オール5をとる少年の実態
本記事の舞台は、公立中学校である点にご留意ください。
中学校の教科は、主要5教科である国語、数学、理科、社会、英語に加え、音楽、美術、保健体育、技術・家庭の実技4教科から構成されている。これら全ての教科で最高評価の「5」を取得すると「オール5」となる。
そう、ひとつでも欠けたら「オール5」とは呼べない。
すべて「5」で埋め尽くされた通知表は、得意科目や苦手科目の特徴が見えにくく、少々味気ない。しかし、反面、「5」以外の数字が一切ないため、非常にスッキリとした印象を与える(わけわからん感想)
そんな「オール5」を、中学校3年間にわたり取り続けた少年がいた。今回は、彼の実態に迫っていこう。
心配性で未熟な少年
中学に入学した少年は、様々な不安を抱えていた。
先輩後輩の上下関係や難しくなる勉強など、小学校時代ののんびりとした環境とは明らかに異なる。部活動の試合や定期テストでは結果が突きつけられ、人から評価される機会が増える日々。
教師や顧問の指導は、中学生の彼から見ると圧倒的に知識と経験が豊富な「絶対的な言葉」に思えた。
彼らの言葉に逆らうことは叱責につながり、一方で努力や直向きさを示すことが褒誉につながると信じていた。
少年はこの考えに則り、日々研鑽を重ねた。
最初から「オール5」を目指していたわけでは決してなかった。
当時の彼にとって、勉強よりも部活動の方が大変だったという。勉強は努力すれば結果が点数として明確に現れる。
しかし、部活動は体格、経験、身体能力および、センスなどの要素にくわえ、対戦相手の存在が勝敗を左右する。特にチームスポーツでは、自分のミスがチーム全体に迷惑をかける可能性がある。
そんな少年にとって、部活動が休みになるテスト前の一週間は、まさに「至福の時間」だった。中学1年生の定期テストはどの教科も比較的易しく、真面目な彼はこの期間を利用して集中して勉強に取り組んだ。
1年が終わり、渡された通知表を見て彼は驚いた。そこには、5の評価しか並んでいなかった。「え、自分って案外優秀なのか…」と思わずつぶやいた少年。
これまでの13年間、特に目立つ成果を上げたことがはなく、この結果にどう反応すべきかもわからなかったと言う。
ただ一つ、彼は確信した。「努力をすれば、その分だけ評価を得られるのだ」ということを。
成長の兆し
2年生は学校生活には様々な行事がある。
職業体験や部活動の代替わり、生徒会選挙など、皆さんも中学2年生の思い出が多いのではなかろうか。
少年にとっても、2年目の中学校生活は波乱に満ちていた。当時を振り返ると、騒動や色恋沙汰、いやがらせなど、問題が絶えないクラスだったようだ。
まだ未熟だった彼には、これらの問題に対処するための適切な方法を考える余裕も知恵もなく、巻き込まてばかりだった。
しかし、2年生になった彼には、入学時にはなかった「ある強み」が備わっていた。
それは、周囲からの高い評価だ。
授業や部活動、その他の活動の中で、友人、教師陣からの信頼を得ていた彼。この評価は、1年間の努力の賜物だった。
入学当初に抱いていた不安を糧に変え、結果を出し続けたことが生んだ大きな成果だった。
少年は問題に巻き込まれ、失敗を繰り返したが、周囲の評価の高さがこれらの出来事から受けるダメージを和らげていたのかもしれない。
勉強面では、これまでに培ったノウハウを活かし、難なく「オール5」を取得したらしい。例えば、1年時と同じ先生が担当する科目では、テストの傾向が読め、効率の良い勉強ができたことなどが挙げられる。
また部活動では、肉体的・精神的成長や経験、地道な努力が実を結び、大きな大会への出場を果たした。部活動では自身の弱さを痛感し、肩身の狭い思いをしていた彼だが、この成果によってようやく自分の頑張りを認められるようになったと振り返る。
中学2年生を終えた少年は、自分の強みと弱みを少しずつ理解できるようになった。彼の強みは、直向きに努力し、それを結果につなげるために手段を模索できる力。一方で、自分の意見を主張することが苦手で、周囲に流されやすいという弱みも抱えていた。
「努力を続けて結果を出しながら、弱点を改善することこそが、中学生活を乗り越える秘策だ」と、少年は気付いた。
問題のない環境ではストレスが少ないかもしれないが、失敗を通じて自分を省みる機会も少なくなる。もし中学2年生での困難を経験していなければ、彼の成長は乏しく、周囲に流される人生を送っていたかもしれない。
そして、少年は3年生を迎える。
初めてのリーダー
3年生になり、クラス替えが行われた。
新しい担任の先生は、少年の部活動の顧問であった。
この先生は教職経験こそ浅いものの、「努力する人が報われてほしい」という信念を持ち、間違ったことには毅然と「NO」を突きつけるかっこいい先生だった。
新学期の恒例行事として、委員会や学級委員を決めがあった。
少年は、面倒事からは距離を置きたく、クラスメートから学級委員に推薦されてもこれまで辞退してきた。
今回も最初は興味を示さなかった。
しかし、担任の先生から学級委員にならないか?と強い交渉があった。
君と一緒に生徒たちの中学最後のクラスをより良いものにしたいと…
これまで少年は、苦手な生徒や問題を避け、安定した環境を求めて行動してきた。しかし、問題を未然に防いだり、解決したりするのは理想論であることを薄々感じていた。
ならば、自分がクラスの上に立ち、問題の芽を摘むしかない!
