百』シリーズでGAGAの人たちとお仕事するようになったとき、「あの愛さんとママ友なんですか!」と一目置かれた。現役時代のバリバリぶりは推して知るべし。

ハローワークを訪れた愛さんは、顔写真入りで華々しく紹介された十数年間前の日経ウーマンをバーンと広げて、「私、こんなにバリバリやっていました!」とアピールした。

「こういうの、忘れてください」と担当者はページを静かに閉じた。「華々しいキャリアがあると、使い辛いと思われてしまうので」

面接のときはもちろん、働き始めてからも、過去の栄光は邪魔なのでしまっておくようにと釘を差された。

一旦レールを降りて家庭に入ると、同じレールにはそう簡単には戻れないのだと愛さんは思い知った。日経ウーマンとキャリア時代のプライドをそっと鞄にしまった。

「熱量100分の1にして面接受けてくださいね」とハローワークの人に薦められたのは、ハーブ会社の経理のパートだった。

ハーブなんて、よくわかんないし。

経理なんて、やったことないし。

だけど、選べなかった。

時給は1000円。駅前のファストフード店より50円安かった。

子育てしている間に、自分の相場はこんなにも下がっていたのかと愕然とした……。

愛さんの話を聞きながら、同時通訳で外国語に翻訳されるように、わたしの脳内では、ハローワークで唇を噛んで日経ウーマンを鞄にしまう愛さんの姿が映像になっていた。

まるで連ドラの第1話。ヒロインが出鼻をくじかれる王道の出だしだ。

出産・子育てという気づきに満ちた得難い体験が加点になるどころか、過去のキャリアにフタをしないと雇ってもらえないとは。ゲームの世界ならステージが上がるはずなのに、現実はこうも子育てしながら働く女性に厳しいのか。

広告代理店を辞めてフリーランスの脚本家として一本立ちしてから出産し、そのままフリーで働き続けているわたしは、仕事復帰の壁の高さを知らなかった。

もしわたしがハローワークで「コピーライターだった経歴は忘れてください」と言われたら、空しさに襲われたと思う。

運命の赤い「見切り品」シール

愛さんは、ハーブ会社のパートの経理として働き始めた。キャリアのしっぽを出さないよう、振る舞いに気をつけながら。

会社はハーブの苗や料理用のフレッシュハーブをスーパーなどの小売店に卸していた。

ハーブなんてよくわかんないと思っていた愛さんだが、ハローワークを訪ねる数か月前、スーパーで見切り品のハーブを買っていた。

「ハーブが好き」ではなく、「見切り品が好き」という理由で。

そのハーブは、パート経理で働き始めたハーブ会社の商品だった。

キャリア戦力としては「見切り品」のレッテルを貼られた主婦と、「見切り品」のシールを貼られたハーブ。

わたしが脚本書くなら、絶対重ねる。わたしが書かなくても、脚本家なら重ねる。

運命の赤い糸ならぬ、運命の赤い「見切り品」シール。

気乗りしなかったお見合いに運命を感じ始める連ドラ第2話。

ハーブの名前や知識を知るにつれ、奥深い世界をもっと知りたくなった愛さん。見切り品じゃないハーブを買って、家庭料理に取り入れていった。

ハーブを知れば知るほど、売りたくなって、ウズウズした。

伝票を書いていると、営業社員の電話商談の声が聞こえてくる。割って入って話をまとめたい衝動を必死に抑え、「いやいや私は経理だから」と伝票書きを続けた。

過去のキャリアを隠すことは、今の自分の能力を押し殺すことだった。だが、ある日、「営業もやってみる?」と声がかかる(3話のラストあたりか)。外からの電話を取ったときの応対を見て、営業も行けるかもと思われたのかもしれない。

