リピート70%超の商品を作るのに広告費はいらない(ashlyn小島さん②)
今回ご紹介するビジネスのプロフェッショナル「ビジプロ」は、付け心地が良くおしゃれなノンワイヤーブラジャーで起業した、株式会社ashlyn(アシュリン)の代表取締役社長、小島未紅さんです。
前回は、小島さんの「販売する気のなかったブラが即完売のヒット商品に」というお話をお伝えしましたが、今回は「リピート70%超の商品を作るのに広告費はいらない」という話をお伝えしたいと思います。
この記事はFMラジオ、InterFMで毎週日曜20時30分からお送りしている番組「ビジプロ」で放送された内容と、未公開部分を併せて記事化しています。ビジプロは、「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」などの書籍や、個人M&A塾「サラリーマンが会社を買うサロン」で知られる事業投資家の三戸政和が、さまざまな分野の先駆者をゲストに招いて話を聞き、起業や個人M&Aなどで、新たな一歩を踏み出そうとしているサラリーマンを後押しする番組です。番組は三戸さんとの対談ですが、記事はゲストのひとり語り風に再構成しています。
音声アプリVoicyでは、ノーカット版の「ビジプロ」を聴けますので、こちらもお楽しみください。
思いも寄らないニーズを掘り起こせるのがDtoCビジネス
私の会社は最近浸透してきたいわゆるDtoC企業です。DtoC企業はインターネットを通じて商品を直接消費者に届けるスタイルの会社です。
Eコマースの一種ではありますが、DtoC企業は、自分でプラットフォームを用意したり、Twitterなどと連動したりすることで、自社ブランドやその世界観について多くの情報を発信しています。ネットで商品を届けるだけでなく、世界観も一緒に消費者に届けるという意味で、DtoC企業は単なるEコマースとは区別されると考えています。
私の場合は、ホームページやTwitterによる発信で、うちの商品は、ひとりのOLが女性に共通する身近な悩みから作った商品であることが伝わっています。そういうことはアマゾンや楽天などで販売するだけではなかなか伝わりません。
消費者との直接のつながりを商品開発に生かすのもDtoC企業の特徴です。24hブラはいま、SMLの3サイズで展開していますが、以前はSサイズがありませんでした。というのも私自身が、ブラジャーにストレスを感じているのは、バストが大きめでブラジャーで支える必要がある人だけ、と思い込んでいたからです。
ですが、ある消費者の方が、熱量の高いメッセージで、バストが小さめの方も同じようにブラジャーの締め付けに悩んでいるという声を伝えてくれました。そんな声からSサイズの商品を用意することになったのです。消費者とつながることで、自分では気づけなかったところを気づけたのはすごく良かったなと思っています。
Twitterで拡散される言葉の使い方
私たちは新色のブラジャーを出すときに、「新色総選挙」を行って、消費者の投票によって新商品の色を決めています。総選挙では2000票ぐらいの投票が集まります。そこで選ばれた新色のブラジャーは販売開始3分で売り切れということもあります。SNSによってつながることで、ニーズに合う商品を届けられるのです。
最近の新色総選挙ではピスタチオという深い緑系の色が選ばれました。ピスタチオカラーはトレンドではあったのですが、下着ブランドの目線で言うと、ピンク系や淡い色が人気なので、ピスタチオのようなカラーを販売するのは冒険になります。
しかし私たちは新色総選挙という形でお客さんの声を聞いて、ニーズがあることがわかった上で生産できますし、総選挙に投票してくれた人は買ってくれやすいという、消費者を巻き込んだ開発にもなります。
このように、アンケートなどをよく行って、消費者とつながろうとするのもDtoC企業の特徴です。
ただ私は、アンケートをするのも、単純にするのではなく、総選挙と銘打ったり、さまざまな色の中から選んでもらう形にしたりして、ワードとしても盛り上がってユーザーも楽しめるような、ひとつのコンテンツとして提供しようと取り組んでいます。Twitterでバズることが多いのも、そういうことを意識しているからかもしれません。
DtoCだとシャンプーもカスタマイズできる
私がDtoC企業で注目しているのは、シャンプーでDtoCをやっている「メデュラ」というブランドです。メデュラはカスタマイズシャンプーを販売しています。シャンプーを成分や香り、自分の髪質、好みなどの中からオーダーメイドで作れて、ネットで注文すると自宅に届くというサービスです。すでに100万本くらい売れているようです。
髪は多くの女性が悩んだりコンプレックスを持ったりしていますから、消費者は広く存在しますし、DtoCだからこそできるカスタマイズシャンプーというところに独自性もあります。メデュラは今後、さらに伸びていくと思っています。
着心地だけを売りにすると女性は買わない
メデュラのホームページを見ると女性への訴求力が高いと感じます。メデュラのカスタマイズシャンプーは5万通りの組み合わせがありますが、男性向けのマーケティングですと、5万通りのカスタマイズができるというところに特化して、機能を訴求するものになります。
メデュラのホームページは機能に焦点を当てていません。デザインや言葉、写真などの使い方によって、香りをイメージさせるものになっていたり、シャンプーそのものが欲しくなるようなものになっていて、女性への訴求力が高いと感じます。
商品や世界観をロジカルなところではなく、感覚的な部分で伝えるのはとても難しく、私もすごく苦戦しているところですが、女性は感覚的な右脳で買うところが多いので、メデュラのホームページはとても参考になります。
24hブラで言うと、「楽」とか「着心地がいい」というところは、実は言葉として使いづらいところがあります。というのも、「楽なブラジャー」と聞くと、女性の中には、「サボっている」という印象を持ったり、「おしゃれ部分は妥協している」と思ったりする人がいるからです。
