知の調律〜古典が奏でる現代のサウンドスケープ
私たち現代人は、日々新しい情報に囲まれ、最新のトレンドを追いかけることに忙しい毎日を送っています。そんな中で、「古典なんて今の時代に必要なのだろうか」という疑問を持つ方も少なくないでしょう。しかし、私の教育者としての経験から言えることは、むしろ情報過多の現代だからこそ、古典の持つ普遍的な価値が輝きを増しているということです。今回は、古典の現代的意義について考えてみたいと思います。
原石としての古典 - その純度の高さが持つ意味
大学で音・音環境やサウンドスケープ論を教えている中で、私はしばしば過去の偉大な学者や評論家たちの著作を学生たちに読ませる機会を設けています。その度に強く感じるのは、人間の思考や行動には時代を超えた普遍性が存在するということです。
人間の本質的な感情や思考のパターンは、5年や10年どころか、時として1000年という時を経ても変わることがありません。この事実は、私たちに大きな示唆を与えてくれます。
私自身、作曲家として「変わらないもの」という楽曲を手がけた経験がありますが、まさにそのタイトルが示すように、世の中には確かに変わらない本質的なものが存在しているのです。
現代書籍の本質を紐解く
現代の書籍は、確かに最新の情報や現代的な現象を巧みに織り交ぜて構成されています。しかし、その根底には必ず過去の偉大な思想家たちのアイディアや発想が息づいています。言わば、それは古典という純度の高いエッセンスを現代的に希釈して再構成したものと言えるでしょう。むしろ、新書を100冊読むよりも、一冊の古典をじっくりと読み込む方が、物事の本質により深く迫ることができる場合も少なくありません。
サウンドスケープから見る古典の意義
私の専門である音響文化の分野で言えば、R.マリー・シェーファーの『世界の調律』は、まさに現代における古典と呼べる書物です。600ページに及ぶこの大著は、今読むと些か古びた部分も見られますが、音風景(サウンドスケープ)という概念を初めて体系的に提示した原点として、今なお色褪せない価値を持っています。
この本は私のバイブルとも言えるもので、読むたびに新たな発想や気づきを与えてくれます。現代の音環境について行き詰まりを感じた時、この本に立ち返ることで、問題の本質が見えてくることが多々あります。
古典が照らす未来への道
平安時代の古典である『徒然草』や『枕草子』には、1000年以上の時を超えて、現代人の心にも深く響く普遍的な感情や思索が描かれています。それは、人間の喜びや悲しみ、人生の虚しさといった根源的な感情が、時代を超えて共通していることの証左となっています。
現代の専門書もまた、そうした普遍的な真理を内包しているものが少なくありません。ただし、それらは往々にして、原典の持つ純度の高いメッセージを、現代的な文脈に合わせて希釈したものとなっています。
私たちが新しい分野を学ぼうとする時、その領域の原点となる古典的著作にまず触れることは、極めて重要な意味を持ちます。なぜなら、古典とは、幾多の時代の検証を経て、なお残り続けた価値ある知見の結晶だからです。
もちろん、古典だけを読んでいれば良いというわけではありません。現代の著作と古典との比較対照を通じて、より深い理解と洞察を得ることができるのです。それは、まるで音楽における和音のように、古い音と新しい音が響き合って、より豊かな響きを生み出すようなものかもしれません。
このように考えると、古典を学ぶ意義は明確です。それは単なる過去の遺物ではなく、現代を生きる私たちに、物事の本質を見抜く眼を養わせてくれる、かけがえのない知的資産なのです。古典との対話を通じて、私たちは自身の思考を深め、より豊かな未来への展望を開くことができるでしょう。
情報があふれる現代だからこそ、時代を超えて受け継がれてきた普遍の知恵に、私たちは立ち返る必要があるのです。それは、決して過去への回帰ではなく、未来を照らす確かな灯火となるはずです。
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