第6回テーマ「旧人類とZ世代の攻防」
前回も取り上げたが、「上司は部下より偉く、上司の意見は常に正しく、部下は上司の指示に従え」という組織力学の功罪について今回はさらなる深堀りを試みたい。昨年2020年6月より新たにパワハラ防止法が施行された。パワハラとは職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより③労働者の就業環境が害されるものと定義される。もし違反した場合は行政勧告が入り、勧告に従わない場合は社名が公表されることもある。
改めて述べるが、もはやパワハラは当人の問題ではなく社会的な問題に発展しているということだ。上述した暗黙の力学は正にこの社会的問題の原因を量産している。例えば、経営者のリーダーシップが強く、そのリーダーを中心に発展してきた企業の典型的なパターンを見てみよう。リーダーからの指示が飛ぶとその直属の部下はそのまま、その下のものへと指示を流し、結果としてその指示を確実に実行するものが評価される。そのような組織の利点を挙げるなら迅速性。
しかしスピードが優先される為、肝心な目的が提示されない。結果として上からの指示に対応することが仕事になり、考えてはいけない、異を唱えてはならないという組織風土が見事に出来上がる。そのようなリーダーとともに成長し、一時代を築いてきた取り巻きはまだ良い。しかし今や、既にこの体制が出来上がった後に入社してくる人たちはこの同調圧力を是とした組織体制についていけずリタイアするという現象が後を絶たない。
この人たちとは1990年後半から2012年代に生まれた「Z世代の若者」に象徴される。この旧人類とZ世代とのギャップはあまりにも大きく、そのことに気づかない組織がとても多い。この世代間ギャップを埋める方法を二言でのべるならは、「健全な人間関係」と「組織の駆動力の変容」だ。彼らが求めるのは、上下関係ではなく、相手への敬意を前提とした対等な人間関係であり、上からのポジショニングパワーで動かされるのではなく、一人ひとりのやる気を駆動力にした組織体制だ。パワハラを黙認している会社はこの重要性がわかっていない。否、「ことの重大性が分かっていない」と言ったほうが正しいか。言わずもがな、今後の日本は少子高齢化、人口減少が加速し、若者は企業間を自由に行き来する。働き方も副業OK専業禁止、リモートワークは当たり前を標榜する会社はどんどん増えていき、この時代の要請に応えられない企業に若者は集まらない。
残念ながらこの社会的な変遷を積極的に受け入れようとしている会社は食品業界では希少だ。これまでの常識が大きく変容している昨今、人が採用できず、定着しない会社の行く末は火を見るより明らかだ。「蛇は頭から脱皮する」とはどこかで聞いた話し。まさに、トップから変わらなければならない。私達は変わるまでの猶予期間がそんなに長くないと認識する必要があるのではないか。
(日本食糧新聞掲載 令和3年8月11日)