コト消費ビジネスに目を付けた理由(ソウ・エクスペリエンス西村琢さん①)
私たちの消費のあり方は、モノ消費からコト消費へと変わってきたと言われていますが、そう言われるずっと前から、コト消費のビジネスを立ち上げ、軌道に乗せてきたビジプロがいます。
「ソウ・エクスペリエンス」の創業者、西村琢さんです。世間より一歩も二歩も先を行く西村さんから伺ったお話を2回に分けて掲載します。
この記事はFMラジオ、InterFMで毎週日曜夜8時半からお送りしている番組「ビジプロ」で放送された内容と、未公開部分を併せて記事化しています。ビジプロは、「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」などの書籍や、個人M&A塾「サラリーマンが会社を買うサロン」で知られる事業投資家の三戸政和が、さまざまな分野の先駆者をゲストに招いて話を聞き、起業や個人M&Aなどで、新たな一歩を踏み出そうとしているサラリーマンを後押しする番組です。番組は三戸さんとの対談ですが、記事はゲストのひとり語り風に再構成しています。
音声アプリVoicyでは、ノーカット版の「ビジプロ」を聴けますので、こちらもお楽しみください。
体験ギフトをビジネスに
ソウ・エクスペリエンスでは、体験ギフトという商品を企画販売しています。体験ギフトとはアクティビティなどを体験できる権利をギフトチケットとして贈るものです。
どんな体験があるかというと、東京湾のクルーズや乗馬体験などのアクティビティ、スパやエステなどのケア商品、ちょっと贅沢なお店での食事など、やってみたい、行ってみたいけど、なかなかきっかけがつかめない体験がそろっています。
ギフトチケットにはいくつかの体験が選択肢として掲載されていて、贈られた方はその選択肢から1つを選んで体験することができます。贈り物のひとつの新しい形だと考えています。
ビジネス当初は悪戦苦闘もようやく定着
この体験を贈るビジネスは2005年から始めているのですが、最初の10年ぐらいはまったく売れず、悪戦苦闘しました。でもここ4~5年ぐらいでだいぶ、体験を贈ることが贈り物の形として定着してきました。
もちろんアクセサリーや食べ物などのモノを贈るほどの規模ではないですが、体験を贈ることが選択肢のひとつになってきたという手応えはあります。
モノ消費からコト消費へと言われるだいぶ前からコト消費のビジネスをしてきて、なぜ最近になって市民権を得たのかはよくわかりませんが、うれしいことに、明らかにここ5年ほどで売れるようになってきました。
ただ、体験ギフトは、外に出掛けて体験するものが中心なので、コロナの影響はかなり受けています。幸いにもいまは力強く戻りつつあります。
あと1~2年くらいでコロナは収束するでしょうし、その頃にはうちのビジネスもすっかり元に戻るだろうと楽観的に考えています。
学生の頃から起業を目指す
体験を贈るビジネスは、僕が考えたわけではなく、もともとイギリスにあったビジネスです。イギリスではエクスペリエンスギフトという名前で、結構当たり前の商品になっていて、僕の知る限り、イギリスは圧倒的に早くて、30年ぐらい前からあると思います。
それをあるときに見つけて、これ面白いなということで、2005年にビジネスとして立ち上げました。
僕は学生の頃から、起業するためネタを探していました。パナソニックの学生向けのビジネスプランコンテストではレーシングカートのビジネスプランで優勝しています。
その賞をきっかけにパナソニックの契約社員となり、社内ベンチャーとしてレーシングカートのプランをビジネス化しようとしたのですが、僕自身、納得いくものにならず、別のポッドキャストのプランもお金が掛かり過ぎるということでダメになりました。
そんな中で、体験ギフトを知って、これをやってみたいとなったのですが、この事業は、お世話になったパナソニックからは離れて、自分でやることにしました。
体験ギフトに着目した理由
なぜ体験ギフトをやってみようと思ったのかは、後付けの部分もあると思いますが、2つの理由を挙げられます。ひとつはリアルな体験が良いものだと思っていたからです。