パートのままで。

机に向かっていた日々から、会社の外へ出るようになった。得意先へ一人で行かせてもらうようになった。受注数をふやし、新規の得意先も開拓していった。

パートのままで。

封じていた営業能力のフタが開くと、アイデアも行動力も花開いた。どんどん提案した。社長にも新事業の立ち上げや新会社設立を直訴した。役員研修にも行かせてもらった。

パートのままで。

愛さんがちょいちょい挟む「パートのままで」がじわじわ効いた。これが順風満帆にエリート街道を進んできたバリキャリだと面白くない。キャリア査定0どころかマイナスを食らい、一旦は華々しい過去を封印したヒロインが、小さなきっかけを足がかりに実績を積み上げ、のし上がっていくところにドラマがある。

1000円でスタートした時給がじわじわ上っているのと言う愛さんは、エネルギーを注ぐ先を見つけたようだった。

数字がすべてじゃないけど、数字にはチカラがある。100円単位の時給アップは、大暴落から再出発した愛さんには大きな意味があった。今までやってきたことは無駄じゃなかった。邪魔じゃなかった。もう隠さなくていい。我慢しなくていい。「もっと行け」と背中を押してくれる大きな数字だった。

「時給1000円から年収1000万目指してやろうと思って」
「いいね! 愛さん、これ連ドラになるよ!」
「ほんと!? なるかな?」
「なる! わたしが見たい!」

頭の中ではハコ書きを組んで、3話までの初稿を書き始めていた。

「昔の自分を超えたい」と言い切るパート主婦

脚本で大事なのはキャラクターだ。キャラが決まれば、セリフはついて来る。キャラがとんがると、セリフもとんがる。キャラがブレると、言うことがチグハグになる。だから強くて一貫したキャラが求められる。

時給1000円から年収1000万円へ成り上がるパート主婦。

キャラ立ちしてるやないか。

仕事探し奮闘記が武勇伝になり、ギアが入った愛さんの身振り手振りがどんどん大きくなった。カフェのおしゃべりが、もはやプレゼンになっていた。GAGAにいた頃は、こんな感じで劇場を口説いて、配給作品を売り込んでいたのだろう。

そのまま連ドラ企画のプレゼンになりそうだった。「成り上がりパート主婦 小早川愛」。この勢いでテレビ局に売り込んだら、思わず採用してしまいそうではないか。

「この先、愛さんは、どうなりたいの?」

同席したNさんという女性が聞いた。今書いていて思い出したけど、その日初めて会った人だ。その少し前にNさんと出会った愛さんがお茶することになり、その席にまぜてもらったのだった。

ということを今の今まで忘れていたほど、完全に小早川愛の成り上がりパート主婦劇場になっていた。

この先どうなりたいのという質問に、愛さんはその場では答えなかった。ハローワークで紹介されたままハーブ会社のパート経理になり、キャリア時代のしっぽを出してからはあれよあれよと提案が通り、時給が上がり、今はただ手応えを感じられる毎日が楽しいという感じだった。夢中でいるとき、人は先のことなんて考えないのかもしれない。

ドラマのヒロインだったら、この質問に何と答えるだろうか。

「ハーブに出会ったのは運命。生きがいをくれたハーブに恩返ししたい」だと優等生すぎる。

その夜、愛さんから届いたメッセージに書かれていたのは、思いがけないセリフだった。

「自分がどうなりたいのか考えて、わかった。私、会社員だった頃の自分を超えたかったんだ」

やはり原作にはかなわない。このセリフ、わたしからは出て来ない。

「時給1000円から年収1000万円」という数字はキリがいいからだと思っていたけど、会社勤めしていた頃の自分を超える数字だったのか。

実際いくらもらっていたか聞いてないけど、1000万円稼げたら「昔の自分を超えた」と胸を張れるのだろう。

目標を金額で掲げられる潔さが眩しかった。

わたしはお金の話が苦手で、ギャラ交渉も下手だ。思ったより低い金額を提示されると、わたしの評価はその程度なんだと落ち込むけれど、「もっと評価してください」がなかなか言えない。

