越前ガニを繋ぐ鉄工所
20年前。
鉄工所も、ものづくりも、越前ガニも興味がなかった。
20年後、鉄工所、ものづくり、越前ガニをどう繋いでいくか、
日々考える毎日だ。
福井県越前町、越前海岸沿いに推したい会社がある。
有限会社新井鉄工所、私が結婚を機に就職した会社である。鉄工所と聞くと、大阪出身の私はネジや小さな部品、なんとなくそんな感じのものを想像していた。
全く違った。
海沿いにあるのは、漁船専門の鉄工所だ。
メインの仕事は漁船のエンジン整備、故障修理。車の整備会社の漁船バージョンといったところだ。
それに加えて漁撈機械《ぎょろうきかい》の製造、整備、修理がある。
漁撈機械という言葉を聞いたことがある人は少ないのではないだろうか。簡単にいうと、漁に使用する機械である。ロープリール、網取機などが主な機械だ。
海沿いには、いくつか同じような鉄工所がある。どこも越前町にとって、なくてはならない会社だ。なぜなら越前町、福井県を代表する越前ガニ漁を支えているからである。
新井鉄工所を知らなくても、越前ガニを知っている人は多いはずだ。しかし、海沿いの鉄工所がなくなれば、漁に出ることができなくなる。このことを多くの人は知らないのだ。
もちろん、越前ガニだけではない。
ふくい甘エビ、越前ガレイ、バイ貝、ノドグロ、ハタハタ、アンコウ…多くの海の幸が越前海岸にある鉄工所に支えられている。
海の幸だけではない、魚に関わる業者、料理屋、旅館、もちろん、消費者に繋がっていく。
消費者の1人として、越前の海の幸が食べられなくなると困る。
新井鉄工所を推したい理由である。
ただ、新井鉄工所も働き手不足に直面している。そもそも認知度が低いこの業界、鉄工所と名乗ってはいるけれど、仕事内容はエンジン整備、溶接、旋盤作業、配管作業と多種にわたる仕事である。それぞれの専門がいるほどの規模ではないため、全部しなければならないのだ。
船に興味があれば漁師や船乗り、エンジンに興味があれば車やバイクの整備士、ものづくりに興味があれば専門的な製造業。はっきりとした仕事がある中で、新井鉄工所は全てに対応しなければならない。
なんて会社だ・・・
それでも誰かに魅力を感じてもらえればと思い、2017年からInstagramに
#鉄工所をデザインする 、をコンセプトに投稿を続けている。
投稿すればするほど仕事の魅力も感じると同時に、複雑さも表面化してくる。
価値観の変化やSNSの広がりから、ものづくり業界も新しい視点、新しい価値の創造などが注目されている。しかし、新井鉄工所は在り続けることが何より大切なのだと思っている。
在り続けること、そこに価値がある会社や職種もたくさんあるはずだ。ただ、人と違うこと、個性、自分のやりがいなど、働く上でも個人の価値を高め続けた現代社会において、持続させること、変わらないことは魅力的ではないのであろうか。
などと考えながら求人活動を地道に続けているのだが、現場の仕事は待ってはくれない。ここ数年は新造船事業もあるため、整備や故障対応だけでなく、ものづくり、造船場での作業などコロナ下でも休む暇もない状況であった。
そのような中、2024年1月1日、能登半島地震が起きた。新造船は石川県七尾市にある造船場で行われていたため、造船中であった船も被災した。大きな損傷がなかったことが不幸中の幸いであったが、初めてのことに、大きな不安に包まれた。ボランティアや、被災地支援、色々と社会の動きがある中で、新井鉄工所は、目の前の自分たちの仕事をやり続けた。それこそが自分たちの役割であるからだ。
snsの交流の中で、東日本大震災を経験した漁師の方からメッセージをいただいた。
命の次は仕事の復帰が生活の復帰につながること。全ての仕事が他の仕事に繋がっていくこと。
目の前の仕事に向き合うこと、それが日常をつくっていく。
海沿いの暮らしにとって、船に関わる仕事はなくてはならないものだと励まされた。
新しいことを始める会社ではない。しかし、越前町が越前町であり続けるために大切な会社なのである、在り続けることに意味がある。そんな会社を私は推して、未来に繋いでいきたい。
余談ですが、私は職人とは違い、鉄に向かう時間より魚と向き合う時間が多い。まだまだ知られていない越前の海の幸も、未来に繋いでいきたい。
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