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読書メモ【A.T.カーニー 業界別経営アジェンダ2024】から、日本の観光産業の課題をまとめてみました。
はじめに
筆者は現在トラベルテックのスタートアップ「Kabuk Style Inc.」にて、コミュニケーションデザイン周辺に携わっております。
弊社のサービス「HafH」は旅のサブスクという素敵なB to Cビジネスモデルです。そのブランドおよびユーザーとのコミュニケーションに携わる者として、そして旅行業界に身を置く者として、常に業界の動向にキャッチアップはしておきたいと考えています。
ということで、戦略コンサルティングの視点で様々なセクター(業界)のトレンドをまとめてくれているA.T.カーニーさんの【A.T.カーニー 業界別経営アジェンダ2024】から、弊社プロダクトHafHに関係のある日本の「観光」セクターをサマっておきます。
※ちなみにA.T.カーニーの日本代表 関灘さんは、筆者が学んだグロービス経営大学院の専任教授です。
※旅のサブスク「Hafh」では2024年4月30日まで登録キャンペーンを開催しております。ご検討いただけると幸いです。
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日本の観光立国政策:目指せ、2030年に国内最大の外貨獲得産業へ
日本国の主な取り組み
実は「観光」を国家的な課題とする観光立国宣言はそもそも2003年に発信されてます(ほぼ知られてない?)。。。その後2007年に観光立国推進基本法の制定、2008年には「観光庁を」国土交通省の中に設置。そして2016年には「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定してました。
一応、国としては着々と観光立国への布石を打っている体裁です。
日本国の主な取り組み
2003年:観光立国宣言
2007年:観光立国推進基本法の策定
2008年:観光庁設置
2016年:明日の日本を支える「観光ビジョン」策定
観光庁設置以外、あまり知られていない気がしますが気のせい?もう20年以上日本は観光立国になるべく取り組んでいたわけです。
日本の観光業の動き
上記取り組みに加えて東京オリンピックの開催PRも後押しし、2019年には訪日外国人旅行者は3,200万人を達成したものの、ご存じのように2020年からのCOVID-19の影響で観光業は全業種の中でも最大級のダメージを受けることに。観光に従事する人の多くが、他の産業へ転職せざるを得ないような状況が続きました。
ただ、2021年の世界経済フォーラムでは、「旅行・観光開発指数」で日本がランキング首位に。一応結果は出しています。
ただし、引き続きの課題として、
・元来日本は観光地としてのポテンシャルが高い国なのだが、高度経済成長期の「団体・格安・一泊二日」のパックツアー的ビジネスモデルから抜け出せない。
・DX化の遅れにみられるように、生産性が低いまま。
と言及されていました。なるほど、旅行=パックツアーという固定概念がまだ根強い模様です。
旅行・観光開発指数首位
世界の観光大国である米国やフランス・スペインをおさえて日本が首位なのは、主に交通インフラや安全面や衛生面、そして文化資源でのポイントが高いところにあります。既存の観光大国フランスなどはオーバーツーリズムの問題が深刻である模様。
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2030年に15兆円の巨大外貨獲得産業への成長を目指す政府
2019年時点での日本の観光業は4.8兆円です。自動車産業のボリュームが12兆円、化学製品の8.7兆円なので、これはかなり強気な目標かなと思います。
定量的には、
2030年時点で
訪日外国人旅行者数:6,000万人が15兆円を日本に落としてくれること。因数分解すると、外国人旅行者一人あたりが25万円を日本で使ってくれること。
と設定されてますが、円安も後押しそうですね。
ちなみに、2019年の外国人旅行者一人あたりの支出は「15.9万円」です。
つまり、いかに質の高い体験を提供し、高付加価値旅行者(100万円以上消費してくれる)に訪日してもらい、できれば長く滞在いただきたくさんのお金を落としていただけるか?が解決すべき課題になっています。
かつ、そのループが永続的に続くこと。つまり日本の地域が潤い、観光資源が人も含めて持続する仕組みを作ることが重要となっています。
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政府が掲げる3つの戦略テーマとは?
