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さらば私の青春の光 ① 映画『blur : To The End』


思いのほか十代の頃から音楽を聴いたり、それについて書いたりすることを仕事にしてしまった。当時は喜び勇んだものだが、誰もが言うように本当に好きなことを仕事にしてしまう、というのは一長一短だ。

レコードを聴いていても、レビューする前提が頭の片隅にあり、どんな見出しを作るか、何を原稿の軸を何にするかを常に考えている。
それゆえ、自分自身の思い出や経験――私だけの固有の記憶・経験といったものと、直接的に結びついている楽曲やアルバムは、実は驚くほどに少ない。

人生もとっくに折り返し地点を過ぎた今でも、数えるほどのアーティストしか思い浮かばない。例えば、それを指折り数えたとき、ブラーは間違いなく最初、もしくは2番目に呟く名前だろう。

Park Life”を聴けば、今でも鮮明に17歳で初めてロンドンの空気を吸い込んだあの瞬間が蘇る。。“End of a Century”は乗客のいない深夜バスの静寂を思い出す。“Chemical World”を聴けば、知らない土地の森の中で偶然見つけた小さな滝と差し込む光の美しさに息をのんだことを。“Girls & Boys”では、渋谷の街で毎夜大騒ぎしていた友人たちの笑顔を。“Pop Scene”は、青春という名の狂騒曲そのものだ。

そして、これまた意外にも人は〈大人〉にはならない。人生の折り返し地点をとっくに過ぎたはずの歳になっても、ちっとも大人にならない。久々に会った友人との会話が、親の介護、持病や保険、税金の話題が主になったとて、基本的に誰も変わっていないし、成長もしていない(と思う)。

そして、ブラーは高校1年生のある夏の日に出会って以来、それはもう自分でも呆れるほどに、自分の隣に「いつもある音楽」であり続けてきた。

そのブラーが「終わる」。さらば、私の青春の光。いやいや私は大人になんかならないぜ――とは強がってみても、彼らのドキュメンタリー映画『blur : To The End』は間違いなく私に、そしてあなたに「さて、次に進まなければね」と穏やかに、しかし真正面から語りかけてくる。

それは、想像以上に不思議な体験だった。

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唐沢真佐子 / Masako Karasawa
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