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屋外ピアノ演奏の魔法:大学ゼミの冒険

音楽は、時に予想外の場所で、私たちの心を揺さぶります。大学のグラウンドに電子ピアノを持ち込み、桜舞う春の空気の中で即興演奏を行う——。そんな一風変わったゼミの実践から、音楽の持つ力、人々を結びつける不思議な魔法、そして日常の中に潜む小さな冒険の大切さを感じた経験をお話しします。この物語は、私たち一人一人の中にある、創造性と冒険心を呼び覚ますきっかけになるかもしれません。

春の柔らかな日差しが降り注ぐある日、私は3年生のゼミ生10人を引き連れて、いつもとは少し違う「授業」を行うことにしました。場所は京都精華大学のグラウンド。そう、普段なら体育の授業や部活動で賑わう、あの広々とした空間です。なぜグラウンドなのか?それは、ある学生の「グラウンドに行きたい」という一言がきっかけでした。

「え、グラウンド?そこって何もないよ」と最初は少し戸惑いましたが、その提案に乗ることにしました。時に、何もない場所こそが、新しい何かを生み出す舞台になるものです。そう、この日の主役は、私たちが担いでグラウンドまで運んだ電子ピアノでした。

自然の中のピアノ:予想外の調和

京都精華大学は、岩倉山のふもとに位置する自然豊かな場所です。グラウンドに到着すると、周りには桜が咲き誇り、その花びらが風に乗って舞い散る光景が広がっていました。空は少し曇っていましたが、それがかえって春の情緒を深めているようでした。

グラウンドの特徴は、その開放感です。周りに遮るものがないため、遠くからの音が不思議と集まってくるのです。小鳥のさえずり、遠くの町の音、そして時折聞こえる風の音。これらの自然の音楽が、私たちの即興演奏の伴奏となりました。

電子ピアノを置く場所を探していると、幅70cm、奥行き30cmほどの背もたれのないベンチを見つけました。普段なら座るためのこのベンチが、この日はピアノの台として新しい役割を果たすことになります。ここで気づいたのは、日常の中にある物の多様な可能性です。私たちの固定観念を少し外すだけで、身の回りのものが思いがけない形で役立つことがあるのです。

即興演奏:自然との対話

ピアノをベンチの上に置き、演奏を始めました。ところが、ここで小さな問題が。ダンパーペダルを使用できないのです。通常、ピアノ演奏ではダンパーペダルを使って音の余韻を調整しますが、この状況では難しい。しかし、これが意外な発見につながりました。

ペダルなしで弾くことで、音の一つ一つがクリアに聞こえ、そして素早く消えていきます。これは室内での演奏とは全く異なる体験でした。音が残響なしですっと消えていく感覚は、最初は物足りなく感じたものの、次第にその中に新しい美しさを見出していきました。

それは、音楽と呼吸が一体となるような感覚でした。鍵盤を押す瞬間、音が鳴り響く瞬間、そして音が消える瞬間。これらすべてが、私の指の動きと呼吸のリズムと完全に同期しているかのようでした。この経験から、時に制約や限界が、新しい表現方法や感性を引き出すきっかけになることを学びました。

周りを囲む10人の学生たちの姿も、この瞬間の魔法を作り出す大切な要素でした。新しいゼミが始まったばかりで、お互いのことをまだよく知らない。そんな微妙な距離感と期待が入り混じった空気が、音楽とともに静かに流れていました。

音楽がつなぐ人々:予想外の展開

20分ほど演奏を続けていると、学生たちの中からも「私も弾いてみたい」「昔習っていた曲を思い出した」という声が上がり始めました。音楽には人々を引き寄せ、つなぐ力があります。それぞれが順番に演奏を試み、時には懐かしいメヌエットの旋律が春の空気に溶け込んでいきました。

この自然発生的な音楽の輪は、徐々に学生たちの緊張をほぐしていきました。隣同士で話し始める学生、演奏に聴き入る学生、それぞれの形で音楽との対話を楽しんでいる様子が見られました。