日本政府は直近2025年に開催される大阪・関西万博に向けて以下3つの戦略テーマを掲げています。
持続可能な観光地域づくり
観光産業の収益力を向上させ、高付加価値化をはかる戦略です。
・地域への経済効果の高い宿泊施設や観光施設の改修支援
・観光DXの強力な推進
上記を行うことで、稼げる地域・稼げる産業の実現を目指し、結果として従業員の待遇改善につなげる。待遇は重要ですね、ただでさえ人口減少で人材が不足している中、他業種よりも魅力を感じて頂かないと。
そして、補助金目当て・補助金頼りにならないことを期待します。
インバウンド回復
・ビザの戦略的緩和
・CIQ体制の整備 ※CIQとは、税関(Customs)、出入国管理(Immigration)、検疫所(Quarantine)の略で、貿易上必要な手続き・施設
・地方直行便の増便やクルーズの受け入れ
・キャッシュレス化
・多様な食習慣への対応(ハラルとか)
また、高付加価値旅行者の地方誘客など「知ってもらう・魅力的に感じてもらう」プロモーションの強化を目論んでいます。
国内交流拡大
コチラは日本人自身にもっと観光に目を向けてもらうという戦略です。
・休暇所得の促進や、時期の分散化
・ワーケーションや第2の故郷づくり施策
・高齢者をターゲットにしたユニバーサルツーリズムの促進
円安で海外旅行を控える状況が続くとすれば、日本人向けの国内観光促進は筋がいい気がします。
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最大の課題は生産性の低さ、、、
従業員の給料が低く抑えられているため、業界としての魅力に乏しく、人材が集まらないという悪循環を断つことが最大の課題と述べられています。
前述した生産性の低さゆえ、宿泊業の生み出す付加価値は全産業平均の6割の水準となっています。
課題:効率性の向上
観光業界のDX化は他業界と比較して大幅に遅れており、まずは初歩的なところから
・ホームページの整備や更新がされていない
・SNS等の継続的運用を怠っている
・美術館などの入場チケットの未電子化
特に未電子化は早急に取り組むべき課題とのことです。電子化することで観光客の属性や購買データを分析でき、適切なリピート施策などのマーケティング活動が可能になります。
また、アソビュー社によると、美術館等でのチケット購入窓口を一つ削減することで年間500万〜2,000万円のコスト削減につながるとのこと。その分、人材リソースを他に回すことも可能になると思います。
課題:顧客単価の向上
ザ・昭和の定番として、旅行会社さん任せのパッケージ慰安旅行がありました。これらの同じような商品の低価格大量生産ビジネスモデルを変える必要が課題として挙げられています。
今後は多様化する旅行者のニーズや関心にに対応する商品の質や独自性が問われます。薄利多売ではなく、適正利潤を確保できるビジネスモデルに変革することが重要となっています。
狙うべきターゲットとして述べられているのは2つ
①中国・アジアの新富裕層:
都心部でのショッピングやグルメでの消費意欲が旺盛。リピーターは地方エリアに行く傾向。
②欧米旅行者:
長期滞在の傾向があり、地方の自然体験やユニークな文化体験を求める。
ただし、まだまだ上記の高付加価値旅行者を満足させる宿泊施設は特に地方に少なく、消費も頭打ちになっている=機会損失の状況が続いているのが現状。
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観光事業者に求められる3つのスキル
ここまで述べさせていただいた「効率性の向上」と「顧客単価の大幅な向上」。これらを推進するために観光に関わる人材として必要なスキルとは、、
・経営力:既存の労働集約型ビジネスモデルから脱却できるビジネススキル
・デジタルスキル:かなりDXが進んでいない観光業界では圧倒的にデジタルの知見を持った人材が不足している
・デザインスキル:旅慣れた旅行者を惹きつけるセンスの良い施設やユニークな観光コンテンツの発掘と体験価値の向上をリードする
上記はどの業界でも求められているとは思いますが、特に体験価値をどう作り伝えるか?どう見せるか?というデザインスキルのニーズは観光産業において強く求められていると思います。
なぜなら、旅って数字では測れない感情の要素が大きいと思うので、、
おわりに
以上書籍「A.T. カーニー 業界別 経営アジェンダ 2024」から、観光産業部分の現状やトレンド、課題を抽出させていただきました。
歴史・文化・利便性・安全性などの視点で、観光立国としての高いポテンシャルを持つ日本。観光産業は裾野が広く、さまざまな雇用を生み出し、地域への経済効果も大です。
携わるHafHという旅行×テクノロジーのサービスを通して私自身も、この観光立国戦略を実現する一助となるよう精進しようと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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