ですから私たちは、レースのデザイン性を強調したり、色のバリエーションを見せたり、モデルさんがそのブラジャーをつけて幸せそうに過ごしている写真を使ったりして、感覚的な部分を表現しています。そうすることで、機能があるからほしいだけでなく、24hブラを心で欲しいと感じてもらえるように、こだわって作っています。
返品率を下げるためのサイズ展開の工夫
アパレルのDtoCやEコマースは試着ができないという心配がありますが、私たちは購入してもらって、お届けから20日以内はサイズ交換も返品もできるようにしています。サイズ展開もSMLの3つで、購入しやすくなっています。
ワイヤーの入ったブラジャーを買う場合は、カップとアンダーのサイズを測って、たとえばBカップでアンダーが65というように、両方のサイズが合うものを買う必要があります。そういう商品展開になると、売る側としても揃えておくべき商品の種類が増えますし、購入する方も迷ったり間違えたりしやすくなります。
一方、24hブラはとても伸縮性があり、靴やワイヤーブラほど形が決まっていないため、ひとつのサイズで、ワイヤーブラでは複数に渡るサイズに対応できますし、多少サイズを間違えてもフィット感を感じられます。24hブラの返品される割合は非常に低く、1%以下です。
広告費をかけないことでリピート70%を超える
現状では発売する度に売り切れる状況ではありますが、経営者として、ものすごく数字は意識しています。売上の数字はもちろん、リピート率、コンバージョン率、アクセス数、集客数という数字は販売の度に追っていて、少しでも目標に満たなかったら、それを分析して改善するようにしています。
広告費はかけていません。ホームページとSNSの口コミだけで販売できています。それでも、たとえばLTV(1人のお客さんが生涯でどれくらい買ってくれるか)などの指標もちゃんと意識しています。
そういう数字を意識することで、どうしたらクロスセルをしてくれるか、クロスセルをしてもらうためにはどういう商品がいいか、などを考えています。
売上を上げるためにはクロスセルは重要で、24hブラに合わせられるサニタリー商品を開発したり、ブラジャーのカラーバリエーションを増やしたりしています。
商品展開を広げながらも、売れないもの、粗利が低い可能性がある商品は売らないようにしているので、商品が増えることによって粗利が低下することはありません。
先日の計測では、購入してくれた人が1か月後にリピートする確率が70%以上でした。かなりリピート率は高くなっていて、広告費はかけずともここまで伸ばせるんだと、手応えを感じています。
Twitterで拡散してもらうアナログな方法
お客さんとのやりとりは基本的にはメールと公式LINEを使っています。私は、お客さんの目線でやってほしくないことはしないと決めているので、メルマガを送るのも1年に数回で、セールの告知や本当に大きいニュースのときだけしか送りません。
送られた側にとって、メルマガはノイズになりかねませんし、私自身、メルマガが来たから買ったという経験もほぼないので、メルマガを定期的に送りつける手法は取っていません。
私はメルマガを届いてうれしいものにしたいと考えています。たとえばセールの連絡は、メールよりも手紙の方がもらってうれしいだろうと考え、お客さんに手紙を送ってお知らせするようになりました。
ブラジャーの会社なので、ハガキではプライバシーの問題があるため、お知らせは封書で送ります。せっかく封書で送るのでおまけもつけます。
先日、ラベンダーの新色発表のお知らせのときは、ドライフラワーのラベンダーをレースの巾着袋に入れてポプリを作り、「初夏の香りと共にお楽しみ下さい」と送りました。このお知らせにはお客さんもとても喜んでくれて、「こんなうれしい告知が来た」とSNSで発信してくれる方もいました。
そんなふうにして私たちはお客さんとつながっています。私たちが築いているお客さんとの信頼関係の強さは、単純にメルマガを送りつけるだけの手法と比べると、桁違いに強いと思っています。
ユニクロに勝てる商品開発をしている
今後の商品展開として、ルームウェアを作りたいと考えています。コロナ禍の影響でおうち時間が増え、消費者のルームウェアに求める機能が変わってきていると考えています。実際、お客さんからも「こんなルームウェアがあったらいい」という要望をいただいています。
ルームウェアはユニクロや無印商品など競合がたくさんいますが、実は勝ち筋は見えています。でもその内容は企業秘密なので、それがどんなものなのかは、実際の商品を楽しみにしていてください。
次回は、小島さんの「OLがブラを作り、広告を使わず日商1000万円を達成」をお伝えします。
※この記事は、日曜20時30分からInterFMにて放送しているサラリーマンの挑戦を後押しするベンチャービジネス番組「ビジプロ」の内容をまとめています。
三戸政和(みとまさかず) 事業投資家、ラジオDJ
1978年兵庫県生まれ。同志社大学卒業後、2005年ソフトバンク・インベストメント(現SBIインベストメント)入社。ベンチャーキャピタリストとして日本やシンガポール、インドのファンドを担当し、ベンチャー投資や投資先でのM&A戦略、株式公開支援などを行う。2011年兵庫県議会議員に当選し、行政改革を推進。2014年地元の加古川市長選挙に出馬するも落選。2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行っている。また、ロケット開発会社インターステラテクノロジズの社外取締役も務める。
著書に『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』(講談社+α新書)、『資本家マインドセット』(幻冬舎NewsPicks)、『営業はいらない』(SB新書)、『サラリーマンがオーナー社長になるための企業買収完全ガイド』(ダイヤモンド)、『サラリーマン絶滅世界を君たちはどう生きるか?』(プレジデント)などがある。Twitterのアカウントは、@310JPN。