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スローな時代を生きる:情報過多社会での知恵の育み方

現代社会に生きる私たちは、日々膨大な情報の波にさらされています。スマートフォンやSNS、24時間ニュースなど、常に新しい情報が押し寄せてきます。しかし、この情報過多の時代にこそ、ゆっくりと考え、深く思索する時間が必要なのではないでしょうか。本稿では、「スループット」という概念を軸に、現代人に求められる知恵の育み方について考察します。

私は常日頃から、「スループット」という処理段階に注目しています。これは単に情報を通過させるという意味ではなく、むしろ重要な要素を心の中で熟成させる状態を指します。現代社会を生きる我々は、こうしたチャンスを逃しがちです。しかし、このゆっくりとした熟考こそが、大きな築きとなり、真の哲学につながるのだと実感しています。


情報過多時代の落とし穴

今の時代、私たちは情報にしても、食べ物にしても、何にしても「消費」してしまう傾向にあります。インプットしてアウトプットするまでの時間が驚くほど短くなっています。「タイパ」という言葉があるように、パフォーマンスや時間効率ばかりを追い求めてしまうのです。

私自身、この状況をひしひしと感じています。ある学者の仮説によれば、現代人の情報インプット量は、平安時代や鎌倉時代と比べると1万倍から2万倍にも及ぶそうです。考えてみれば、昔の人々はそれほど多くの情報を得ていなかったはずです。しかし、彼らの残した知恵はどうでしょうか。

古典を紐解けば、驚くほど深い考察に出会います。表面的な文章ももちろんあったでしょうが、多くの古典は深く掘り下げられ、今なお私たちの心に響きます。これは文学だけでなく、建築などの分野でも同様です。法隆寺や薬師寺といった建造物を見れば、当時の技術が今日でも及ばないほど完成されていたことがわかります。

情報量と知恵の質は比例しない

ここで重要なのは、情報量の多寡が必ずしも知恵の質を決定するわけではないということです。むしろ、情報が少なかったからこそ、人々は一つ一つの情報を深く反芻し、最後の一滴まで絞り出すように知恵を生み出していったのではないでしょうか。英語でいえば、「Information」から「Intelligence」への変換、つまり単なる情報から知性への昇華が行われていたのです。

現代では、AIの進化により、ビッグデータから瞬時に情報を抽出し、整理することが可能になりました。しかし、人間が身体を通じて培ってきた知恵や、瞬発力的に生み出される創造性とは、やはり質が異なるように思います。

例えば、AIが生成する音楽や文章を見てみましょう。確かに技術的には優れていますが、どこか「のれんに腕押し!」のような印象を受けることがあります。見た目は綺麗にまとまっているのに、心にドスンと響かない。小綺麗にまとまっているけれど、なぜか心が動きづらい。こうした感覚を覚えた方も多いのではないでしょうか。

AIには肉体や感情がありません。そのため、平均値的なものは上手く出せても、人の心を本当の意味で動かすことは難しいのです。ChatGPTやGoogleのGeminiなど、最新のAIは確かに驚くべき速さで情報を処理し、要約を作成します。しかし、その速さと引き換えに、人間が求める精神性の深さが失われているように感じるのです。

スループットの重要性

ここで私が強調したいのが、「スループット」の重要性です。スループットとは、単に情報を通過させることではありません。情報を蓄え、熟成させる過程を指します。現代人に求められているのは、このスループット力、つまり「蓄える力」なのです。

私自身、日々の情報インプットを意図的に制限しています。読みたい本も、気になるウェブ情報もたくさんありますが、ある種の感覚遮断をしているのです。もっと読みたいと思うまでは、あえて新しい情報を入れないようにしています。

これは、若い頃のように大量のインプットをこなせなくなったからというわけではありません。むしろ、ぼーっとする時間、特に家事をしているときのような無心の状態が、新たな気づきを生み出す源泉になると気づいたからです。

掃除や料理、お皿を洗うといった単純作業。そんな時に、限られた情報量の中から新しいアイデアが生まれることがあるのです。常に新しい情報に反応しているだけでは、本当の意味での進歩は望めません。無意識にコントロールされている状態は、ある意味で危険でさえあるのです。

スロースループットの実践

この考えに基づき、私は自分のポッドキャスト番組でも、一回の放送時間を10分程度に抑えています。情報量が多すぎると、聞き手にとっても「ただ聞いて終わり」になってしまう可能性があるからです。

一つのことを深く掘り下げていくこと。そして、そういう聞き方を聴衆の方々にしていただくこと。これがとても大切だと考えています。あれもこれもと広く浅く情報を摂取するのではなく、少ない情報を深く味わう。そんな姿勢が求められているのではないでしょうか。

自分のインプット量を意図的に削減し、物思いにふける時間を増やす。これは一見、贅沢な時間の使い方に思えるかもしれません。しかし、このスループットの過程を経ることで、おのずと質の高いアウトプットができるようになるのです。

忙しい日々の中でも、私はこの実践を心がけています。業務上必要なインプットは別として、自分にとって本当に大切な情報は、一行一行じっくりと反芻しながら取り入れるようにしています。

作家の平野啓一郎さんも「スローリーディング」の重要性を説いています。速読ではなく、むしろ「遅読」とでも呼ぶべき読書法です。このような精神性を持って情報と向き合うことが、現代社会を生きる私たちには必要なのではないでしょうか。

結びに:スローなスループットのすすめ

情報過多の時代だからこそ、私たちには「スローなスループット」が必要です。全ての情報を素早く処理しようとするのではなく、時には立ち止まり、じっくりと考える時間を持つこと。それが、真の知恵を育む土壌となるのです。

日々の生活の中で、意識的に情報のインプットを制限し、熟考の時間を設けてみてください。一見、非効率に思えるかもしれません。しかし、そうして生まれた気づきこそが、あなたの人生に新たな価値をもたらすはずです。

スマートフォンを手放し、静かな環境で本を読む。散歩しながら、何も考えずにただ歩く。家事をしながら、心の中でアイデアを熟成させる。そんな小さな実践から始めてみてはいかがでしょうか。

情報の海に溺れることなく、自分のペースで知恵を育んでいく。そんなスローな生き方が、逆説的ではありますが、この急速に変化する社会を生き抜くための強力な武器となるのです。

今日からでも、あなたなりの「スローなスループット」を実践してみてください。きっと、新たな発見や創造性の芽生えを感じることができるはずです。そして、そこから生まれる知恵こそが、あなたの人生をより豊かで深みのあるものにしていくことでしょう。

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小松正史
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