たとえば、僕がずっと好きなレーシングカートは、スピード感や迫力があってすごく面白いものですが、そのリアルな面白さを体験して知っている人は少ないです。
そうした、身体を使ったリアルな体験が面白いものはほかにもたくさんあるので、そういう体験をギフトという形で届けられれば、多くの人に良い体験を提供できて喜ばれるだろうと思いました。
もうひとつの理由は、どんな贈り物をしていいか、みんな困っているなあという気づきです。結婚式の引き出物も、最近はもっぱらギフトを選べる本になってきています。そうした贈り物の選択肢のひとつとして、体験ギフトが加われば、みんなの悩みにも答えられると思ったのです。
一対一の贈り物に
僕たちの体験ギフトは、結婚式のような1対 nで大勢に配るシーンではなく、誕生日やクリスマスプレゼント、結婚記念日、母の日や父の日の贈り物など、1対1の贈り物で使われることを想定しています。
年間で考えると、毎日がだれかの誕生日なので、誕生日で使われることが圧倒的に多いですが、瞬間風速的には母の日やクリスマスの利用が多いです。
売れ筋の商品をひとつ挙げれば個室スパエステチケットです。女性用だけでなく、男性用もあります。我々の商品は、結婚記念日などの特別な日に、パートナーに「1日ゆっくりしてきて」といったメッセージや気持ちを伝える手段として、贈られることが多いようです。
最近は体験ギフトとは別に、カスタマーオーダーギフトという商品群を作っていて人気になっています。枕やシャツ、コスメなどのアイテムを、自分好みにパーソナライズできる商品です。
たとえば、オーダー枕なら、中央部分は上向きで寝る用、サイドは横向き用になっていて、それぞれ、自分の好みと身体に合わせて、高さと硬さが変えられます。僕自身もこのオーダー枕を使っていますが、なかなか良くて、おすすめです。
直近ではパーソナライズコスメギフトという、化粧品やバスソルトなどのコスメアイテムを自分好みにできる商品を出したばかりなんですが、すごく反応がいいです。
体験ギフトに加えて、カスタマーオーダーギフトが、うちのビジネスを広げてくれると期待しているところです。
創業資金の集め方
僕は高校生の頃から株式投資をやっていました。もちろん大金を動かせたわけではなく、集めていた500円玉が数万円になったから、それで株式投資をしてみようというスケールが小さい話なんですが、1995年頃に高校生で株式投資をやっている人は数えるほどしかいなかったと思います。
大学生になっても、いろんなことに挑戦したい人だったので、僕の周りには、こんな僕を生温かく見守ってくれるチャレンジに寛容的な人が多く、中には一緒にやってくれる人もいました。
卒業後もそんな周囲との関係性を維持していたので、起業のときに声を掛けることができて、その中の多くの人が、そんなにお金を持っているわけではないのに、お前だったら出してやろうみたいな感じでお金を出してくれて、創業資金1000万円を集めることができました。その後、増資もしているので、株主はかなりの数になります。
ただ、そこにちょっとした反省点もあります。
お金を出してくれた人には株を持ってもらいますが、だれに株を持ってもらうかは大事です。立ち上げた会社で、初年度から十分な利益を出すのは、業態によっては難しいことですから、ビジョンがある程度一致していて、中長期的な視点で考えてくれる人に株を持ってもらう方がいい。
でも株主が多すぎると、株主とのコミュニケーションに手間と時間が掛かりますし、こちらの考えを理解してくれる人ばかりではなくなることもあります。もしやり直せるとしたら、そこはやり直したいと思っています。
競合が増えてきた
ソウ・エクスペリエンスは、体験ギフトやカスタマーオーダーギフトを提供してくれるおよそ2000社のサプライヤーと提携しています。たとえば1万円のギフトが売れたら、その1万円を私たちが受け取ります。
そして、ギフトチケットをプレゼントされた方が、ひとつを選んで、サプライヤーのところに行って、体験をしたり、アイテムを受け取ったりしたら、そのサプライヤーに1万円のうちの70~80%を支払うことになっています。これがうちのビジネスモデルです。