遠慮してしぼんだままより、数字という評価をやりがいに変えて、成果で応えたほうがカッコいい。自分のギャラ交渉には尻込みしてしまっても、ヒロインに強気で賃金交渉させることはできる。脚本の中で。

年収1000万円を叶えた成り上がり主婦に「この値段で私を雇えるなんて、安いもんよね」と言わせたい。

ステレオタイプ破りなヒロイン

愛さんの熱烈プレゼンを聞いたカフェのテーブルには、わたしが聞き手を務めた坂本フジヱさん(昨年95歳で助産師を引退)の一代記『産婆フジヤン』編集者の松本貴子さんもいた。

松本さんは、坂本フジヱさんの育児本を何冊か手がけるうち、「先生自身の一代記を本にして、朝ドラの原作にしたい」と思うようになった。

男勝りで、ついたあだ名がフジヤン。自分の鼻くそをくっつけた木の棒をヤンチャ男子に突きつけて撃退するような勇ましい子だった。「戦争中が一番勉強させてもらえた」(住み込みで働いた先の歯医者さんがお金を出してくれた)と言い、保健師、看護師、助産師の学校に通い、資格を取った。「戦争は二度としたらあかん」と言いながら、口ずさむのは軍歌。頭で考えてもひねり出せないキャラクターだけど、「このキャラで92年(取材当時)生きている」という圧倒的な説得力があった。

長らく国内現役最高齢の助産師だったヒロインの幼少期を、本人を知らずに将来からの逆算で描いたら、赤ちゃん人形の子守ごっこをさせてしまいそうだ。ちょっとひねってお転婆娘という設定にしても、鼻くそで男子を撃退はさせないだろう。戦争でひどい目に遭ったヒロインに軍歌を憎ませることはあっても歌わせることはないだろう。でも、「当時そればっかし歌っとったからつい口をついて出てしまう」と本人に言われると、矛盾しているように思えた「軍歌を歌うヒロイン」が途端に現実味を帯びる。

体験した人の肉体を通してしか出て来ないセリフがある。感情がある。リアリティにはかなわない。

成り上がりパート主婦の愛さんも、そう。

目指せ年収1000万円の愛さんとフジヤンはまるで違う。フジヤンは拍子抜けするほどあっけらかんとしていて、数字で評価されたいというこだわりもない。編集者の松本さんによると、初めての本の印税額を知らせたとき、「本を作ってもろた」と思っているフジヤンは「この金額を払ったらええん?」と聞いたらしい。

でも、どちらも「ステレオタイプ破り」なところは共通している。

成り上がりパート主婦とはいえ、ハーブと「愛」という名前から、ハーブ愛にあふれ、やわらかな笑顔をたたえた癒し系ヒロインを描きそうになるが、現実は攻めるヒロインだ。アポの電話をガンガンかける。インスタのフォロワーもガンガンふやす。ハーブティーでひと息つく代わりに、ハーブをぶっ込んだスパークリングワインを飲み干す。

ちなみに、というか、ところで、ドラマの中のママ友たちは、どうしてお茶しか飲まないのか。

酒飲みばかりではないと思うけど、茶飲みばかりでもなかろう。

わたしがママ友ドラマを書くなら、昼からスパークリングワインをポンポン開けて、全員一斉にしゃべって(音声さんは大変! アフレコ別録りになるかも)、ひとつのテーブルで3つぐらいの話題が同時進行していて、たまに一つになるのを書きたい。

