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傾聴から生まれる対話の力〜聞き上手が育む豊かなコミュニケーション

私たちの生活の中で、会話は空気のように当たり前の存在です。しかし、その一つ一つを丁寧に紐解いていくと、そこには深い意味を持つ人間関係の縮図が見えてきます。特に印象的な話し手の背後には、必ずと言っていいほど優れた聞き手の存在があることに気づきます。私自身の経験を通じて、この興味深い関係性について考えていきたいと思います。


話し手として育った環境

振り返ってみると、私は幼い頃から人前で話すことに比較的抵抗がありませんでした。それは決して生まれつきの才能ではなく、むしろ環境が私をそのように育ててくれたのだと考えています。家族を中心とした周囲の大人たちが、常に私の話に真摯に耳を傾けてくれる存在でした。

人は認められることで、より自由に自己表現できるようになります。 この単純な事実は、私の人生を通じて何度も確認されてきました。今では大学での講義やセミナーなど、様々な場面で自分の考えを表現する機会をいただいていますが、その原点には間違いなく、私の話を受け止めてくれた温かな家族の存在があったのです。

心が通う対話の本質

会話というのは、単なる言葉のキャッチボールではありません。そこには深い心理的な営みが存在しています。円滑なコミュニケーションが生まれると、話し手はより多くを語りたくなり、聞き手はより適切なタイミングで相槌を打つようになります。

しかし、これは表面的な技術論では説明できない現象です。むしろ、心理的な側面が大きく関わっているのです。相手の言葉を心の底から受け止めることは、莫大な量な精神的エネルギーと包容力を必要とします。それは単純な返事の速さや相槌の技術といった表層的なものを超えた、深い人間理解の問題なのです。

大学教員としての学び

私は大学教員として、月におよそ30人の学生と個別面談を行っています。その内容は研究指導に留まらず、時として深刻な個人的な悩みの相談にまで及びます。20年以上この仕事に携わってきましたが、近年特に感じるのは、学生たちの抱える問題の複雑さです。

そんな中で常に心がけているのは、判断を差し控えて純粋に寄り添うという姿勢です。これは精神科医のような専門家の仕事に近いものかもしれません。しかし、教員という立場だからこそできる支援があると信じています。

傾聴がもたらす変化

学生たちは、自分の話に真摯に耳を傾けてもらえていると感じた時、驚くほど心を開いてくれます。 それは決して技術的なものではなく、その瞬間に生まれる信頼関係によるものです。些細な会話の中から、問題解決の糸口が見えてくることも少なくありません。

この経験は、より大きな場面でも同様です。講義やプレゼンテーションにおいても、聴衆との関係性が極めて重要になってきます。私の場合、授業開始前にまず教室の雰囲気を整えることから始めます。学生たちの集中力が散漫になってきた時は、いったん立ち止まって環境を整え直します。

表現者としての成長

これは音楽演奏の場面でも同じことが言えます。誰かが聴いている、誰かが受け止めようとしているという空気感は、演奏者の表現力を大きく変化させます。私自身、音楽家としての活動においても、聴衆の存在が演奏の質を大きく変えることを実感しています。

市井で見かける「話し方のコツ」といった類の本は、往々にして一面的な理解に留まりがちです。真のコミュニケーション力は、実践の場での肯定的な経験の積み重ねによって培われていくものです。それは決して短期間で習得できるものではありませんが、確実に成長は積み重なっていきます。

対話を育む環境づくり

大学の教室や研究室という場所は、まさにそうした対話の練習場となります。私は授業の中で、できるだけ学生同士の対話の機会を設けるようにしています。他者の話に耳を傾け、その内容を受け止め、自分の言葉で返していく。この過程を繰り返すことで、コミュニケーション能力は着実に育っていきます。

時として、教室全体が沈黙に包まれることもあります。しかし、その沈黙さえも重要なコミュニケーションの一部です。誰かが勇気を出して口を開くまで、クラス全体で待つ。そうした経験も、実は貴重な学びの機会となっているのです。

豊かな対話社会に向けて

このように、話し上手と言われる人の背景には、必ず優れた聞き手の存在があります。それは家族であったり、教師であったり、友人であったりします。そうした存在に支えられることで、人は少しずつ自分の言葉を獲得していくのです。

現代社会では、SNSの普及により、表面的なコミュニケーションが増えています。しかし、だからこそ、実際の対面での深い対話の重要性が増しているとも言えます。一人一人が優れた聞き手となることで、社会全体のコミュニケーションは豊かになっていくはずです。

これからも教育者として、また一人の表現者として、対話の可能性を探っていきたいと思います。それは決して華々しい仕事ではありませんが、確実に次世代のコミュニケーション力を育んでいく礎となるはずです。

このように、コミュニケーションの本質は、技術や知識以上に、相手への深い理解と受容にあるのです。私たち一人一人が、より良い聞き手となることで、社会全体の対話の質は確実に向上していくことでしょう。それは、より豊かな人間関係と、より深い相互理解につながっていくはずです。

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小松正史
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