「心理学✖️デザインの学び」春のオープンキャンパス
2024年3月23日(土)春のオープンキャンパス
春のオープンキャンパスでは,高校生を対象に心理学の講義を行いました。テーマは,心理学でもポピュラーな「ストレスマネージメント(ストレスをコントロールする方法に関するもの)」です。これまでも,このテーマを扱った授業はしてきましたが,今回は,私なりに”ある”チャレンジをしています。ここでは,その成果を報告します。
私なりの”ある”チャレンジ
”ある”チャレンジとは何か?それは,「あなたの感覚と心理学の理論が結びつく体験」を提供することです。
大学で学生と雑談していると,「心理学って難しいと思っていた」といった声をよく聞きます。確かに,難しい面もあります。なんたって,生身の人の心に触れるのですから,統計や病理に関する知識,心理学の基礎理論,心理技法など色々なことを学ぶ必要はあります。
ですが,オープンキャンパスに参加する高校生(おそらく,心理学に初めて出会う人)には,まずは「心理学って楽しい!」と思ってもらいたいのです。なぜなら,楽しいことであれば長続きするし,学ぶことも苦ではないからです。
「大学では自分の学びたいことが学べる」,「学ぶことって楽しい!」そう感じてほしいという思いから,今回の授業をデザインしました。
感覚と理論が結びつくための授業デザイン
では,どのような授業デザインであれば,感覚と理論が結びつくのでしょうか?具体的には,①須永剛司教授提唱の「やって・みて・わかる」という体験学習のサイクルを取り入れること,②参加者全員で理論化するプロセスを歩むこと,③教えるー教わるという関係を取り払うこと,この3つを取り入れた授業をデザインしました。
①「やって・みて・わかる」という体験学習のサイクルを授業に取り入れる
これは,東京藝術大学名誉教授の須永剛司教授が提唱しているもので,本学の授業でも,須永・岡村・柿本が実際に運用している考え方です。自分の経験したことを表現し,それをみんなでみつめて,理解(問い)を深めるというサイクルです。
②参加者全員で理論化するプロセスを歩む
これは,表現したものを参加者全員でみつめて,似たもの同士をグルーピングするといったプロセスを全体で行うものです。今回は,このプロセスを高校生や教員,在校生も含めて全員で行いました。
(このプロセスは,①の「やって・みて・わかる」というサイクルの中に内包されているものです。ただ,研究者としての色が強くなっていた私にとっては,その道の専門家ではない人と理論化を行うという発想にとても驚いたので,別途抜き出して書いています。)
③教えるー教わるという関係を取り払う
これは,教師がその道に関する知識や理論を教え,学生はそれをとにかく吸収するという固定化された関係を取り去るというものです。初めは,心理学の専門家が,授業で心理学について教えない,という手法にとても抵抗がありました。が,私はお世話をしすぎであるという自覚があり,かつ,学生の主体性を喚起したいという願いを持っていることから,今回,思い切って,心理学について教えるスタンスを放棄するチャレンジをしてみました。(放棄というと乱暴かもしれません。実際には,学生が必要だと感じた際に,タイミングよく理論や技法を提供するというものです。ヴィゴツキーの発達の最近説領域(ZPD)を転用したものと考えられます。ここについては,須永先生に確認が必要ですが。)
やってみて
授業体験には,高校生を含む20名程度の人が参加してくれました。総合文化学科の教員も飛び込みで参加してくれました。
授業体験の目的は,「自他の意見を参考に,ストレスをマネージメントする方法を見つける」というものでしたが,参加した高校生の感想をみると,その目的が達成されたことがわかりました。
おわりに
私は,ここ1年「デザインの学び」を展開する3名と共同研究をさせてもらってきました。葛藤や試行錯誤もありつつ,ようやく,心理学に「デザインの学び」を取り入れる形が見えてきました。「ようやく」と書いたのは,この学びを自分の中に取り入れるためには,咀嚼や反芻が必要だったからです。まだまだ「デザインの学び」のマインドや哲学を理解できているとは言い難いので,これからも学んでいきます。その中で,自分なりのいい塩梅を探していきたいです。
最後までお読みくださりありがとうございました。