もし、成り上がりパート主婦が連ドラになったら、ヒロインは酒飲みにする。酒飲みのママ友も登場させる。原作がそうだから。

もちろんテーブルには愛さんのハーブ料理がずらっと並ぶ。

画像2

「キナリ杯書かない?」で怒涛の10000字

「成り上がりパート主婦 小早川愛」は、漫画連載が続くように、武勇伝を更新している。

新型コロナ禍で景気が縮こまる中でも、愛さんはハーブ勢力地図をどんどん広げていた。

水差しで販売する「食べられる生ハーブブーケ」(原型は青山フラワーマーケットと共同開発)を銀座の無印良品に置いてもらったら、斬新さが注目を集めて、リピ買い続出。期間限定の予定が定番商品の座を獲得。さらにナショナル麻布、信濃屋、スーパーオオゼキにも生ハーブを送り込んだ。スーパーオオゼキは6店舗からスタートして、1店舗ずつ、じわじわ増やしていった。(配給作品の上映劇場が続々と決まるのに似ている!)

会社の通販部門の5月の売り上げが巣篭もり需要で前年同月比52倍を記録したことを知ると、生ハーブブーケのモテモテぶりとあわせて紹介する「ハーブ人気、来てます!」プレスリリースをマスコミ100社に送り、猛烈売り込み。34年続く老舗のハーブ農場に初めてTV取材が入り、さらに売り上げがアップした。

初めての電子出版本『作って、食べて、満たされて 私を幸せにするハーブレシピ』が、レシピ本カテゴリーで1位に。

フォロワーが日に日にふえて1万人超えのインスタを見ていると、ハーブ料理のレパートリーも営業先もどんどんふえて壮観。成り上がりパート主婦の快進撃は、自粛期間の閉塞感を破ってくれた。

事実は小説より奇なり。岸田奈美さんの「キナリ杯」に出してみない?と声をかけた。突き進むときの熱量とまわりを巻き込む力がただならぬ二人がつながったら面白いと思った。

「あのカフェでの武勇伝を誌上再現って感じで。時給1000円から年収1000万とマツコ出演を目指す成り上がりパート主婦の話書いて!」

いつの頃からか、「『マツコの知らない世界』に出たい!」が「年収1000万‼︎」と並んで愛さんの目標になっていた。

愛さんはキナリ杯のためにnoteアカウントを作った。締め切り2日前に思いの丈を一気に綴ったら10000字になった。学芸員の矢内さんもびっくりな、ほとばしる言葉のナイアガラ。そこから削って、だいぶスリムになったのを締切ぎりぎりに完成させた。

タイトルどうしようと相談されて、「マツコを入れたら?」と提案した。

時給1000円から年収1000万に上り詰めてマツコデラックスに出たいパートの野望

寝ても覚めてもハーブな私のマツコデラックス出演作戦

ハーブとマツコデラックス出演の野望と子ども4人を育ててます

マツコデラックスに出てハーブについて語り倒す準備はできている

(お気づきでしょうか。マツコデラックスは番組名じゃないですね。本人は「マツコの知らない世界」と書いているつもりでした。)

「『湯を沸かすほどの熱い愛』を思い出したけど、愛さんの名前もタイトルに入れられると良いかも」と提案したら、「愛がすごい!とか言われると、違和感あるのよねー」と愛さん。

うん、確かに。愛より野望だね。

ハローワークから成り上がって「マツコの知らない世界」出演を野望する時給1000円のハーブコンシェルジュ

「ハーブコンシェルジュじゃなくて、『ハーブ料理コンシェルジュ』で!」と愛さん。

ハローワークから「マツコの知らない世界」出演へ!時給1000円のハーブ料理コンシェルジュの野望が止まらない

「今は時給1000円じゃないから、時給1000円スタートかな」と愛さん。

時給1000円スタートのハーブ料理コンシェルジュですが「マツコの知らない世界」出演の野望が止まりません

「野望が止まりません」という口調が私っぽい!と愛さんが気に入って、その方向で行こうとなり、初note記事が公開された。

キナリ杯の受賞は逃した(「成り上がり賞」があれば候補に上がったかも)けれど、愛さんの熱のこもったプレゼン資料ができた。

ハーブと小早川愛は繁殖する

6月の終わり、「今日の夕方お茶しない?」と愛さんから突然のLINEがあった。

お茶と言いつつ、泡を持ってやって来た。

「せっかくだからベランダで飲む?」

画像2
ベランダのテーブルでロゼのスパークリングワインを。

晩ごはんの支度までの1時間。シュワシュワしながら積もる話をした。友人の誰かを家に招くのは3か月ぶりで、こういう時間に飢えてたんだなと満たされてから自分の中にできていた空っぽの部分に気づいた。

