【産地探訪 VOL.1】とろりと甘い深谷ねぎ
シリーズ、「産地探訪」
”衣食住”という通り、生きていく上で必要不可欠な ”食”。
普段の日常生活の中でとくに疑問に思わず、食材を買って、調理して、食べて、、、と繰り返しますが、
仕事や旅行で日本各地を旅し、生産者やJA職員の方々に教えていただく中で、
もとから美味しい食材が、一味も二味も違ってくるような、深みのある”食”を体験してきました。
そこで、日本全国の産地ブランドのバックグラウンドを探りながら、
多義的な ”おいしさ” を、もっともっと追求していこうということで、note記事を書いていければと思います。
その名も、「産地探訪」。よろしくお願いします!(続けます…!)
VOL.1: 「深谷ねぎ」
第一回は、「深谷ねぎ」を取り上げます。
深谷ねぎは、埼玉県北部に位置し、渋沢栄一の故郷としても話題になった深谷市で収穫されるネギの総称。
筆者は関西出身なので、ネギといったら「九条ねぎ」なのですが、下記に示す通り、「深谷ねぎ」は「下仁田ねぎ」「九条ねぎ」に次いで、Google内で3番目に多く検索されている、知名度の高いブランドです。
秋冬頃の深谷ねぎは特に糖度が高く、とろけるような食感と甘さが特徴とのこと。
2023年1月29日に、”深谷ねぎまつり” が開催されるということで、調べてみようと思い立ちました!
2013年から始まった深谷ねぎまつりも、2021年・2022年は神事のみの開催。今年は、久しぶりに一般のお客さんも参加できるとのこと!
まずは、ネギについて概観した上で、深谷ねぎについてご紹介しようと思います!
ねぎのアレコレ
ねぎは大きく3分類。関西と関東で違う、ねぎの ”可食部”
これまで特段、気にしたことはなかったのですが、関西と関東で同じ ”ねぎ” でもその意味するところは違うよう。
関西では青ネギをイメージし、関東では白ネギをイメージするのが一般的です。
(ちなみに、そばの薬味のねぎは、熱海駅以東だと白ネギ、三島駅以西だと青ネギとのこと)
農林水産省のホームページによると、正確には3つに分類できるようで、
青ネギ、白ネギ(加賀群)、白ネギ(千住群)がそれ。
九条ねぎが代表ブランドの、青ネギ。白色の「葉鞘」部分は短く、緑色の「葉身」部分を食べます。
白ネギは、いずれも「葉鞘」部分を食べますが、下仁田ねぎに代表される加賀群と、深谷ねぎに代表される千住群(こちらの方が一般的)はその太さが目に見える違いです。
加賀群は低温に強く、冬は葉の部分が枯れ、土の中で雪を越す過程をへて、白い部分が太く、甘くなるそうです。
ねぎの白い部分を太く、長くする「土寄せ」
また、青ネギと比較して、白ネギ栽培の特徴として、「土寄せ」という工程を挟むことが挙げられます。
「土寄せ」とは、成長したネギの葉の部分を残して土を被せていく作業のことで、白い部分が長くするうえで欠かせないもの。
緑と白の、綺麗なコントラストとなっているネギが高値で取引されるので、農家さんの腕の見せ所ですね!
ねぎの栄養素
古くからの伝承として“風邪のときはネギを首に巻くといい” と言われます。
本当に首に巻くだけで治りがよくなるかはさておき、ネギを食べることで風邪の諸症状を和らげたり風邪予防の効果を得ることは期待できるようです。
ネギの青い部分にはBカロテンやビタミンB2、ビタミンC、ナイアシン、カルシウムなどの多彩なビタミン・ミネラルが含まれており、体の調子を整えるのに役立つことに加え、
ねぎの辛味成分であるアリシン(硝化アリルが変容した栄養素)は血液の凝固を防ぎ、血液をサラサラにしてくれる効果や優れた殺菌作用、抗酸化作用があるそうです。
加熱すると甘くなるのは、なぜ?
ちなみに、辛味成分たるアリシン(硝化アリル)は熱に弱く、その結果、煮たり焼いたりすると、ねぎが本来持つ甘味成分が際立つことになります。
その結果、「加熱すると甘く」感じることになるのですね!
”深谷ねぎ” のあれこれ
ここからは、千住群の代表ブランド、深谷ねぎについてご紹介します。
深谷市でネギが育てられるようになった経緯
深谷周辺でネギが育てられるようになったのは明治時代になってから。
蚕の餌となった桑の間で育てていたネギに防虫効果と保湿効果が認められたことで注目が集まります。
1890 年代後半になると,養蚕が一層盛んになる傍ら、ネギや大和芋。ゴボウなどの野菜類も栽培されるようになりました。
もともと換金作物として、「藍」(染料の原料)がよく栽培されていた地域でしたが、化学染料の登場で藍価格が暴落し、代替作物として白羽の矢が立ったのです。
遠距離輸送が難しかった大正時代、食味の優れた ねぎを、深谷駅から貨車を仕立てて東京市場に送り込めたことで高く評価されていました。
1970 年代には中国からの安価 な生糸輸入により深谷の養蚕業が衰退し,桑園の栽培面積が大幅に減少する一方で,1970~1980 年代 にねぎの作付面積は徐々に増えていき、現在に至るという経緯を辿ります。
ご当地キャラ、ふっかちゃんの人気は健在!
深谷ねぎといえば、深谷市のゆるキャラ(もはや死語?)、ふっかちゃんを思い出します。
2本の角が、ちゃんとネギになってる・・・!
公募で決まったとのことですが、地元の方に深谷ねぎが愛されている証の一つだなと思います!
いまだ絶大な影響力があるとのことで、道の駅おかべには、ふっかちゃんミュージアム があり、ちびっ子に人気なんだとか。
地域通貨、ネギー、爆誕
また、深谷市は地域通貨に取り組んでいるのですが、その名前も「negi(ネギー)」とのことで、ネギへの愛の深さに思わず突っ込んでしまいました。
すき焼きに砂糖入らず⁈ 深谷ねぎの甘さの秘訣は、”土”
そんな過去と現在がある、深谷ねぎですが、糖度は10度~15度と、果物に匹敵する甘さを誇ります。
深谷ねぎのなかでも新戒地区で12月中旬~3月上旬に収穫される「深谷新戒ねぎ」は、糖度は13度以上になり、温州みかんや桃の甘さ。
すき焼きをつくる際に砂糖を入れない地元民もいるのだそうです。
(深谷ねぎカルソッツも、泥がついたまま直火で熱することで辛味成分を飛ばすので、めちゃくちゃ甘そう!)
なぜ、深谷で生産されるねぎは、甘く育つのでしょうか?
その秘訣は、「土」にありました。
関東平野は関東ローム層と呼ばれる、黒っぽい腐植土の土壌が広がります。
この土壌は植物の成長に必要なリン(P) を鉱物として固定してしまうので、耕作に不向きな土地なのですが、川の氾濫の結果、栄養素の多い土が堆積していたこと、
さらには、適度な硬度をもった土がポイントだったのです。
まとめ
ブランドねぎの1つ、深谷ねぎについてつらつらとまとめてみました。
適度なストレスが作物を甘くする事例としては、ミカンや桃など、他の品目にも当てはまるので、なるほどなと思う一方で、
人の成長にも一定当てはまる考え方だなと思い、改めて面白いなと思いました。
また、地学的な素質に加え、社会学的な要素も織りなすことで、現在にいたるのだと実感でき、他のブランドについてもどしどし調べていければと思います!