とまでは考えていなかったそうだが、この担任の先生となら上手くやっていけるかもしれないし、やってみたいと考えて学級委員を引き受けた。
学級委員としての1年間は、予想以上に充実していたという。
クラスの方針決め、席替え、修学旅行の準備、体育祭、学級委員会議など、様々な仕事があったが、担任の先生からの手厚いサポートもあり、乗り越えることができた。
部活動も最後の大会を終え、クラスは受験ムードが高まってきた。そんな時期、またもや問題は発生したが、多くのクラスメートが勉強に集中していたため、大事には至らなかった。
学級委員としての責任を全うしつつ、友人たちと良好な環境で勉強に励む日々。少年はこの心地よい日々を振り返り、「担任の先生の推薦がなければ、この経験は得られなかった」と感じた。
受験も順調に進み、積み上げてきた努力と評定MAXを武器に、他の生徒よりも早めに終えた。
しかし、彼の戦いはまだ終わっていない。
そう、3年間「オール5」を目指す戦いは最後の定期テストが終わるまで確定しない。
担任の先生からは、「受験が終わったからといって、手を抜く生徒ではないと信じている。」という謎のプレッシャーをかけられたが、少年自身も「オール5」をとらないとスッキリできない感情になっていた。
その結果…
無事3年間「オール5」を獲得。
こうして少年の「オール5」をかけた戦いは幕を閉じた…
自分らしくあるために
少年の3年間を見届けた私には、発見したことがある。
それは、彼が最初から自信家で、器用で、問題解決能力に優れた存在だったわけではないということだ。
むしろ彼は、不安に苛まれ、問題に巻き込まれ、多くの失敗を重ねてきた。
学校生活で経験した失敗と努力の積み重ねが、自分の強みと弱みを少しずつ理解させていったのだ
また入学当初、彼は教師の言動がすべて正しいと信じ疑わなかった。しかし、15歳を迎える頃にはその考えが覆っていた。
その理由は、彼が経験した数々の問題が必ずしも生徒だけの責任ではないと気づいたのだ。
振り返れば、問題のいくつかは、生徒と教師、さらには教師同士の間でのコミュニケーション不足や判断のミスから生じていた。もし、当事者の誰かがもう少し冷静に考え、広い視野で行動できていれば、避けられた問題もあったのではないかと少年は感じている。
教師の背中から学べることは多い。しかし教師もまた一個人であり、そのすべてを模倣することは適切ではない。
この重要な気付きが、中学時代の大きな学びとなったと彼は語る。
彼は中学校生活で本当に様々なことを学んだ。
彼が得た「オール5」は、学びの過程で偶然手にした副産物に過ぎない。
むしろ、それ以上に価値があったのは、彼が多くの人からの評価を通じて自分を客観視できるようになったことだ。その結果、彼はさらに成長できる環境に自ら身を置き、挑戦を続けることができるようになった。
こうして、彼は新たな目標や夢を見つけ、自らの意志で行動していく。周囲に流されるのではなく、自分で考え、判断し、大人たちや先輩たちの良いところを取り入れていく。その姿勢が、個性をさらに輝かせるのだ。
少年はこれからも、自分らしい生き方を見つけていくのだろう…
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
具体的な「オール5」の取り方については、調べればすぐに見つかると思うので、この記事では詳しく触れませんでした。私も、当時の少年に負けないよう、充実した大学生活を送っていきたいと思います。