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音を記録する喜び 〜録音機器と共に歩んだ40年の軌跡〜

私たちの人生には、決して写真や映像だけでは捉えきれない、音の記憶が刻まれています。駅のホームに響く列車の轟き、懐かしい人々の声、季節の移ろいを告げる虫の音。そんな音風景を記録し続けてきた私の40年に及ぶ 大音の旅 を、録音機器との出会いを通してお話ししたいと思います。この物語は、単なる機器の進化の記録ではなく、音との対話を通じて見えてきた、人生の豊かさについての考察でもあります。


3歳の少年と声の魔法

1980年代初頭、一台のテープレコーダーとの出会いが、私の人生を決定的に変えることになります。まだ3歳だった私は、家にあったテープレコーダーで自分の声を録音することに魅了されていました。声を記録し、それを再生して聴くという単純な行為が、幼い私に「音を保存する」という魔法のような体験をもたらしたのです。特に印象深いのは、お盆の時期に訪れた祖母の実家でのエピソードです。兵庫県(旧:但東町)にある祖母の実家まで40分ほどの車での移動。その道中で録音した自分の声を、親戚の前で再生したときの光景は、私の記憶の中で特別な位置を占めています。当時の具体的な記憶は定かではありませんが、周囲の大人たちの驚きの表情と、その場の温かな空気感は、今でも鮮明に覚えています。

少年時代の音の冒険

小学生になると、私の音への興味は更なる広がりを見せていきます。特に鉄道への関心と結びつき、新たな音の探求が始まりました。当時、憧れの的だったソニーの録音機能付きウォークマンを手に入れたことで、私の音の冒険は本格的に幕を開けることになります。列車での旅行中、私は様々な音を収集していきました。「お茶はいかがですか?」という車内販売員の声、各駅での特徴的なアナウンス、そして何より魅力的だったのが、停車中のディーゼルカーから響くエンジン音でした。これらの音を家で聴き返すとき、その場所や瞬間の空気感が鮮やかによみがえってくるのです。写真も撮影していましたが、音の持つ臨場感には特別な魅力がありました。まさに音鉄ですね!

デジタル革命の衝撃

1990年代に入ると、録音技術は大きな転換期を迎えます。アナログからデジタルへの移行期において、私が出会ったのがDATでした。デジタルオーディオテープという、当時としては革新的な技術との出会いは、私の録音ライフを一変させました。大学時代に取り組んだ京都府与謝郡伊根町のサウンドスケープ調査では、ソニー製の小型DATレコーダーを使用しました。手のひらサイズながら、オープンリールに迫る音質を実現したこの機器で録音した音源は、現在でも私の作品素材や大学の音教材として活用し続けています。デジタル録音ならではの劣化のない音質は、時を超えて音の記憶を伝える可能性を広げてくれました

PCMレコーダーの時代へ

2007年頃、録音技術は更なる革新を迎えます。テープという物理メディアから完全に解放され、デジタルデータとして直接録音できるPCMレコーダーの登場です。当時20万円を超える高価な機器でしたが、その革新性は、写真の世界におけるフィルムカメラからデジタルカメラへの移行に匹敵するものでした。

現代の録音技術との対話

現在使用しているPCMレコーダーは、驚くほどの進化を遂げています。重さわずか200g程度、手のひらに収まるサイズでありながら、かつての高価な機器に匹敵する、あるいはそれを超える音質を実現しています。特に最近購入したSony PCM-A10は、使いやすさと音質のバランスが絶妙です。起動時間はわずか3秒程度で、録音開始までの操作も極めてシンプル。さらに、USBポートを介したデータ転送や充電が可能で、専用ケーブルや外付けバッテリーが不要という利便性も備えています。

道具との対話から見えてきたもの

 50年に及ぶ録音機器との付き合いを通じて、私は道具選びにおける重要な真理に気づきました。それは、スペックや価格だけでなく、使い手との相性が最も重要だということです。機動力、操作性、音質、そして何より自分の感性との調和。これらのバランスが取れた道具こそが、最高のパートナーとなるのです。

未来への継承

フィールドレコーディングを始めようと考えている方々へ。現代の技術は、比較的手頃な価格で高品質な録音を可能にしています。しかし、最も大切なのは、その道具があなたの創造性を引き出し、音との対話を楽しむことができるかどうかです。私の経験から言えることは、道具との出会いは時として運命的だということ。それは単なる機能や性能の問題ではなく、その道具を通じて見える世界の広がりや、表現の可能性との出会いなのです。今この瞬間も、世界中で無数の音が生まれ、消えていきます。その中から、あなたが記録したいと思う音に出会ったとき、それを確実に捉えることができる道具を持っているということは、創造的な人生を送る上で大きな財産となるはずです。音を記録するという行為は、単なる記録以上の意味を持ちます。それは、私たちの周りに存在する音の風景への意識を高め、日常の中に隠れた豊かさを発見する手がかりとなるのです。

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小松正史
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