クリームパン
私は福井県で生まれ育った。
私の生まれた町は海沿いの有名な観光地がある田舎町だった。
わたしの幼少期は、常に母親にべったりでいつも駅前のスーパーについて行っては欲しいお菓子を買ってもらえず床の上でゴロゴロするような、常に飢えた野良犬のような子供だった。
小遣いをもらっていた記憶もなく、実際は貰っていたかもしれないが、いつも甘いものをあたまの中で妄想しながら日々過ごしていた。
そんなある日、多分小学校2年か3年くらいだったと思うが、駅前のスーパーに一人で行った私は、スーパーのパン屋で売っていたクリームパンに目を止めた。
コッペパンみたいなのに真ん中に割れ目があり、そこに生クリームのようなクリームが入っていて、中央にサクランボに見立てたような赤くて甘いゼリー?のようなものが配置してあるパンだった。
私はそのパンを見て釘付けになり、ほしくてほしくてたまらなくなってしまった。
でもポケットには一銭も入って無くて、購入するのは不可能だった。
私は、生まれて初めて、パンを何とかしてお金を払わずに手に入れたいと考え、頭の中でその悪い考えがぐるぐる回った。
そして、何度か店に入ったり出たりを繰り返し、おそらく10分以上悩んだ。
「どうしよう。盗みは悪い事だ。捕まったら警察だ」
「見つからなければ大丈夫」
「こんな事すべきじゃない」
「でもお腹空いてるし…」
頭の中をぐるぐる考えが回っていたが、とうとう空腹に負けて私はパンをそっと背中側に持ち、店員さんに見えないように隠しながら店を出た。
「見つかる?」
「追いかけてくる?」
「大丈夫かな?」
心臓は爆発しそうにドキドキしており、私は全速力で走った。
店から1キロもないくらいの所に寺があり、私は寺の敷地に走り込み、大きな灯籠?だったかと思うが石でできたものの下で座り込んだ。
ハアハアいいながら、しばらく汗が引かなかった。
やっと落ち着いてから、私は今盗んだパンを眺め、食べた。
パンはとても甘かったと記憶している。
しかし、私は大変な事をしてしまったという罪悪感から、涙がぽろぽろと流れてくるのを止められなかった。
私は泣きながらパンを食べた。お寺の境内で一人座り込んでいた。
その時に、私はもう2度とこんな事はしないでおこうと誓った。
情けない話だが、50歳になる今でもその事をずっと覚えていて、思い出すと胸が締め付けられるような気がする。
あの時に、どんなに美味しいパンでも、自分でお金を払って買ったパンより美味しく食べることは出来ないのだと悟った。
今でも、クリームパンは大好きだ。