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癒し音楽の向こう側〜能動的な音楽体験へ

私たちの日常に深く根付いた「癒し」という言葉。その響きは心地よく、多くの人々を魅了してきました。しかし、この言葉の裏側には、私たちが気づかないうちに陥っている罠があるのかもしれません。今回は、「癒し」という概念の変遷と、その商品化がもたらす影響について、音楽や社会の変化とともに紐解いていきます。そして、真の癒しとは何か、私たちはどのようにして自分自身を癒すことができるのか、その道筋を探っていきましょう。


癒しの語源と変遷

「癒し」という言葉、皆さんはどのように使っていますか? 私たちの日常会話に溶け込んでいるこの言葉ですが、その本来の意味を知っている人は少ないかもしれません。元々、「癒す」という動詞から派生した「癒し」は、医療や治療の文脈で使われていました。怪我や病気を治す、心身の不調を改善するという、具体的な行為を指す言葉だったのです。医師や治療師が患者に対して行う、専門的な技術や知識を必要とする行為を表現していたのです。しかし、1990年代半ばから後半にかけて、この言葉の使われ方に大きな変化が訪れます。「癒し」が名詞として独立し、より広い意味を持つようになったのです。この変化は、当時の社会情勢と密接に関連していました。1995年は、日本社会に大きな衝撃を与えた出来事が相次いだ年でした。地下鉄サリン事件や阪神・淡路大震災など、多くの人々に深い心の傷を残す事件や災害が起こりました。さらに、1980年代後半のバブル経済崩壊後の長引く不況も、人々の心に重くのしかかっていました。このような社会背景の中で、人々は心の安らぎを求めるようになりました。そして、その欲求に応えるかのように、「癒し」という言葉が新たな意味を帯びて登場したのです。

音楽と癒しの商品化

音楽の世界でも、この「癒し」ブームは顕著に表れました。1999年、ピアニストの坂本龍一氏による「エナジーフロー」がリリースされ、ピアノソロ曲にもかかわらずオリコンチャートで1位を獲得するという快挙を成し遂げました。この曲は、疲労回復剤「リゲイン」のCMソングとして使用され、多くの人々の心に響いたのです。シンプルなピアノの旋律が、複雑な現代社会を生きる人々の心を癒す。 この現象は、音楽が持つ力を改めて示すと同時に、「癒し」が商品として消費されるようになった象徴的な出来事でもありました。同じ頃、クラシック音楽の世界でも同様の動きがありました。1995年には、指揮者のヘルベルト・フォン・カラヤンによる「アダージョ・カラヤン」がリリースされました。テンポの穏やかな弦楽曲を中心としたこのアルバムも、大きな反響を呼びました。2000年代に入ると、様々なジャンルの音楽を集めたコンピレーションアルバム「Feel」シリーズが人気を博しました。ボーカル曲からインストゥルメンタル、映画音楽まで、幅広い「癒し系」音楽を一枚のアルバムで楽しめるという商品は、多くの人々の支持を集めました。

癒しの商品化がもたらすもの

このように、「癒し」という概念は、音楽をはじめとする様々な商品と結びつき、大きな市場を形成していきました。美少女キャラクターグッズや癒し系アイテムなど、その範囲は音楽以外にも広がっていきました。しかし、ここで立ち止まって考えてみる必要があります。「癒し」を商品として消費することは、本当に私たちの心を癒すことにつながるのでしょうか?確かに、お金を払って手に入れた商品によって一時的な安らぎを得ることはできるかもしれません。しかし、それは本当の意味での「癒し」と言えるでしょうか。私が懸念しているのは、この「癒し」の商品化によって、私たちが受動的な消費者になってしまうことです。誰かが選んだ「癒し」の商品を、ただ受け取るだけでは、真の意味で自分自身を癒すことはできないのではないでしょうか。

真の癒しを求めて

では、どうすれば真の癒しにたどり着けるのでしょうか。私が提案したいのは、自分自身で「癒し」を探求する姿勢です。例えば、ある音楽を聴いて心が落ち着いたと感じたら、そこで終わりにするのではなく、さらに深く掘り下げてみましょう。その曲のアーティストは誰なのか、同じジャンルの音楽にはどんなものがあるのか、自分で調べてみるのです。このプロセスを通じて、自分にとっての「癒し」を能動的に選び取っていくことができます。それは単なる商品の消費ではなく、自己探求の旅となるでしょう。同様に、香りや視覚的なアイテムなど、音楽以外の「癒し」についても同じことが言えます。他人が勧めるものをそのまま受け入れるのではなく、自分で選び、その背景を探ることで、より深い癒しの体験につながるのです。

癒しの本質を見つめ直す

ここで強調しておきたいのは、私自身も音楽を制作する立場として、自分の作品を「癒し」として売り出しているわけではないということです。それは聴く人それぞれが感じることであり、押し付けるものではありません。真の癒しとは、他人が用意したものを受動的に受け取ることではなく、自分自身で探し、選び取るプロセスそのものにあるのです。 それは時に労力を要し、簡単ではありません。しかし、そのプロセスこそが、私たちを本当の意味で癒し、成長させるのではないでしょうか。「癒し」という言葉の使い方や、それにまつわる商品の選び方を見直すことで、私たちはより豊かな心の状態を手に入れることができるのです。それは単に気分が良くなるだけでなく、自分自身をより深く理解し、人生をより充実したものにする可能性を秘めています。今回、皆さんに伝えたかったのは、「癒し」という言葉の裏側に潜む商業主義の影と、それを乗り越えて真の癒しを見出す方法についてです。これを機に、自分にとっての「癒し」とは何か、改めて考えてみてはいかがでしょうか。そして、音楽や芸術、自然など、様々な形で存在する「癒し」を、自分自身の手で探し求めることが重要です。きっと、そこには思いがけない発見と、深い自己理解が待っているのです。

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小松正史
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