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優しい彼女

セブン=イレブンの深夜シフトのそのひとに、元から興味がなかったと言えば嘘だ。

週に2日か3日、22時から入っているひと。やや控えめな茶髪のボブ。痩せて小柄な彼女は、いつもにこやかだ。
多忙な棚卸しの最中でも、きっと振り向いて微笑んでくれる。セルフレジに変わった後も、レシートを手渡ししてくれる。
ちょっとだけ動きはスローだが、深夜なのでこちらも急いではなく、そのちょっとしたぎこちなさに、私はかえって惹き付けられる。

2週間ほど前、私にはいくつかのネガティブな出来事が重なった。
早朝からイレギュラーなことで非常に慌ただしく、寝付きの悪い娘が眠る時間まで、自分の時間をとることが難しかった。空模様と同じで、誰にも褒められることがない雪かき仕事が延々と続いた。

耐えに耐えて、笑顔のまま私は玄関を出て、思わず舌打ちが出る。暗く独り言を唱えながら、すでに雪深いコンビニへ向かった。

ヨーグルトと明日の食パンをカゴに入れた後、半ば捨て鉢にポテトチップスと菓子パンをふたつ、投げ込んだ。
新薬の影響でコレステロールと中性脂肪がひどく上がっているから、ふだんは我慢している。
しかしこの日は、もうどうにでもなれと思っていた。

いや、たぶん、もはや何も思っていなかった。

レジは珍しく混んでいて、私は3人目に並んだ。毎日入っている兄さんがひとり無表情で回している。

不意に、肩を叩かれた気がして振り向くと、彼女だった。
「ごめんなさいね、お待たせしました。レジ開けますね」
微笑んで私を誘ってくれた。

ゆっくりとバーコードを読ませながら、
「このポテトチップス出たばかりですよね。おいしいんですかねえ。」
と話しかけてくれる。
ささくれだっていた私はぞんざいにあいづちを打ったが、彼女の声のトーンに、人間が人間に話しかけてくれている軽やかさを久々に感じた。一気に私の心の薄氷が溶けた。
ゆっくりと会計を終え、レシートを手渡ししながら、
「お疲れですね?わたしのお店ならリポビタンDあげるんですけど、バイトなんで……」
と彼女は心から楽しそうに笑う。
私も、つい笑ってしまう。

店を出て、リポD以上の力を確信した。

たとえささやかでも、他愛なくても、好意と関心を持ってかけてくれる言葉の力。
私が何より信じたくて信じられずにいた言葉の力を、彼女は容易く信じさせてくれた。

これ以来、私はいけないと思いながらも、彼女への気持ちをいっそう募らせずにはいられないのだ。
今日も彼女がいればいい、と思いながら、私は毎晩セブンに行く。
今日もきっと行く。

これからしばれる冬の深夜バイト、無理して体調を崩さないかが心配だ。 

彼女の曲がった腰を心配しつつ、とにかく達者で長生きしてほしいと私は願うのだ。

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