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十五歳、高校一年生。一年五組。彼とわたしは一年間、この教室で共に過ごした。出席番号が近く、同じ班でもあった。 班での活動は、授業のあとの掃除と、たまに総合学習の時間にグループでの調べものや発表があるときだけで、そこまで接点があるわけではなかった。 それでもわたしは、彼に恋をした。 四月の末の、体育館掃除のときだったと思う。出入り口の階段で足を引っ掻けて転んで、膝を擦りむいたとき。前方を歩いていた彼が振り向き、すぐにポケットから絆創膏を出して「大丈夫?」と声をかけ
その報告を受けたとき、わたしは人目も憚らず飛び跳ねて大喜びした。 長い時間を一緒に過ごしてきた幼馴染みと、職場で一番仲が良い友だちという、わたしの人生においてなくてはならない大切なふたりが、付き合い始めたのだ。飛び跳ねたくもなる。 「おめでとう、お幸せにね」 張り上げた声は、風船みたいに膨らんで、上擦っている。 感情が溢れそうな声に、ふたりは目を丸くしたあと顔を見合わせ、フフと笑った。とても幸せそうに。とてもそっくりな笑顔で。まるでわたしには見えない、ふたりだけ
「訴えないでね」 わたしの左耳に触れる指先も、訴えないでね、と懇願した声も、微かに震えていて。わたしはそれに気付かないふりをしながら「訴えません」と断言した。 「大丈夫ですから、一思いにやっちゃってください」 言うと、わたしの左耳に触れる男性――アルバイト先の店長は、低い声で呻いて、短く息を吐いた。 「あのねえ、今から俺がやろうとしているのは、きみの身体に穴を開けることなの。その穴は半永久的に残るの。もうちょっとゆっくり心の準備させて……」 「でもあまり時間をかける
ねえ、おぼえてる? 学生時代、屋上に続く階段の踊り場を、部室として使っていたじゃない。誰も来ない西側の階段だったし、天気の良い日はそのまま屋上に出たりしてさ。 使われなくなった机がいくつも置いてあったから、それを並べ替えてパーテーションや棚の代わりにして。勉強したりボードゲームで遊んだり、突発的にありとあらゆる選手権や大会が開催されたり。 わたしはそれで優勝しまくったおかげで自分の記憶力が良いってことを知ったし、きみは人狼ゲームで無双して頭の回転が速いひとだっ
小学生の頃、好きな男の子の家でみんなでジグソーパズルで遊んだとき。わたしは、みんなが集中している隙に、見つけた真ん中のピースをポケットに忍ばせ、こっそり持って帰った。 またあの子と遊ぶきっかけにしようと思った。 でも翌日、欠けたパズルのピースのことで激怒するあの子を見たら、返せなくなってしまった。 直前までは「昨日帰って見たらポケットに入っていたよ、だから今日またおうちに行ってもいい?」なんて何食わぬ顔で言うつもりだったのに。もはやそんなことを言う雰囲気ではなくて、
実家にある勉強机の引き出しで、プラスチックの小さなケースを見つけた。その中に入っていたのは白い糸くずが絡みついた半透明のボタンだった。 わたしは懐かしさに目を細める。 さらに引き出しからは中学生の頃使っていたネームプレートと、校章や学年章がいくつも出てきた。 わたしが通っていた中学校では、好意を持った異性からは第二ボタンを、先輩や友人からは校章や学年章をもらうというイベントがあった。加えて、両想いになればネームプレートを交換したりもする。 この大量の校章や学年章
暇さえあれば彼はハーモニカを吹く。小学生の頃に買ってもらったらしく、かなり年季が入ったハーモニカだ。 いや、子どもの頃に音楽の授業で吹いたようなハーモニカではなく、穴が十個しかない、手のひらにすっぽり収まるサイズのもので、正式にはブルースハープと呼ぶらしい。銀色で、メーカー名の他に蔦のような模様が刻まれたそれは、惚れ惚れするくらい美しい。音楽史に詳しくないわたしはその楽器を、ただ単に「ハーモニカ」と呼んでいる。 そんな音楽史に詳しくないわたしでも、音は演奏者によって変