しかし、この穏やかな時間に、思わぬ訪問者がありました。60歳くらいの見知らぬ方が近づいてきて、「ここを使用する許可は取りましたかね?」と尋ねてきたのです。正直なところ、グラウンドでピアノを弾くことに許可が必要だとは思っていませんでした。

この出来事は、意外な気づきをもたらしました。音楽は確かに人々を引き寄せる力を持っています。しかし同時に、それは予期せぬ反応を引き起こす可能性もあるのです。公共の場所で音楽を奏でること、それは周囲の人々に何らかの影響を与えることを意味します。

この経験から学んだのは、創造的な活動を行う際には、周囲への配慮と、予想外の事態に柔軟に対応する姿勢が重要だということです。 これは音楽に限らず、あらゆる創造的な活動に通じる教訓かもしれません。

体験の力:教室を超えた学び

この予想外の展開に、学生たちは少し動揺した様子でした。「叱られるんじゃない?」という不安の声も聞こえてきました。しかし、この状況こそが貴重な学びの機会だと私は考えました。

「大学の実習の一環です」と説明し、状況を穏やかに収めることができましたが、この経験は単なるハプニングではありません。それは、教室では得られない、リアルな社会との接点を学生たちに提供したのです。

遠くに見える桜、耳に届く鳥のさえずり、そして予想外の訪問者。これらすべてが、この日の体験を豊かなものにしました。文献や教科書から学ぶことも大切ですが、実際に体験することで得られる学びには特別な価値があります。

この日の出来事を通じて、学生たちは音楽の力、公共の場所での活動の責任、そして予想外の状況への対応など、多くのことを学んだのではないでしょうか。そして何より、彼らの心に、この特別な春の日の思い出が刻まれたことでしょう。

日常に潜む冒険:創造性を育む土壌

この経験を通じて、私は改めて「日常の中の小さな冒険」の大切さを実感しました。普段何気なく過ごしている場所や、当たり前に使っているものの中に、新しい可能性が眠っているのです。

グラウンドという何もない場所が、一つの電子ピアノによって素晴らしい音楽ホールに変わりました。ベンチは椅子ではなく、ピアノの台として新しい役割を果たしました。ダンパーペダルが使えないという制約は、新しい演奏スタイルを生み出すきっかけとなりました。

これらの「小さな音の冒険」は、私たちの創造性を刺激し、新しい視点を与えてくれます。日常の中に、こうした冒険の種は無数に存在しています。それを見つけ出し、実行に移す勇気を持つこと。それが、私たちの人生をより豊かで興味深いものにしてくれるのです。

皆さんの日常にも、きっと「小さな冒険」のチャンスが潜んでいるはずです。それは、いつもと違う道を通って帰ること、新しい料理を試してみること、あるいは長年使っているものを違う用途で使ってみることかもしれません。 こうした小さな変化が、思いがけない発見や学びをもたらすかもしれません。

結びに:音楽と人生の調和

この日の経験は、音楽の持つ力と、人生における冒険の大切さを改めて教えてくれました。音楽は人々を引き寄せ、心を開かせ、そして新しいつながりを生み出す力を持っています。同時に、それは予期せぬ反応を引き起こし、私たちに柔軟な対応を求めることもあります。

これは、まさに人生そのものを映し出しているようです。私たちの人生も、美しいメロディーと予想外の展開、そして時には不協和音さえも含んだ、壮大な交響曲のようなものかもしれません。

この日のゼミ活動は、形式的には「いたずら」と呼べるかもしれません。しかし、そこには深い学びと、忘れがたい経験が詰まっていました。時に、こうした枠にとらわれない活動こそが、最も価値ある教育となることがあるのです。

皆さんも、日常の中に潜む「小さな冒険」のチャンスを見逃さないでください。それは、新しい音楽のように、あなたの人生に思いがけない彩りを添えてくれるかもしれません。そして、その体験が、あなたの創造性を育み、人生をより豊かなものにしていくはずです。

音楽であれ、仕事であれ、日常生活であれ、時には「いたずら心」を持って新しいことに挑戦してみてください。そこには、きっと素晴らしい発見と学びが待っているはずです。

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小松正史
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