ぼくの一番のお友だち
そのときは突然やってきた。
ばぁばのおうちに、ママと泊まっていたある朝のこと。
目が覚めて1階に降りると、すぐにばぁばの朝ごはんがでてきたんだ。それを、いつもより急いで食べてるママ。
少しするとパパが迎えにきて、ママとクルマに乗り込んだ。今日は朝早くから3人でお出かけみたいだけど、パパの様子もいつもと違う。
クルマがとまったのは見たことがある建物。生まれたばかりの頃に、何回か来たことがあるような気がした。
中に入るとママだけいなくなった。パパと待っているうちに、ばぁばもやってきた。
いったい何をするんだろう?
◆
しばらくすると、僕よりも小さな赤ちゃんを抱っこするママがいた。
パパもばぁばもとても喜んでいるが、この赤ちゃんはいったい誰?
とても不思議な気持ちだった。
そういえば、よくみんなから「もうすぐおにいちゃんだね」って言われてたけど、どういう意味なんだろう?
色々考えてるうちに、パパに連れられて別の部屋に行った。ベッドがあってホテルみたいだ。
◆
ママが一人で入ってきた。疲れてるみたい。
だけど、みんなでお昼ごはんを食べたり、みんなでいろいろお話ししたり、暗くなるまで楽しく過ごした。
ひとつわかったのは、さっきの赤ちゃんが「いもうと」で、ぼくが「おにいちゃん」のようだ。まだよくわからないけど。
夜になると、パパと2人で帰ることになった。ママと離れるのは寂しいけれど、お正月にパパとお泊まりしたこともあったし平気だった。
◆
次の日起きると、また朝からお出かけだった。
ママのところに行くみたいだ。今日もお部屋で、みんなで遊ぶのかな!
ワクワクしながらママの部屋に入ると、そこには昨日の赤ちゃんがいた。
その日も、ご飯を食べたり、お話ししたり、おもちゃで遊んだり。だけどママは、ときどき赤ちゃんを見ているし、赤ちゃんと一緒にどかに行くこともあった。
それを見ると、また不思議な気持ちになった。
◆
外が暗くなり夜になった。
今日もパパと2人で帰るようだ。だけどそうとわかった途端、なんだかとても悲しくなり、声をあげて泣いてしまった。昨日は平気だったはずなのに。
クルマで帰る途中に、パパが色々お話ししてくれた。たしか、パパもおにいちゃんだよって言ってた気がする。
家に帰ってご飯とお風呂をすませた後、テレビを見てた。さっき泣いたことも忘れてたと思う。
だけど、「そろそろ寝んねしようか」とパパが言った瞬間、またあの気持ちがやってきた。
さっきよりももっと大きな声で泣いちゃって、泣きすぎたせいで、口に入っていたものも出てきちゃったし、それを見てまた怖くなった。
いっぱい泣いたら疲れちゃって、しばらくの間、パパが抱っこしてくれていた。
そのとき思ったんだ。こんなことなら「おにいちゃん」になりたくなかった。
◆
それから2年が経って、今日は家族4人みんなで、妹の誕生日パーティー。
大きな声でハッピーバースデーの歌をプレゼントしてあげたんだ。
だって妹は、ぼくの一番のお友だちだから。
だってぼくは、妹のお兄ちゃんなんだから。
ただ、今でも妹がママと2人でいると寂しくなることもあるけどね。