キナリ杯に思いをぶつけて、愛さんの成り上がり願望はさらに熱くなっていた。

キナリ杯応募前から受けていた映像道場で、TBSの敏腕プロデューサー・坂田栄治さんからダメ出しを食らっては、これでどうだ‼︎と食らいついていた。

TBSといえば「マツコの知らない世界」。というか、企画を世に送り出したのが坂田さんらしい。愛さんはじりじりと、いや、ぐいぐいとマツコに迫っていた。

ハーブ愛よりハーブ熱。いやハーブ欲。いやいやハーブ圧。濃厚ジェノヴェーゼができるやないか。

愛さんとシュワシュワのグラスを傾けたささやかな庭でわたしはバジルやミントを育てているので、どんどん根を張って増えるハーブのたくましい繁殖力を知っている。

ハーブと小早川愛は繁殖する。

と共通点を見つけて、ハーブは愛さんの成り上がりの手段じゃなくて、バディなんだなと思った。

ハローワークのお見合いで薦められた、今までつきあったことのない相手。そしたらハーブが増えて広がるみたいに世界が広がって。

今までハーブと縁のなかった売り場やキッチンや食卓にハーブをどんどん送り込んで広げるのは陣地拡大みたいだし、手応えが地図で見える。それがやりがいになってるのかも。

「食べられる生ハーブブーケ」を開発したのは、「ハーブは香りが命。なのに、香りを袋やパックに閉じ込めて売るのはもったいない」と感じていたからだという愛さん。

エネルギーを持て余していた愛さんをハーブが解き放ってくれた。そのハーブを愛さんが解き放った。

このnoteを書いている時点で「食べられる生ハーブブーケ」のスーパーオオゼキでの扱いは14店舗まで増えたらしい。マツコ出演で、きっとまだ増える。

ハーブは自分では歩いてスーパーや食卓に行けない。愛さんは食べてもらうことはできない。だからバディを組んで食卓進出の野望を遂げる。手を取り合って繁殖する。

「マツコ」の野望実現‼︎最終回が見えた‼︎

先週、「『マツコの知らない世界』に出ることになったの!」と愛さんから報告があった。放送日は9月1日という。

言霊は絶対あるから、マツコに百歩近づいたと思うよ。5年かかるところが半年に短縮されるかも。

愛さんに送った「キナリ杯おつかれさま」のメッセージに、そう書いたのが6月1日のこと。実現まで半年どころか3か月に短縮されていた。

ハローワークで日経ウーマンを閉じられた主婦は、もっと大きなドアを開けた。パートのままで。連ドラなら最終話のクライマックスに持って来れるエピソードだ。

予告の短い抜き映像から、愛さんの弾けっぷりが伝わる。初対面のマツコさん相手に「聞いてくださいよ!」と食いついて、「ずっと聞いてますよ‼︎」とマツコさんに言わせてる。

いつも以上の熱と圧‼︎

この番組で初めて愛さんを知った人は、圧倒されてしまうかもしれない。でも、カフェで武勇伝を聞いたときから愛さんの野望エンジンを見ている、その前のくすぶり時代から愛さんを知っているわたしには、マツコさんに会えたのがうれしくてうれしくて愛さんがしっぽをブンブン振っているみたいに見えて、可愛いくてしょうがない(実際メイクされて、いつも以上に可愛い)。

