波が寄せては返す様子をみて、自分の中でぼやっとしていたものが急に形になることがある。
柔らかく寄せる波に身体を預けながら、無意識に心の内側を撫でていたことに気がついたのだ。
その閃きは朝陽のようで、ほのかに冬の匂いがした。
そうか、もう冬なのか、と思った。
冬は寂しさを突きつけるから嫌いだ。
見ないように、バレないように。
夏は良い、世界が前向きで、僕の弱さや後ろ暗さを誤魔化してくれる。
冬はありのままの自分を鏡に映すかのように世界を通して見せつけてくる。
それがたまらなく嫌だった。
なのにその冷たさが、波の音が、僕の中にあるモヤモヤを全て持っていってしまった。
怖さや弱さは消えない。
これは「僕」という存在を形作る上での材料だから。
行くたびに波や、水平線の表情が変わって面白いと思った。
でも変わっていたのは僕自身も同じだったみたいだ。
胸をすくような、透き通った空気が、冷たさとして全身を通過する。
目一杯呼吸をする。全身に酸素が巡る。目を開く。世界が広がる。
ようやく少しは受け取れるようになったよ。