業界的にはここ5年ほど拡大傾向となっていて、海外の同業者が日本に進出したり、カタログギフトを扱っている会社や旅行サイトなどが体験ギフトを取り入れたりと、競合が増えてきました。
そんな中の今年3月、ソウ・エクスペリエンスは、ギフティという東証一部の会社の完全子会社になりました。ギフティは、eGiftというカフェやコンビニ、ウェブサービスなどで利用できるチケットを、SNSで簡単にプレゼントできるサービスを運営している会社です。
私たちは体験をギフトにする事業、ギフティは贈り物をデジタル化する事業であり、双方が一緒にやった方が面白くなると一致したので、こういう形になりました。
弟子の会社と一緒になった
実はギフティは私の教え子が作った会社です。私は15年くらい前、自由大学という起業塾をやっていました。そこで最初にやった講義を受講してくれたのがギフティの創業者の太田睦さんでした。ギフティは2009年に私たちのオフィスから創業して、その後、ものすごい勢いで成長し、一部上場まで果たしました。
彼らのビジネスが大きくなる中で、僕たちのビジネスとかぶる領域が見えてきて、その領域については双方が遠慮するみたいな場面も出てきました。そんな状態はよくない、それなら一緒にやろうという話を去年の夏ぐらいから話し始めて、いろいろ詰めて、今年の3月、契約に至りました。
形としてはうちが子会社になりますが、会社を完全に一緒にしたわけではなく、両社はそれぞれが独立して運営するということを設立趣意書で約束しています。
いまのところ経営メンバーに変化はなく、基本的にはお互い干渉せずにやろうとなっています。もちろん、いまの状態を、これからも、どのくらいの純度でやっていけるかは今後の結果次第です。
僕らにとっては、上場企業の完全子会社になったので、決算作業などいろいろと大変なことや変化も出てきます。それでも、教え子とこういう形になったことを、僕自身、うれしいことだと捉えていますし、かなり前向きな気持ちでやっています。
聞く力~ビジネスに必要な3つの力①
ビジネスに必要な力を3つ挙げるとすれば、「聞く力」と「書く力」、それから、足す、引く、掛ける、割るの「四則演算の力」ですね。小学生みたいですけど、この3つは結構大事だと思います。
聞く力というのは、いろいろな人から話を聞きだしたり、考えをくみ取ったりする力です。ビジネスでは、プロからお客さんまでいろいろな人と接する中で、この人の話に何か可能性があるなと感じるケースと出会うことがあります。
そういうときに、きちんとヒアリングができて、その人の考えや知見を引き出せるのが聞く力です。いわゆる質問力と似ています。社員とのコミュニケーションにおいても聞く力は重要になります。
書く力~ビジネスに必要な3つの力②
書く力は、僕自身、非常に重視している力です。僕がこうしてしゃべっていることも、元を辿れば、僕自身がどこかで書いたことがベースになっています。ですから僕は、話すためにも、考えをまとめるためにも、とにかく文章を書くようにしています。
書くのはメモや箇条書きでもいいし、手書きでもスマホでもいい。僕自身、最近は手書きとスマホの割合が半々くらいになっています。書くのは日記でもブログでも、公表するものでもしないものでも構わないと思います。
僕は箇条書きもよく使うので、箇条書きでもいいとは思いますが、できれば文章の方がいい。それは、文章には、箇条書きでは現れない抑揚が出てきて、自分の意識していないことまで表現されることがあるからです。
僕はマネジメントやリーダーシップは、すべて言葉で完結すると思っています。社員に自分の考えを伝えたり、やり方を指示したりするには言葉が必要です。数字ももちろん大事ですが、言葉が紐づいてこそ数字にも意味が出てきます。
僕はうちの社員には、僕の考えをコンテクストで理解してほしいと思っています。僕のブログはそのためにあるといってもいい。
ブログには仕事に直結するものしないもの、さまざまな文章を載せていますが、こうした文章を通じて、僕の考えがコンテクストで社員に伝わり、社内の価値観が一致していくというのが理想です。