成り上がり欲丸出しで運命の女神を振り向かせてから前髪をつかみにかかるヒロインが、最終話に向かってどんどん愛しくなる。ヒロインの「マツコ出演」野望が、観ている人の夢になる。連ドラ終盤に向かっての盛り上げが見えてきた。

以前のわたしのnote「キナリ杯」というドアに、アメリカに留学した高校時代のことを書いた。

さまざまな人種や民族が集まる国で、競争は「どんな人にもチャンスはある」という平等を生み出していた。「チャンスが欲しければ手を挙げ、手に入れる」を繰り返すうちに、「自分は何がしたいのか」が見えてきた。そして、「与えられた」のではなく「勝ち取った」チャンスには力を尽くすことを実感した。

家庭に入った主婦が仕事に復帰するハードルが高いこの国で、愛さんは、パートの経理になった。それがたまたまハーブ会社だった。運良く見込んでくれた人がいて、営業をやらせてもらえるようになった。商談のひとつひとつがチャンスだった。手を伸ばしてつかんでいくうちに、自分は何がしたいのかが見えてきた。そして、勝ち取ったチャンスに、全力を注いで、結果を出して、時給を積み上げている。年収1000万円を目指して。

ここまで会社に貢献したら、正社員にという話が出て、1000万円超えできるかもしれない。でも、マツコ出演を機に出演や原稿の依頼が増えたら、「パートのまま会社員だった頃の自分超え」も夢じゃない。ドラマ的にはそっちの方が面白いけど、もっと予想もつかない現実が待っているかもしれない。

そんなことを話したら、愛さんは言った。

「熱量ではもう、会社員時代の私を超えた」

それ、最終回の決めゼリフにいただく。

1000万円という数字に抱きしめられたかったヒロインが、その目標を達成する前に自分で自分を抱きしめる。

ええやんええやん。

「ハローワークの木村さん」の伏線回収

さらに驚いたのは、「ハローワークの木村さんにマツコさん出ますって報告したら、ぶっとんでたわ!」

え⁉︎ ハローワークの木村さん⁉︎ 

ハローワークの人と連絡取り合ってたの⁉︎

過去のキャリアを封じられて、「あのときのハローワークの人を見返してやる!」となっている成り上がりパート主婦が、その人と今もつながっている展開は想像してなかった。

わたしのほうが、ぶっとんだ。

まじでお世話になったので! 営業やることになって、時給上がった時に、会いに行ったの。お礼いいたくて。

愛さんは最初から「会社員だった頃の自分を超えてやる!」と燃えていたわけではなく、営業をやらせてもらえるようになり、仕事がどんどん面白くなって、成り上がり欲に火がついたらしい。そんな愛さんのハーブ会社での活躍を聞いて、ハローワークの木村さんは、「ブログを立ち上げたら?」などとアドバイスをくれていたと言う。

これが実話。これがリアリティ。

なんという伏線回収!!

わたしの頭の中では、ハローワークの人は完全に「ヒロインを焚きつけるヒールキャラ」になっていた。木村さん、ごめんなさい。

あのとき、過去の栄光をアピールしないようにと木村さんが釘を差したのは、愛さんがあまりに面談対策を根掘り葉掘り聞いてくるので、「面接のときに、この熱量でぐいぐい行ったら、相手が引いてしまう」と心配になったからなのだそう。

「熱量は100分の1にしてくださいね」と言ったハローワークの人。愛さんの熱量が活かされることを誰よりも願っていたのは、その人ではないだろうか。

愛さんのマツコ出演を見て一番泣くのは、その人ではないか。

そのシーンを想像して、わたしが泣いている。

脚本はもうできている。

愛さん、あとはドラマ化するだけだよ。

clubhouse朗読と後日談

後日談はこちらのnoteに。

宮村麻未さんがclubhouseで全文朗読。


いいなと思ったら応援しよう!

脚本家・今井雅子📻聴き逃し配信中「世界から歌が消える前に」📚11/30座・高円寺リーディングフェスタ
目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。