
Photo by
yokopie
変則日記/春倦き
突然、決定的に、書くのに倦きていた。
契機が無い。
まったくもって、青天の霹靂である。
少なくとも一昨日くらいまで、執筆意欲と、暑苦しい向上心に溢れていたのは確かだ。
いまや何も、すがすがしいほど何も、湧いてこない。
もし、これが職業だったら、と慄然とする。
するどい電気が走る。
物語なんかで、記憶喪失の人が、やにわにある過去を思い出すときの、あの頭を抱えるような感覚である。うううッ、と。
うううッ。
予備校で教えていたときのことだ。
数回だが、私はまったく同様の倦きに見舞われていた。
罰が当たるほどに、日々の仕事を愉んでいた。高度成長期のリーマン真っ青の激務には違いなく、身体はいつもぎりぎりだったが。
それがある朝、憑き物が落ちるように、馬鹿らしくなっていた。
疑念とか倦怠とかを、ひと息に飛び越え、無、無。なだ・いなだ。
本来ならば、ここで分析とか後日譚とかを書かねばならない。
だが、いかんせん、どうにも倦きている。
馬鹿らしくて、仕方ないのだ。
当地のあれで言えば、なんまら、はんかくさいのだ。
あのころとは大いに事情が異なり、愉しくもないのに、書くことの必然性はない。
ただ、何せ、唯一の趣味である。また、愉しくなればよいのだが、とは思うのではある。
あっ、そう言えば刑事さん、
ふと、ひとつだけ、思い当たることがある。
関係あるかは疑わしいが。
昨日の昼過ぎ、家人の留守にふと思い立ち、3時間ほど無心に漢文を書写した。
上手く書こうも、何かを学ぼうもなく、ただ、そこにある文字を、何枚も何枚も書き写した。
素晴らしい時間であった。
おそらく、それからだ。
アプリを開くのさえ、別人のように億劫になっている。
とりあえず、現場からは以上。