「僕の価値観とは」みたいな大上段に構えたものは書きません。僕の価値観がなんとなくにじみ出るようなさまざまな種類の文章から、僕の価値観が徐々に伝わってほしいと思っています。
ブログは一般の人も読むことができますから、採用では、僕のブログを読んで、僕の考えに共感してくれる人が集まりやすくなります。そういう人なら、僕自身の言葉がより届きやすいですし、会社を辞めることも少なくなるので、採用にも、書く力は役立っています。
四則演算の力~ビジネスに必要な3つの力③
最後の力が、足す、引く、掛ける、割るの四則演算の力です。
たとえば、これは経営者あるあるだと思いますが、僕は飲食店に入ったら、メニューやお客さんの状況などをパッと見て、この店の客単価、回転率などを推測して、1日や月の店の売上がどのくらいかを、すぐに計算してしまいます。こういう計算ができる力が四則演算の力で、経営者になるには必須の力でしょう。
ビジネスを立ち上げるにも、そのビジネスはちゃんと成立するのか、どのくらいの儲けが出るのかなどを算段できなくてはなりません。そのためには四則演算の力が絶対に必要です。
支払いと入金のズレ~失敗図鑑
これまでのビジネスで失敗したことは、支払いと入金のズレで苦労したことです。取引先からの入金と取引先への支払いは、一般的には月末締め月末払いなんですが、うちはなぜか入金が月末で、支払いが25日になっています。
入金と支払いの間に5日から1週間くらいのタイムラグがあって、重要なのは入金の前に支払いが来ることです。お金が回るようになったいまでこそ、タイムラグには苦労しなくなりましたが、初期の頃はお金がなかったので、タイムラグを埋めるための資金繰りが大変でした。
なぜそうなったのかというと、理由は簡単で、会社を立ち上げた当初は、契約書の作り方もよくわからなかったので、ネットで転がっている契約書の雛形を拾ってきて、それを元に契約書を作ったのですが、その雛形が25日払いだったのです。
そのため、わが社の支払いは25日となってしまって、5日6日のタイムラグの間、お金がない、回るか回らないかギリギリということがいっぱいあって、何年も泣かされました。でも、そうこうしているうちに、なんとなくお金も回って来て、タイムラグに困ることもなくなったので、いまも月末入金、25日払いのままです。
ほかにも大きな失敗をしているかもしれませんが、僕は失敗を気にしないたちなので、基本的には覚えていません。よく言えば鈍感力があるというか、失敗を失敗と気付かないことも多いかもしれません。鈍感力は経営者には必要な資質なんだろうと思っています。
次回は、西村さんの「70点のパフォーマンスでOKなマネジメント術」をお伝えします。
※この記事は、日曜20時30分からInterFMにて放送しているサラリーマンの挑戦を後押しするベンチャービジネス番組「ビジプロ」の内容をまとめています。
三戸政和(みとまさかず)事業投資家、ラジオDJ
1978年兵庫県生まれ。同志社大学卒業後、2005年ソフトバンク・インベストメント(現SBIインベストメント)入社。ベンチャーキャピタリストとして日本やシンガポール、インドのファンドを担当し、ベンチャー投資や投資先でのM&A戦略、株式公開支援などを行う。2011年兵庫県議会議員に当選し、行政改革を推進。2014年地元の加古川市長選挙に出馬するも落選。2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行っている。また、ロケット開発会社インターステラテクノロジズの社外取締役も務める。
著書に『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』(講談社+α新書)、『資本家マインドセット』(幻冬舎NewsPicks)、『営業はいらない』(SB新書)、『サラリーマンがオーナー社長になるための企業買収完全ガイド』(ダイヤモンド)、『サラリーマン絶滅世界を君たちはどう生きるか?』(プレジデント)などがある。Twitterのアカウントは、@310JPN。